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第一章 予兆
1-4 痴れ者の想い
しおりを挟む(内緒だよ、って言ったんだけどなぁ)
はは、と肩を竦めて無明は苦笑する。白い仮面、笛、奇怪な術符、特徴がありすぎて噂はどんどん広まってしまったらしい。
仮面は宗主にしか外せないため、素顔はもちろん知られることはないが、噂の種には十分だった。
「仮面を付けていたからと言って、あなただとは断定していないとしても、もしかしたら、と疑念を抱かせてしまうわ。たとえみんなの前ではなんの力もないと見せていても、ちょっとした綻びで偽りが暴かれてしまうこともある」
「わかってる。俺も今の不変で平穏な生活が好きだし、壊したくもない。でも、探究心は抑えられない。ここにあるたくさんの符や術譜を試したくてしょうがないんだ」
好奇心や探究心は、邸に閉じこもってばかりの無明にとって、なによりも一番大事な事だった。
「それに困ってる人を助けるのは悪いこと?力があるなら使わないと。都の術士たちは上物の妖者をすすんで退治したがるけど、誠実な気持ちでやっているのはほんのひと握り。本当に厄介な怪異や妖者には目を背ける者が多い。そんなの、俺は、」
途中まで流暢に話していた無明の声が止まる。
夢中で話していたその視線の先にいる藍歌が、静かに頷いたからだ。その実情は宗主も知っている。
だが、時に命を落としかねない事態もあるからこそ、見極めも必要と結論付けている。
それはどこの一族も同じで、違うとするなら碧水の白群の一族くらいだろうと皆が言うだろう。
「あなたのやっていることを止めるつもりはないわ。あなたは賢いから、言わなくてもわかっているでしょう?今以上に上手くやりなさいということ」
しばし瞬きをして、呆気にとられていたが、にっと笑って無明は文机に頬杖を付いた。
「母上、これ、まだ試験段階なんだけど、面白い符を作ったんだっ」
「ふふ、どんな効果があるの?」
子供のようににかっと笑って無明は得意げに続ける。それを飽きることなく聞きながら、藍歌はうんうんと頷く。
新しい玩具を手にした小さな子供のようにはしゃぐ無明を眺めていると、胸の奥に渦巻いていた不安がすうっと消えていく気がした。
昼を知らせる鐘の音が響くと、邸の従者が昼食を運んで来るので、話はそこで終了した。
従者が来る気配がした途端、無明はばっと勢いよく立ち上がり、くるくると回りながらへたな歌を大声で歌う。
その変わり身の早さに藍歌はくすくすと笑い、入ってきた若い男の従者は、早くその場を去りたいという気持ちからか、それとも絡まれたくないという気持ちからか、さっさと膳を並べて立ち去った。
再びふたりだけの穏やかな時間が流れると、無明はふふんと鼻歌を歌いながら膳を平らげ、部屋に戻り、いつものように書物を読み漁って過ごす。
時折聴こえてくる笛の音は楽しげだったり物悲しげだったり、でたらめだったりする。
藍歌はそんな音色に合わせながら、心のままに舞を踊る。奉納祭まであと五日。薄紅色の花びらがひらひらと舞い込んでくる。
暖かな風と甘い花の香りが邸を彩っているように思えた。
ただ、祈るばかり。
大切なあの子が穏やかに過ごせるように、と。
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