彩雲華胥

柚月なぎ

文字の大きさ
上 下
115 / 231
第五章 欲望

5-4 猫耳幼女

しおりを挟む


 玉兎ぎょくとの都から西へ進むと、竹林の中に整えられた大道があり、その先に白帝はくてい堂という、白虎と宝玉を祀った堂がある。

 宝玉だけを祀った玄帝げんてい堂や、普通の人間が行けないような場所にある太陰がいた玄武洞と違い、そこには大きくはないが立派な堂が建てられていた。

 この差は一体······と無明むみょうは心の中で同情したが、逢魔おうまが言うには太陰たいいんは拝まれるのが煩わしいらしく、人が出たり入ったりするのを嫌がっていたようで、始まりの神子がその意を汲んだのだという。

 この堂の管理は姮娥こうがの一族が行っており、よく手入れされていた。白虎少陰しょういんはこの堂の屋根の上でいつもは寝ているらしい。しかしぐるりと一周してみてもその姿は見当たらなかった。

少陰しょういん姐さーん?」

 逢魔おうまが遠慮なく堂の扉を開け、中を覗き込もうとしたその時、なにかがものすごい勢いで向かってくるのに気付き、すっと反射的に避けた。

 その丸まった白い物体はくるくると宙で回転し、少し離れた場所にいた無明むみょう白笶びゃくやの正面に綺麗に着地した。

「あ、えっと、はじめまして?」

 自分よりもずっと小さい幼子の姿をしたそれに、思わず声をかける。

 十歳くらいの少女の姿をしたそれは、肩の辺りで切り揃えられた真っ白な髪の中に、左右ひと房だけ黒い髪が混じっており、その頭の天辺には白いふさふさの猫のような耳が付いていた。

 指先が見えないくらいの袖の長い白装束を纏い、首に赤い紐飾りを結んでいて、そこにぶら下がっている金色の鈴がリンと鳴る。

「逢いたかったぞ、神子みこ!!」

 言って、その猫耳の幼女が無明むみょうの腰に抱きついてきた。灰色の大きな瞳が期待の眼差しで見上げてくる。

 目の錯覚でなければ、白と黒の模様が入った尻尾がゆらゆらと揺れているのが視界に入る。

 ど、どうしたら?と隣にいる白笶びゃくやに助けを求めるが、首を振られた。
 その理由はすぐに判明する。

神子みこ、こいつとはさっさと縁を切れとあれほど言ったのに、今世でもつき纏われておるのかっ!?」

「は?え?······つき、纏う?」

「そうじゃ!わらわ神子みこを穢したこの華守はなもりの罪、赦すまじ!!」

「けが········え?」

 白笶びゃくやが右手で目の辺りを覆い、俯いていた。神子みことの永遠の輪廻の契約を解っていて、わざと言っているのは明らかだった。

 そう、少陰しょういんは昔から華守はなもりである白笶びゃくやを目の敵にしていた。

 無明むみょうが見ていないのを良いことに、宣戦布告の不敵な笑みを浮かべて、こちらを見てくる四神のひとり白虎は、四神の中でも極端な性格で有名だった。

 ちなみに太陰たいいんもこの少陰しょういんが苦手である。

「姐さん、久しぶりです」

「おう、逢魔おうまか。百年くらい逢わない間に、また一段とい男になったな!我らの代わりにしっかりと神子みこを守ってくれていたと聞く。いい子だ!」

 跪いて挨拶をする逢魔おうまの頭をなでて、少陰しょういんは満足そうに笑った。この差である。逢魔おうまは立ち回るのが上手いので、少陰しょういんに気に入られていた。

 現に、太陰たいいんに対しては使うことのなかった敬語を使い、跪いて挨拶も交わす。

 少陰しょういんは四神の中でも生まれたのが一番遅く、しかし逢魔おうまよりはずっと年上で、強いて言えば"おばあちゃん"といってもいいくらいだ。
 決して口にすることはないが。

「では、神子みこわらわと契りを交わそうぞっ」

 無明むみょうの方をくるりと振り向き、意気揚々とふんぞり返って見上げてくる幼女、もとい少陰しょういんの勢いに圧され、う、うんと頷くしかなかった。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

学園の天使は今日も嘘を吐く

まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」 家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

処理中です...