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第四章 謀主
4-10 どうしよう!
しおりを挟む無明はなんとか言葉を紡ごうと口を開く。
「きょ、今日はありがとう!日誌は見つからなかったけど、ここに連れて来てくれて嬉しかったよ」
外はもう陽が沈みかけていた。ほぼ一日中食事もせずにいたことになる。
本当なら昼過ぎには帰るはずだったのに、白笶があんなことをしたので、お互いに気まずく、帰る機会を完全に見失ってしまったのだった。
それでも無明は意を尽くそうと、自分の右側を歩く白笶の手を取った。それには白笶も驚いたようで、灰色がかった青い瞳を見開く。
「白笶の手、俺、好きだよ」
夕陽に照らされた頬は、きっとどれだけ赤くても解らないだろう。
このままの状態で邸に帰るのは嫌だった。だって、別にあんな風にされて嫌だったわけじゃない。少し驚いただけ。
よく考えたら、普段は竜虎に抱きついたりしているのだから、今更なにを恥ずかしがることがあろうか。
そもそも今までだって、それ以上のことをしてきた。だから、今になってどうしてこんなにも胸がざわざわするのか不思議でならなかった。
白笶との距離の近さは今に始まったことではない。なんなら最初からずっと近い。こんなに心臓がおかしいのは、あの時、繭の中で手の甲に口付けをされた時以来だった。
そんな気持ちを誤魔化すように、無明はいつもの調子をなんとか演じる。自分の心を偽るのは昔から得意だった。
「今日の夕餉はなにかな~。楽しみだね、」
繋いだ手の温度はまったく覚えていない。何を話したかも、忘れてしまった。とにかくいつも通り、何でもない話を無明はぺらぺらとひとりで話し続けていた。
そして、邸に着いて白笶と別れた後、大きく息を吐き出すのだった。
****
(俺、どうしちゃったんだ!?心臓痛い!頭ぐるぐるする!もしかして神子になったせいで霊力が制御できていないんじゃっ!?)
自分で考えていても支離滅裂な心の声に、いよいよどうにかなってしまいそうだった。こんなことは今までなかったのに、本当に病気なのでは?と心配になる。
別邸の扉の前で百面相をしている無明を見つけ、清婉が首を傾げている。
夕餉の準備が整ったので呼びに来たのだが、なぜか主が扉の前でひとり奇怪な動きをしていた。それを見た清婉の顔が歪む。
(うわぁ······久々に無明様が変なことしてる)
声をかけるのを躊躇う。清婉もまた、久々にものすごい顔をして無明を遠目で見ていた。紅鏡を立ってからというもの、こんなことはしばらくなかったので、油断していた。
しかしそんなことを考えている内に、扉の片方が勝手に開く。竜虎だった。
「なにやってるんだ、そんなところで」
「竜虎!どうしよう!俺、この辺りがおかしいっ」
「いや、お前がおかしいのは頭だけだ」
涙目で懇願してくる義弟に対して、冷静に分析して竜虎は答えた。確かに、と清婉は思わず笑い、ふたりに声をかける。
「夕餉の準備ができましたよー。さあさあ早く行きましょう」
後ろでぎゃあぎゃあと相変わらずの押し問答をしている無明と竜虎に、慣れた足取りで清婉は渡り廊下を歩く。あと二日後にはここから離れてしまうなんて、なんだか感慨深い。
それくらい、ここは居心地が良かった。
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