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第四章 謀主
4-5 これからのこと
しおりを挟む事態が落ち着いた後、三人は今後のことを話し合った。神子であることをまだ認められない無明だが、神子である事実は変えられない。
「逢魔は、俺を神子って呼ぶの禁止」
「あなたの願いなら、従うよ」
とにかく、神子ではあるかもしれないが、まっさらな状態ではどうにもならない。
できることなら、あまり知られなくないし、崇められるなどまっぴらごめんだった。
これまで痴れ者として自由気ままに生きて来たのに、急に態度を変えられてもこちらが困る。
「辛いかもしれないけど、ふたりとも少しずつでいいから昔のことを教えてくれる?」
「承知した」
「うん、わかった。あ、でもいいのかな~。言えないこともあるかも?」
白笶を揶揄う目的のみで、逢魔は余計なことを口にする。
「別にやましいことはひとつもないが?」
全く動じることなく白笶が応えるので、逢魔は首を振って、相変わらず面白くないな、とぼやきながら肩を竦めた。
「俺は、自分が神子だって認められるまで、そうであることをあまり知られなくない。だから、できることなら、宗主以外には知られないようにしたい」
「白群には誤魔化すのが難しいかもね」
「兄上は味方にしておいた方が間違いないと思うが、」
余裕がなかった白笶は、ここに来る前に白冰に対して本音を口にしてしまっていた。玄武の陣を見て、気付けないはずがない。隠したところで意味がないだろう。
「うん、白冰様と竜虎には伝えるつもり。きっとふたりなら、今のままでいてくれる気がするんだ」
「それがいいだろう、」
竜虎は真面目だが、きっと自分の願いを叶えてくれるだろうと無明は思っている。
いつも喧嘩ばかりだが、いつだって最後は自分に譲ってくれたり、ひとつしかない菓子なら、半分に分けた時に必ず大きい方を自分にくれるような義兄なのだ。
「どうでもいいが、そろそろ戻った方がいいのでは?それこそ色々詮索されてしまうだろう。話し合いならどこでもできるのだから、いつまでもこんな所にいないで、早く顔を見せてやった方がいいと思うが、」
ひと区切りついた所で、太陰は三人の間に割って入って来る。いい加減、出て行って欲しいというのが本音だった。
神子だけは、もちろんいつまでもいてくれてかまわないが。
「太陰兄さんは根暗だから、ワイワイしてるのが苦手なんだもんね。ごめんね、気付かなくて」
こいつ······と太陰は眼を細める。
「太陰様、ごめんなさい」
「いいんです、神子は。というか、様付けは止めてください。外も静かになったことですし、ここへはいつ来てくださってもかまいませんから」
しゅんと落ち込むそぶりを見せる無明に、慌てて太陰が駆け寄る。へへっと無明は笑って、うんと頷いた。
「では、帰ろう、」
「うん!帰ろうっ」
そこにはもう、涙はなく、いつもの明るい笑顔が花咲く。白笶は無明に手を差し出して、無明は躊躇うことなくその手を取る。ふたりはそのまま手を繋いで洞穴から去って行った。
「ちょっと待て。なぜお前は出て行かないんだ?」
「だって、俺は、ほら、特級の妖鬼だから」
「特級の妖鬼が神子の眷属のわけがあるか。一体どこの阿呆がそんな等級をお前に付けたんだ?」
「それは褒めてるの?それとも貶してる?」
逢魔は弾むように言葉を並べて、太陰の返しを待っている。
「狼煙······いや、もう別に逢魔でいいだろう?お前は、これからどうするんだ?」
「別に、今まで通りだよ。神子を守る。それだけだよ。違うとするなら、堂々と守れるってこと?」
ずっと遠くで見守っていたが、もう、姿を隠すこともない。けれども、あくまで自分は妖鬼という分類をされており、これから先も訂正する気もない。
あのふたりだけが解っていれば、それでいい。
「ただ、気になることはいくつかある。まだ、確証はないけどね」
言って、逢魔は珍しく難しそうな表情を浮かべるのだった。
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