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第五章 欲望
5-2 確執
しおりを挟む「姉様、お願いだから、理由を教えてよ!なんで母上をこんな所にっ」
結界牢の見えない壁にへばりついて、椿明は必死に訴える。
後で入れられた自分はともかく、宗主はもう何日もここに囚われていた。疫病がなぜか治っているが、体調は悪そうだった。
「あなたは黙っていればお人形のように可愛らしいのに、どうしてそんな風になってしまったのかしら?」
薄茶色の真っすぐに揃えられた前髪が大人しそうな印象を与える蘭明は、頭の上にお団子を左右に作り、青い小さな花が三つほど付いた飾りを付けている。
残った癖のある髪の毛は背中に垂らしていた。大きな愛らしい灰色の瞳。長い睫毛が彼女の容姿をさらに幼くさせる。
椿明たちとは違い、紺藍の胸元が開いている女性らしい上衣と、裾に白い糸で紋様が描かれた下裳を纏い、藍色の領巾を肩に掛けている。
耳には白と紫の花びらが付いた蘭の小さな耳飾りをつけていた。
「そこで大人しくしていて。私は、宗主代理として、ここに来る大事なお客様をお迎えしないといけないのだから」
「なにをするつもりなの?」
宗主はそれが紅鏡の金虎の公子たちと、碧水の白群の公子である甥であること知っていた。
そして、宗主だけが知っていることを、目の前の娘は知らないのだ。
(どうしたらいいの?神子も一緒だと言うべき?いえ、駄目よ。本当の目的が解らない以上、神子の願いを無視はできない)
あの日、碧水の地に玄武の陣が咲いた次の日。五大一族の宗主だけに伝えられた願い。
ちょうどこの牢に入れられる前にそれは伝えられた。宗主の間でだけ交わされる特別な通霊で、頭の中に直接、白漣の声が響いたのだ。
「ふふ。母上、わかっているでしょう?私が紅鏡から戻って来てからずっとしてきたことを、目の当たりにしたのだから」
「あなた、本当に、どうしてしまったの?」
あの四神奉納祭の後、正しくは、紅鏡を去る前日の夜から。
蘭明はいつものようでどこか違っていた。そして戻って来てから、彼女が人知れず行ってきたこと。それは。
「特別なお人形がやっと手に入るの。誰にも邪魔はさせないわ」
にっこりと右頬に手を当てて、うっとりとした顔で語る様は、異常としか言いようがない。娘の変わりように、宗主も椿明も言葉を失う。
どんな言葉も彼女にはもう通じないのだと、思い知る。
灯篭の仄かな灯が地下を照らしていたが、蘭明が去った後に薄闇へと変わる。外から齎される光はなく、ふたりはただ寄り添うしかなかった。
そして、この日からちょうど三日後。
内情を何も知らない無明たちが都に足を踏み入れ、姮娥の一族の邸の扉を叩く。
そこで待っていたものは、無明たちにとって、かつてない悲劇の始まりだった――――――。
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