彩雲華胥

柚月なぎ

文字の大きさ
上 下
59 / 231
第三章 氷楔

3-2 清婉

しおりを挟む


 邸に戻ると宴の準備で弟子たちが忙しく動いていた。白冰はくひょうは進み具合を確認するため、玄帝げんてい堂から戻って来て間もなかったが、抜かりがあってはならないと広間や厨房を見て回っていた。

 白冰はくひょうが厨房に足を踏み入れると、気付いた弟子たちが慌てて挨拶をしてくる。まさかこんな所に公子が来るとは、誰も思っていなかったようだ。

「手を止めさせてしまい申し訳ないね。気にせずに続けてくれ。おや。君は客人だから休んでいて構わないのに」

 蓮の花の模様の白い衣の者たちの中に、黒い衣が混ざって悪目立ちしているので、思わず声をかける。金虎きんこの公子たちの従者である清婉せいえんである。
 
 食材を両手に抱えたままこちらに挨拶をしてきた青年は、包丁を持つ雪鈴せつれいと、まな板を持つ雪陽せつように挟まれていた。どうやら料理を手伝っているようだ。

「いやぁ。何かしていないと落ち着かなくて。どうせならお手伝いをと思って」

清婉せいえん殿は手際が良いし、すぐに理解してくれて助かります」

 こくりと雪鈴せつれいの言葉に雪陽せつようが頷く。

 広い厨房には、この三人と他に五人ほど弟子たちがいた。白群びゃくぐんの一族は従者を召し抱えてはおらず、弟子たちがその役目を担っている。

 弟子たちを纏めているのは雪鈴せつれい雪陽せつようのふたりで、その下に現在は二十人ほどの弟子がいる。

 まだ術士として修業中の者たちだ。術士として称号を得た者たちは宗主を主とし、命令に従い各地の怪異を治めている。

 年に一度だけ皆が集まる日があるが、それ以外は基本的に邸を空けていることがほとんどだった。

白冰はくひょう様、何かご入り用ですか?」

 必要なものでもあるのかと思ったのか、雪鈴せつれいが首を傾げて訊ねてきた。両方の袖を紐で括って汚れないように腕を出して、包丁を手に持つ雪鈴せつれいは、まだ若いのにまるで皆の母親のように見える。

「いや。一応主宰なので進み具合を確認しに来ただけだよ。邪魔になる前に去るから、私のことは気にしないでくれ」

 大きな鍋の方からいい香りのする厨房に長居しても腹が減るだけなので、白冰はくひょうはぐるりと見回して、大扇を揺らしてさっさと出て行った。

白冰はくひょう様は公子の中の公子って感じで素晴らしい方ですね」

 たまに怖いけど······と清婉せいえんは本音の方はしっかりと心の中で呟く。

「俺たちの師でもある。術式や陣は白冰はくひょう様が、剣術や体術は白笶びゃくや様がそれぞれ指南してくれている」

「あんなに若いのに!?やはりふたりそろってすごい方々なんですね」

 雪陽せつようはまな板を置いて、抑揚なく話しているが、清婉せいえんが嫌みではなく純粋に自分たちの師を褒めてくれるので、どこか誇らしげであった。
 

しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

学園の天使は今日も嘘を吐く

まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」 家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

処理中です...