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第一章 予兆
1-13 長い夜の終わり
しおりを挟む紅鏡の都の北側、金虎の敷地内の一角。
毎年この時期に行われる奉納祭のため、各一族従者を含めて十人前後ずつ、数日前にこの地を訪れることになっている。
それぞれに用意された邸は掃除も行き届いており、数日生活するくらいであれば、足りないものはまずないだろう。
客用の邸は本邸ほどではないが広い造りで、部屋数も多いため、お付きの従者たちも不自由なく生活できる。
一族ごとに用意されているので、不要な争いもなかった。
白群の一族は宗主とふたりの公子を含めたった五人しか来ていないため、竜虎たちがひと部屋借りたとしても十分余裕があった。
白笶公子は宗主である伯父に事情を話してくれたようで、無明が目覚めるまで部屋を貸してくれることになった。
背中に白群の家紋である、蓮の紋様が入った白い衣を纏うふたりの従者は、とても礼儀正しく品があり、それでいて手際も良く、無明の寝床を整え、必要なものはすべて揃えてくれた。
竜虎と璃琳は、寝台で眠る無明の横でひと言ふた言話した後、また無言になった。
(下手に仮面に触れられないから、なにかしてやろうにもできそうにない)
額から鼻の先までを覆う白い仮面。
生まれてすぐに宗主の手によって施されたもので、宗主と本人以外が触れれば強い力で弾かれ、触れた者、触れられた者のどちらも怪我をする。
触れた者だけならまだしも、無明までも傷付くため、下手に触れられないのだ。
いったい何のために宗主がこんな危険な物を付けたのか。自分たちには知らされていない。
噂だけを聞けば、生まれた時顔が醜かったからとか、大きな痣を隠すためだとか、邪悪なものに呪われていてそれを封印するためだとか、様々である。
無明もこの件に関してはいつも適当に誤魔化してしまうので、それ以上は聞けなかった。
「璃琳、少し休んだ方がいい」
奉納祭では奉納舞を眺めながら、大人たちは酒を飲んだり一族同士の交流を深めたりするが、子供たちは膳の上に用意された精進料理を食べ終えてしまうと、舞が終わるまでは半刻ほど座ったまま、大人しくしているのが基本だった。
今年の奉納祭は百年祭という節目で、いつもよりも豪華な飾りつけだったり、大きな舞台を特注していた。
虎珀に代わり仕切ることを決めた母は、四神奉納舞という特別な舞を舞う藍歌のために、この五日という短い期間で衣裳も新調していたようだった。
いつもの母なら考えられない行為である。
それだけ、この奉納祭を成功させようという気持ちが大きいのだろう。自分の本来の感情を完全に封じ、利を得る方を優先している。
「俺も少し横になる。お前はもう一つの寝台を借りるといい」
「······うん、」
竜虎は反対側にある空いた寝台に璃琳を誘導すると、自分は無明の眠る寝台を背に、片膝を立てて座り寄りかかった。
疲れていたこともあり、しばらくすると眠気が襲ってきて、そのまま深い眠りについた。
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