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第二章 邂逅
2-11 約束と誓いと
しおりを挟む「ありがとう、公子様。えっと、あの鬼はここからいなくなったみたいだから、もう、離れても大丈夫だよ?」
宗主たちの傍を離れ、竜虎たちの待つ焚火の前まで歩く。その短い間でさえも、ずっと隣を歩いていた。見上げて、へらへらと笑ってみせる無明とは違い、少しむっとした顔で白笶は見下ろしてくる。
「離れない」
「えっと、あの鬼とは知り合い?」
「······何年か前に一度、顔を合わせたことがあるだけだ」
その顔を合わせた時に、嫌なことでもあったのだろうか?無明は狼煙という名のあの鬼のことを知りたいと思ったが、これ以上は情報を得られそうにないと悟る。
「無明!お前、いい加減、誰とでも仲良くなるのは止めろ。毎回心配する俺の身にもなれっ」
「なんで竜虎が心配するの?別に仲良くなる分にはいいでしょ?あれ~?さっきは俺を心配して来てくれたんだ?へー。ふーん?」
白笶がいることも気にせずに、無明はどすっと地面に胡坐をかいて座り、正面に座る竜虎をからかうように、にやにやと笑いながら言った。
竜虎が小言を言うのはいつものことだが、それは無明を嫌ってのことではない。
「公子様も座って?一緒に休もう」
雪陽から茶を受け取って、立ったまま口元に運んでいる白笶は、首を振る。
「じゃあ俺もずっと立ってようかなぁ······」
「駄目だ。身体を休めて」
よいしょと立ち上がるふりをした無明の肩に手を置き、座るように促す。
茶碗を雪陽に手渡し、白笶はじっと見張るように無明の動きを観察しているようだった。
「そんなに見つめられたら、穴が開いちゃうよ?気になって休めないし。ね?だったら一緒に座ろう?ほら、ここ。俺の横にいてくれる?」
くいっと薄青の衣の裾を軽く引いて、自分のすぐ横の地面をぽんぽんと叩き、ここと指定する。
少し考えた後、わかったと頷いて白笶は大人しく指定された場所に座った。
(········あの白笶公子さえ、これだ。無明は一体どうしてこうも変わり者に好かれるんだ?)
誰にも懐かない野良猫さえ、無明には喉を鳴らす。極端なのだ。ものすごく好かれるか、死ぬほど嫌われるか。
「お前という奴は、本当に······」
「なに?言ってみてよ。恥知らずって言いたいの?それとも痴れ者?悪いけど、どっちも俺には誉め言葉だよっ」
ふふんと自慢げに鼻を鳴らし、行儀悪く斜めに立てた右足の膝に頬杖を付いて、べぇっと舌を出した。こいつ······と心の中で呟きながら、ふんと竜虎は横を向く。
(この、人たらしめ)
本当の無明を知っているのは自分たちだけでいいのに。そうやって無自覚に人を惹きつける。
良いことなのだと頭では解っていても、心が追い付かない。これから出会うであろう人たちすべてと同じように仲良くできるわけではないだろう。
無明を嫌う者や疎ましく思う者もいるはずだ。自分たちを利用しようとする者だっている。
そうなった時に傷付いたりしないように。
(俺が、守るって言ったのに、なんで他に色目をつかう?)
竜虎は遠い昔に自分が言った言葉を思い出した。
幼い頃、あの森で助けられた後に、強くなろうと決めた。邸の者たちの無明に対する態度や母や兄の辛辣な言葉。
いつか、自分が大人になった時、そのすべてから守ると言った。その誓いはずっと忘れていない。
それなのに。
鬼を前になにもできなかった。力もないし、度胸もない。口だけの約束など無意味だ。強くなる。きっと、この旅が終わるまでには。
「とにかく、お前が馬鹿をしないように母上に言われているんだ。いいか?なにか馬鹿な事をする時は先に俺に全部言うんだぞ!」
「えー。先に言っちゃったら、面白くなくなっちゃうじゃん!」
「馬鹿かっ!?」
やあやあと騒がしいふたりをよそに、白群一行は各々静かに過ごしている。邸のある碧水の都までの道のりは遠い。
それぞれの想いを胸に、長い一日が終わる。
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