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第二章 鳳凰
2-30 願いの先
しおりを挟む鳳凰の儀から数日後。
無明の調子もだいぶ良くなったため、一行はこの地を離れる準備を進めることを決める。次の地は金華。青龍、少陽が待つ地。四神の契約の最後の地でもある。
白獅子、虎斗も光焔での問題が解決したため、無明たちと一時的に旅を共にすることになる。毎年この時期に金華の地で行われる、仙術大会を監督するためであった。この大会には各地から若い公子や有望な術士たちが集まるため、かなり気を遣う大会でもある。
「無明、いや、神子。色々あったが、鳳凰の儀は成功した。本当に感謝している。皆がこの地のために尽力してくれたおかげだ」
鳳凰殿には無明と白笶だけでなく、竜虎や清婉、虎斗も呼ばれていた。蓉緋の左横には花緋が控えており、右横には白鷺老師が立っていた。
「無明殿、正直、私はあの鳳凰を目にした時、懐かしさを覚えました。本来なら畏怖の象徴でもある守護聖獣ですが、まるで昔からそこに存在し、私たちを守ってくれていたかのような、そんなあたたかささえ感じたのです」
実際、朱雀は宝玉を通してこの地を守護していたのだが、それを直接的に感じていた者はいないだろう。この地の地下、あの場所でひとり。いつか訪れるだろう神子を待ち、この地を見守っていたのは事実である。
「うん、老陽様がそれを聞いたら、きっと喜んでくれると思う」
ちょっと変わったひとだが、根は優しい四神だと無明も理解している。民の信仰もさらに強くなることで、より本来の力を取り戻せるだろう。
神と名の付く存在は、信仰する者がいてこそ力を発揮できる。
「蓉緋様、白鷺おじいちゃん、花緋さん。俺たち、明日にはここを発つことにしたよ」
「そうか。ひとつだけ、忘れないで欲しい。君が困った時は、この地を、俺を頼ってくれていい。今度は俺が君のために動く。それに俺は君を諦める気もない。もちろん、ふたりの邪魔をするような無粋なことをするつもりもないが、気が変わったらいつでも言ってくれてかまわない」
冗談なのか本気なのかわからない、読めない笑みを浮かべて蓉緋は言う。その横で呆れた顔をした花緋が嘆息する。
「いい加減、神子殿を揶揄うのはやめるべきです」
「私も神子殿の嫁入りは大賛成ですが、残念ながら望みは薄そうですな」
うるさいぞお前ら、と蓉緋は肩を竦めた。そんなことは自分自身がよくわかっている。すでに本人の口からきっぱりと断られていたが、諦められないのはそれだけ本気だったからだ。今も気持ちは変わらない。
「ありがとう。俺、この旅を通して、自分がなにをしなちゃならないのか、少しだけわかった気がするんだ。神子として、だけじゃなくて、自分自身がどうしたいか、なんとなくだけど」
この先、なにが起きようとも。揺るがないものがある。この国のため、なんて大それたことを願うつもりはなくて。守りたいものを守る。そのために、頑張る。ただそれだけのことが、本当に難しいということも知った。
「次に君に逢うのは、来年の紅鏡の奉納祭かな。今度は正式に君が舞うことになるだろうから、今から楽しみだよ」
「どうかな。俺、紅鏡では周知の痴れ者だから」
へへっといつもの調子で頭の後ろで手を組んで笑い、無明はお決まりの台詞を言う。もう誰も、彼のことを痴れ者などと呼ぶ者はいないだろう。無明が神子であるという事実は、四神の契約を終えた時、この国全土に知れ渡ることになる。
本人が望む望まないに関わらず、その運命は変えられない。
そうやってこれから先、神子として生きていくことを、どう思っているのか。
(私は、君に何をしてあげられるだろう。君が望むこと、したいこと、すべてを叶えてあげたい。けれども君は、本当のことはいつも隠してしまうから)
白笶は無明の横で、少なからず落ち込んでいた。今回、自分はほとんどなにもしてあげられなかった。なにも叶えてあげられなかった。あんな顔をさせてしまったことを、ただ後悔している。
姚泉のことも豊緋を止めようと思えばどうにでもできた。しかしこの地にはこの地のやり方があり、それに干渉する権利は自分にはない。神子の華守ではあるが、それは他の誰かを守るためではなく、あくまでも神子を守るのが役目なのだ。
(宵藍が初めて会った時に、言っていた。自分の事よりまず目の前の民を守って欲しいと。その意味を、今更知るなんて)
神子の心を守るために、必要なことだった。自分が傷つくことよりも、他の誰かが傷付くことの方が怖いのだと。痛いのだと。悲しいのだと。
それでも、白笶にとって一番守りたいのは、守らなければならないのは無明であり、今も昔も変える気はない。もちろん、その中に親しいひとたちや無力な民も入っているが、誰かひとりを守らなければならないという最悪の選択肢が目の前にあったら、迷わず無明を選ぶだろう。
鳳凰殿を後にした無明たちが珊瑚宮へと戻る中、竜虎は虎斗の横である決意を口にする。それは、もう決めたことで、揺るがないものだった。
「伯父上、俺、色々と考えたんだけど、」
「うん、」
「俺、伯父上に負けないくらい強くなって、この国を視る白獅子に、なる」
「なる、か。その真っすぐな気持ちを、忘れないことだ。竜虎、君に私が白獅子として得たすべてを託す。道は遠いが、覚悟はあるかい?」
少し離れた所を歩く無明と白笶の背中を見つめ、竜虎は大きく頷く。なる、と決めた。決めてしまえば、あとは動くのみ。どんなに時間がかかろうとも、絶対に。
「でも紅鏡までは無明たちと一緒に行くって最初に決めてたから。その後は、このことを父上と母上に話して····伯父上のところに行く」
「よし。まずはその大きな一歩として、仙術大会で結果を出すこと。日々の鍛錬を怠らない事。精神を鍛えること。やれることはたくさんあるよ」
はい、と竜虎はその真っすぐな瞳に憧れの存在である虎斗を映し、その優し気な顔に安堵する。少しはこの旅で成長したと思える。そしてまた、次の地へと向かう。問題は山積みだ。今回は一度も耳にしなかった烏哭の存在も、何も解決していないのだ。
奴らが金華の地で、なにもしてこないという保障もない。
「無明様、最後に少しだけ市井を見て来てもいいですか? 光焔で作られる包丁や鍋は、すごく有名なんですよ!」
「そうなんだ! 俺も行きたい! ね、いいよね? 白笶?」
清婉に合わせて空元気な無明が気になったが、白笶に拒否権はなかった。小さく頷くと、満面の笑みで「やったー!」とふたりがはしゃいでいた。
そして、新たな旅立ちの朝。
蓉緋と花緋に見送られ、一行は岩壁に囲まれた要塞、光焔を後にする。意外にもあっさりとした別れだったが、またいずれ逢えると知っているからこそ、そのくらいがちょうど良かった。
向かうは豪華な楼閣が立ち並ぶ都、金華。
またの名を千年不夜の花街ともいう。
昼と夜、まったく違う顔を持つその市井は、無明たちにはまだ早いといえよう。そんなところで開催される仙術大会だが、その辺りはさすがに色々と考慮されているらしい。
そこで待つもの。
それは、新たな出会いと、再会。
様々な想いを胸に、その一歩を踏み出す。
******
第二章 鳳凰 ~了~
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