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5章 精彩に飛ぶ
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住良木村は山を切り開いて作られた村である。そのため、斜面に接して階段状に建物が並んでいる。綴歌と五樹のいる場所は、限りなく最上段に近い場所であった。
ゆえに屋根の上を伝いながら、船着場まで移動ができる。人間にとって、真上は意識が逸れがちである。隙をつく上ではこの上ない条件にあるのが不幸中の幸いであった。
一旦集会所に戻り、持てるだけの魔術具を回収する。
「では、行きますわよ」
「おう」
二人が所持している拘束用魔術具は三つずつ、合計六つである。十四人全員を捕縛するには心もとない数である。できるだけ人を集め、一度に複数捕らえなければならない。
対象となるのは得物を持ち、二から三人組で行動している村人である。それらをできるだけ集めるための作戦、それは囮による誘導である。住良木村は碁盤の目のように規則的に通路が設けられている。それを利用する。
囮になるのは、五樹である。綴歌と比べると強化の魔導に長けている。逃げるという行為において、強化の持続率と効率の重要性はいうまでもあるまい。
「よし、じゃあ行ってくるぜ」
ひょいと軽やかに飛び降り、囮らしさを出さぬよう息を殺し、身を潜め歩く。この周囲に村人がいたのは確認済みである。動いていれば遅かれ早かれ見つかるのは確実だ。
ピィという甲高い音が空気を切り裂いた。五樹の姿を一段上から男が捉え、合図である笛を吹いたのだ。その音の方向へ、村人たちは一斉に動き出す。
「来た来た来た来た来たあああああ!」
悲鳴を上げながら五樹が駆け出す。後ろから追いかける村人たちの口からは、物騒な言葉が飛び交っている。ちらりと後ろを見ると五人の男女が鬼気迫る表情で追いかけてくる。
捕まればただではすまないなと、ひやりと汗が流れる。
それぞれの曲がり角には、目印が置かれている。と言っても、知らねば気付かぬようなもので、赤鉛筆で矢印が書かれている。万が一にも迷わないようにするための配慮である。
右に曲がると、しっかりと追ってくる。順調である。
直進し、一段上へ向かい、速度を落としながら、追わせる。逃げ切れられるか捕まえられるか絶妙な距離である。
目的の場所は、用水路をまたいでかけられている小さな橋である。直線距離にして、十メートル。強化の力を上げ、一気に駆け抜ける。
三秒ほど遅れてくる村人たち。この橋の上を五樹がなんてことなく通り過ぎているのだから、何かしら仕掛けがあるなど考えもしない。
全員が橋に上った瞬間、真下から緑色の光がこぼれ、村人たちの全身に無数の輪が形成され、締め付ける。突然の拘束を受け、芋虫の様に転がる。
「よーっし! やったぜ!」
橋の向こうで危機とする五樹、そして、橋の下から姿を現す綴歌。
「はあ、自ら提案したとはいえ靴がびしょびしょですわ」
いくら革張りとはいえ、水は吸う。少し重くなった足を振り、水分を飛ばす。
「とりあえず、五人だ。あとは九人だな」
「ええ。先ほどの笛で随分集まっていることでしょうし、早めに行動しますわ」
二人は再度、屋根へと跳び姿をくらました。
ゆえに屋根の上を伝いながら、船着場まで移動ができる。人間にとって、真上は意識が逸れがちである。隙をつく上ではこの上ない条件にあるのが不幸中の幸いであった。
一旦集会所に戻り、持てるだけの魔術具を回収する。
「では、行きますわよ」
「おう」
二人が所持している拘束用魔術具は三つずつ、合計六つである。十四人全員を捕縛するには心もとない数である。できるだけ人を集め、一度に複数捕らえなければならない。
対象となるのは得物を持ち、二から三人組で行動している村人である。それらをできるだけ集めるための作戦、それは囮による誘導である。住良木村は碁盤の目のように規則的に通路が設けられている。それを利用する。
囮になるのは、五樹である。綴歌と比べると強化の魔導に長けている。逃げるという行為において、強化の持続率と効率の重要性はいうまでもあるまい。
「よし、じゃあ行ってくるぜ」
ひょいと軽やかに飛び降り、囮らしさを出さぬよう息を殺し、身を潜め歩く。この周囲に村人がいたのは確認済みである。動いていれば遅かれ早かれ見つかるのは確実だ。
ピィという甲高い音が空気を切り裂いた。五樹の姿を一段上から男が捉え、合図である笛を吹いたのだ。その音の方向へ、村人たちは一斉に動き出す。
「来た来た来た来た来たあああああ!」
悲鳴を上げながら五樹が駆け出す。後ろから追いかける村人たちの口からは、物騒な言葉が飛び交っている。ちらりと後ろを見ると五人の男女が鬼気迫る表情で追いかけてくる。
捕まればただではすまないなと、ひやりと汗が流れる。
それぞれの曲がり角には、目印が置かれている。と言っても、知らねば気付かぬようなもので、赤鉛筆で矢印が書かれている。万が一にも迷わないようにするための配慮である。
右に曲がると、しっかりと追ってくる。順調である。
直進し、一段上へ向かい、速度を落としながら、追わせる。逃げ切れられるか捕まえられるか絶妙な距離である。
目的の場所は、用水路をまたいでかけられている小さな橋である。直線距離にして、十メートル。強化の力を上げ、一気に駆け抜ける。
三秒ほど遅れてくる村人たち。この橋の上を五樹がなんてことなく通り過ぎているのだから、何かしら仕掛けがあるなど考えもしない。
全員が橋に上った瞬間、真下から緑色の光がこぼれ、村人たちの全身に無数の輪が形成され、締め付ける。突然の拘束を受け、芋虫の様に転がる。
「よーっし! やったぜ!」
橋の向こうで危機とする五樹、そして、橋の下から姿を現す綴歌。
「はあ、自ら提案したとはいえ靴がびしょびしょですわ」
いくら革張りとはいえ、水は吸う。少し重くなった足を振り、水分を飛ばす。
「とりあえず、五人だ。あとは九人だな」
「ええ。先ほどの笛で随分集まっていることでしょうし、早めに行動しますわ」
二人は再度、屋根へと跳び姿をくらました。
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