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第一章 予兆
1-18 招かれざる者
しおりを挟む始まりの神子によってこの地が拓かれた後、光架の民の中から約百年に一度の間隔で、その神子の魂を持つ子供が生まれるようになる。
成長し十五になると山を下り、各地を巡礼し、その地を守護する四神と契約を交わし、その命を国の守護のために尽くすことを誓約する。
始まりの神子と同じ魂を持つ者と、四神の関係は主従で、四神は神子の命にしか従わない。そのため、各地の一族にとって神子の巡礼はなくてはならないものであった。
その頃のこの国は今以上に怪異で溢れており、妖獣や妖鬼も多く存在していた。
当時の神子は、鬼術を操る烏哭の一族と彼らに従う邪悪なモノ、それらを自らの命を以って伏魔殿に封じ、事態を治めたという。
しかしその巡礼は、数百年前の晦冥崗での大きな争いの後、一度も行われていない。神子の魂は伏魔殿に多くの邪を封じる代償として、以降、この世に生まれることはなかったのだ。
その打開策として、行われるようになったのが一年に一度の奉納祭。
奉納舞を行うことで四神に祈りを捧げ、この地の守護を願うのだ。
百年祭の四神奉納舞が特別なのは、かつて神子が巡礼し、契約を交わしていた時期が百年に一度だったから。
各地を守護するそれぞれの四神の契約は、数百年前の最後の神子のままになっているため、四神は直接ではなく、宝玉を媒介にして間接的に力を貸している状態だった。
故に、その地の穢れが溜まれば浄化が必要になる。それが百年祭の特別な四神奉納舞であった。
通常の奉納舞と違うのは、舞う時間が倍以上長いということと、霊力を大量に消耗するということ。
****
本邸は広く、毎年集まる他の一族たちが集っても十分に余裕があった。
中央に置かれた丸い舞台は、歩幅でいえば端から端まで縦横で五歩ずつくらいの幅だろうか。また、東西南北それぞれ、東に青、西に白、南に赤、北に黒の宝玉が置かれていた。そしてその舞台の中央には、四神の長で中央を守護するという黄色の竜、黄龍が描かれていた。
奥の席に金虎、左側に白群と緋、右側に雷火と姮娥の一族が並んで座っている。
奉納祭が始まると、古くから一族が代々読み上げてきた長い祝詞を、金虎の宗主が重みのある声で読み上げていく。続いて、各一族が順にそれぞれの四神へ祝詞を捧げていく。
半刻ほど形式的な儀式が厳かに行われた後、従者たちによって膳が運ばれてくる。綺麗に並べられた精進料理と、盃に注がれていく酒。先ほどまでの重たい雰囲気は消え、賑やかな声すら聞こえてくる。
奉納舞は四神に捧げるものだが、賑やかで華やかである方が良いと言われている。
「藍歌夫人の舞、楽しみね、兄様」
「ああ、しかも百年に一度の特別な舞が見られるなんて、幸運だな」
宗主や母、兄たちの後ろに用意された席に、少し離れて並んで座る竜虎と璃琳は、こそこそと母に聞かれないように囁きあう。
「でも、無明の席は今年も用意されてないのね、」
母にとって、彼はただの痴れ者で、一族の恥さらし。大事な奉納祭でなにか事を起こされるくらいなら、いない者として扱う方が良いと考えている。
(そもそもどうしてあいつは、そんなややこしいことをするんだ?)
母に目を付けられないように、というなら、目立ったことなどせず、静かに大人しくしていた方が絶対に効果がある気がする。
(単に母上を苛つかせて、楽しんでいるだけだったりして)
あり得なくもないその考えに、竜虎は苦笑を浮かべた。
「おい、藍歌夫人は、準備にでも時間がかかってるのか?そろそろ舞台に上がって来る時間だろう?」
近くの従者に小声だが怒鳴るような威圧感で、兄の虎宇が訊ねていた。
「む、迎えは間違いなく、時間通りに邸に向かいましたっ」
「どうしたの?何か問題でも起きたの?」
姜燈はふたりの様子に気付いて眼を細める。周りが賑やかなおかげでこの会話は他の一族の者たちには届いていないようだ。
「なにかあったのかしら?」
璃琳が首を傾げて、前の席の様子を心配そうに見ていた。その後ろに座る親族たちもざわざわとし出したその時だった。
「ちょっと!だめですってばっ!!わーっ!?そっちはもっとだめですーっ」
若い従者の慌てふためく声と、制止を求める声が響き渡った。
「えーなんでなんで?せっかく綺麗にしたんだから、みんなに見せたい~っ」
「いや、だからそれがだめなんですってっ」
遠慮なしに衣を掴み、若い従者はその場からなんとか離れようと、もうひとりの声の主を後ろに引きずる。
広間の入り口にある太い柱の間から、その従者と騒ぎの中心にいる者の細い手と足がバタバタしているのが見えた。
なんだどうしたと、他の一族たちもそちらに注目し始める。
「どうしたの、何の騒ぎ?」
この広い広間でもよく通る声で、姜燈夫人が奥にいる者たちに訊ねる。他の従者たちも集まって来て、若い従者に加勢する。
しかしそんな包囲網をするりと軽やかに抜け、広間に現れたのは、思いもしない人物だった。
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