16 / 231
第一章 予兆
1-16 卑劣な策略
しおりを挟む「白笶公子、お世話になりました。このような状態で失礼するのをお許しください。このお礼はまた後日、改めてさせてください」
それらしく挨拶を交わし、竜虎たちが先に邸を後にする。もう夜も明け外は明るい。
三人が一緒にいる所を従者や他の親族に見られても厄介なので、別々に戻ることにしたのだ。
姿が見えなくなった後、残された無明も邸を出ようと歩き出したその時、一瞬力が抜けてぐらりと身体が傾いだ。
前のめりに倒れかけた身体を、片腕で支えられる。油断していた。ここまで調子が悪くなったのは初めてだった。
「邸まで送る」
答える前にひょいと抱き上げられ、唖然とする。
「だ、だ、大丈夫っ。ひとりで帰れる!」
じたばたと暴れてみたが、少しも怯まない。そのまま白笶は歩き出してしまったのだ。
明け方から騒がしい庭先に、ふたりの従者が同時に顔を出す。視線だけ送って、「少し出てくる」とひと言声をかけると、「お気を付けて」とお辞儀を返すだけだった。
「······君の邸は?」
諦めて、大人しく邸の方向を指差す。無明の邸は、ここからはそんなに離れていない場所だった。
道中、無明が十しゃべり、白笶が一返すというやりとりが続いたが、まったく苦ではなかった。
見慣れた邸の低い塀の前まで来た所で、やっと地面に足が付けられた。細身なのにどこにそんな体力と腕力があるのか、まじまじと下から上にかけて眺めていたら、視線が合った。
「えっと、奉納祭まではまだ時間があるから、狭いけど休んでいく?」
断ると思っていたが以外にも頷いてくれたので、嬉しくなって後ろに回り、背中を押して一緒に前に進む。
門を開けて庭に入ると、年老いた桜の木が迎えてくれた。
縁側からそのまま中へ入る。そこで無明は邸の様子がおかしいことに気付いた。
まだ朝早いが、いつもなら藍歌は起きている頃だ。奉納祭の準備があったとしてもそれにはまだ早すぎる。
「母上?」
声をかけながら奥へ進む。しん、とした邸の中を歩くのは久しぶりで、不安が過った。後ろをついて来る白笶はゆっくりと辺りを見回す。
自分たち以外の物音はしない。
「母上、入るよ?」
藍歌の部屋に声をかけながら入ったその時、不安は的中してしまう。
「母上っ」
駆け寄って、うつ伏せになって倒れている母の身体を仰向けにする。思わず揺さぶろうとした手を、白笶が制止させた。
「動かさない方がいい」
言って、ゆっくりと抱き上げ寝台の方へと連れて行き、丁寧に降ろす。顔色が悪いのもそうだが、なによりもどこか違和感があった。
「母上、聞こえる?」
声をかけると、瞼が少し震え、半分だけだがゆっくりと開かれる。
失礼、と白笶は藍歌の手を取り、脈を診る。眉を顰め、何かを確認するように部屋を見回す。
「夫人、起きてから倒れるまでなにか口にしましたか?」
いいえ、と細い声で答える藍歌は本当に辛そうだった。なぜ白笶はそんなことを聞くのか、と首を傾げた。
「母上には奉納舞が終わるまでは、自分が用意したもの以外は口にしないようにって、言ってたから」
「·····これは、毒の症状だ」
「毒!?」
「鍼をうって気を正せば、毒の巡りも少し抑えられる。白群は医学にも通じているから、役に立てると思う」
0
お気に入りに追加
84
あなたにおすすめの小説

新しい道を歩み始めた貴方へ
mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。
そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。
その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。
あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。
あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……?
※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

心からの愛してる
マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。
全寮制男子校
嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります
※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください
いとしの生徒会長さま
もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……!
しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。


思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった
たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」
大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる