彩雲華胥

柚月なぎ

文字の大きさ
上 下
13 / 231
第一章 予兆

1-13 長い夜の終わり

しおりを挟む


 紅鏡こうきょうの都の北側、金虎きんこの敷地内の一角。

 毎年この時期に行われる奉納祭のため、各一族従者を含めて十人前後ずつ、数日前にこの地を訪れることになっている。

 それぞれに用意された邸は掃除も行き届いており、数日生活するくらいであれば、足りないものはまずないだろう。

 客用の邸は本邸ほどではないが広い造りで、部屋数も多いため、お付きの従者たちも不自由なく生活できる。
 
 一族ごとに用意されているので、不要な争いもなかった。

 白群びゃくぐんの一族は宗主とふたりの公子を含めたった五人しか来ていないため、竜虎りゅうこたちがひと部屋借りたとしても十分余裕があった。

 白笶びゃくや公子は宗主である伯父に事情を話してくれたようで、無明むみょうが目覚めるまで部屋を貸してくれることになった。

 背中に白群びゃくぐんの家紋である、蓮の紋様が入った白い衣を纏うふたりの従者は、とても礼儀正しく品があり、それでいて手際も良く、無明むみょうの寝床を整え、必要なものはすべて揃えてくれた。

 竜虎りゅうこ璃琳りりんは、寝台で眠る無明むみょうの横でひと言ふた言話した後、また無言になった。

(下手に仮面に触れられないから、なにかしてやろうにもできそうにない)

 額から鼻の先までを覆う白い仮面。
 
 生まれてすぐに宗主の手によって施されたもので、宗主と本人以外が触れれば強い力で弾かれ、触れた者、触れられた者のどちらも怪我をする。

 触れた者だけならまだしも、無明むみょうまでも傷付くため、下手に触れられないのだ。

 いったい何のために宗主がこんな危険な物を付けたのか。自分たちには知らされていない。

 噂だけを聞けば、生まれた時顔が醜かったからとか、大きな痣を隠すためだとか、邪悪なものに呪われていてそれを封印するためだとか、様々である。

 無明むみょうもこの件に関してはいつも適当に誤魔化してしまうので、それ以上は聞けなかった。

璃琳りりん、少し休んだ方がいい」

 奉納祭では奉納舞を眺めながら、大人たちは酒を飲んだり一族同士の交流を深めたりするが、子供たちは膳の上に用意された精進料理を食べ終えてしまうと、舞が終わるまでは半刻ほど座ったまま、大人しくしているのが基本だった。

 今年の奉納祭は百年祭という節目で、いつもよりも豪華な飾りつけだったり、大きな舞台を特注していた。

 虎珀こはくに代わり仕切ることを決めた母は、四神奉納舞という特別な舞を舞う藍歌らんかのために、この五日という短い期間で衣裳も新調していたようだった。

 いつもの母なら考えられない行為である。

 それだけ、この奉納祭を成功させようという気持ちが大きいのだろう。自分の本来の感情を完全に封じ、利を得る方を優先している。

「俺も少し横になる。お前はもう一つの寝台を借りるといい」

「······うん、」

 竜虎りゅうこは反対側にある空いた寝台に璃琳りりんを誘導すると、自分は無明むみょうの眠る寝台を背に、片膝を立てて座り寄りかかった。

 疲れていたこともあり、しばらくすると眠気が襲ってきて、そのまま深い眠りについた。


しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた

翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」 そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。 チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。

いとしの生徒会長さま

もりひろ
BL
大好きな親友と楽しい高校生活を送るため、急きょアメリカから帰国した俺だけど、編入した学園は、とんでもなく変わっていた……! しかも、生徒会長になれとか言われるし。冗談じゃねえっつの!

心からの愛してる

マツユキ
BL
転入生が来た事により一人になってしまった結良。仕事に追われる日々が続く中、ついに体力の限界で倒れてしまう。過労がたたり数日入院している間にリコールされてしまい、あろうことか仕事をしていなかったのは結良だと噂で学園中に広まってしまっていた。 全寮制男子校 嫌われから固定で溺愛目指して頑張ります ※話の内容は全てフィクションになります。現実世界ではありえない設定等ありますのでご了承ください

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

学園の天使は今日も嘘を吐く

まっちゃ
BL
「僕って何で生きてるんだろ、、、?」 家族に幼い頃からずっと暴言を言われ続け自己肯定感が低くなってしまい、生きる希望も持たなくなってしまった水無瀬瑠依(みなせるい)。高校生になり、全寮制の学園に入ると生徒会の会計になったが家族に暴言を言われたのがトラウマになっており素の自分を出すのが怖くなってしまい、嘘を吐くようになる ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿です。文がおかしいところが多々あると思いますが温かい目で見てくれると嬉しいです。

淫愛家族

箕田 はる
BL
婿養子として篠山家で生活している睦紀は、結婚一年目にして妻との不仲を悩んでいた。 事あるごとに身の丈に合わない結婚かもしれないと考える睦紀だったが、以前から親交があった義父の俊政と義兄の春馬とは良好な関係を築いていた。 二人から向けられる優しさは心地よく、迷惑をかけたくないという思いから、睦紀は妻と向き合うことを決意する。 だが、同僚から渡された風俗店のカードを返し忘れてしまったことで、正しい三人の関係性が次第に壊れていく――

思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった

たけむら
BL
「思い込み激しめな友人の恋愛相談を、仕方なく聞いていただけのはずだった」 大学の同期・仁島くんのことが好きになってしまった、と友人・佐倉から世紀の大暴露を押し付けられた名和 正人(なわ まさと)は、その後も幾度となく呼び出されては、恋愛相談をされている。あまりのしつこさに、八つ当たりだと分かっていながらも、友人が好きになってしまったというお相手への怒りが次第に募っていく正人だったが…?

俺の彼氏は俺の親友の事が好きらしい

15
BL
「だから、もういいよ」 俺とお前の約束。

処理中です...