80 / 231
第三章 氷楔
3-23 ふたりの神子
しおりを挟むその中は真っ暗闇だった。
どれだけ歩いてもなにも変わらず、やはり自分には契約などできるわけがないのだと思ってしまう。
しかしこの暗闇は不思議で、自分の姿だけははっきりと見えるのだ。だからこの空間は本物ではなく、創られたものなのだと妙に納得してしまう。
「捜すにしても······どこをどう捜したらいいんだろう?」
ひとり言になると解っていても、不安を消すために口に出してみる。目印などあるわけもなく、とりあえず前に進んで行く。
「······あれは、」
またしばらく歩き続けていた時、ある変化が訪れる。白い光を湛えた鳥が、小さな翼を羽ばたかせて飛んでいく姿が目に入った。それは唐突に目の前に現れ、無明はそれを目印にして歩を速めた。
だんだんと近づいてくるその光の鳥は、無明の歩幅に合わせるようにゆっくりと羽を上下させ、少しすると顔のすぐ横を飛んでいた。
そして急に目の前に飛び出て来て大きく翼を広げたかと思えば、小鳥のような大きさから、孔雀のような大きな光の鳥へと姿を変えた。
無明は思わず足を止める。
『さあ、私について来て』
鳥が羽ばたくと、光の羽根が数枚舞う。暗闇の中で唯一の光は、大きな翼を広げて前へ前へと進んで行く。無明は足早にその光を追う。
その光はだんだんと大きくなり、突然、真っ暗だった視界が真っ白に染まった。思わず瞼を閉じて立ち止まり、右腕を顔の前に翳して、その光を遮る。
気付けば強い光は止み、ゆっくりと目を開けると、その先に広がっていたのはどこまでも広い空間だった。
そこは、青い空が果てなく続く空間で、足元には踝くらいまでの水面が、空と同じようにどこまでも広がっていた。
透明な水面に天井の空が反射して、上下に空があるのかと錯覚してしまう。
幻想的な空間に、ぽつんと取り残されたかのように無明は立っていた。
「ここは······、」
「ここは、契約の間。神子の記憶が交差する場所」
その声に、思わず、振り返る。
自分とまったく同じ声。
「君、は······だれ?」
そこに立っていたのは、黒い衣を纏い、無明が少し前まで付けていたような仮面で顔を覆った、白銀髪の少年だった。
長いその白銀髪は膝の辺りまであり、老人の白髪とは違い、艶やかで美しい絹糸のようだった。
「私は、始まりの神子」
仮面の奥の瞳は翡翠で、唇しかまともに見えないが、口角が上がっており、どこまでも穏やかなのは解った。
「そして私が、その後に生まれた、始まりの神子の魂を受け継ぐ者」
今度は前の方で声が反響し、無明はもう一度そちらに顔を戻す。
そこには、後ろに立つ始まりの神子と名乗る者とはまた違う、けれども同じ声のもうひとりの神子がいた。
奉納舞の時に無明が着た、白い神子装束に似た衣を纏ったその少年は、鏡でも見ているかのように無明と瓜二つで、まるでここに広がっている空と水面のようだった。
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
学園の天使は今日も嘘を吐く
まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」
家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。

淫愛家族
箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。
事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。
二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。
だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった
たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」
大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる