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4章 挙り芽吹く
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多々羅山の深部へ向かう。山道は隧道の着工前にある程度整備されてたようで、歩くのに苦労はない。
六之介は木々の様相を観察していた。西山は林冠部の高い木々が多かったが、多々羅山は亜高木、低木が多いようだ。日当たりが悪いわけでもないのに、偏りの大きい奇妙な植生をしている。だが、それ以上に気になることがあった。
ここは、多々羅山は静かなのだ。静かすぎると言ってもいい。鳥たちがさえずることもなければ、野犬や狸、鹿の痕跡があるわけでもない。いくら隧道工事が始まっていたとはいえ、ここまで静まり返っているのは奇妙を通り越し、無気味でもあった。
「このあたりが、隧道の果てですわね」
土砂崩れを大きく迂回し、たどり着く。この辺はほぼ手つかずに近い様だ。
「地盤が不安定でしょうから、お気をつけてくださいね」
地面には無数の亀裂が走っている。確かにかなり不安定であるようだ。
二手に分かれて調査することになったのだが、六之介にとっては初の任務であるということで、華也か綴歌が付きそうこととなった。
六之介としては、気心の知れた華也とが望ましかったのだが、当人は綴歌と六之介が組むことを勧めた。断るべきかとも考えたが、華也の強い意志を曲げることが出来るとは思えず、頷くことしかできなかった。
「……」
「……」
綴歌が先導し、そのあとを六之介が追う。二人の間に会話はない。ここで喧騒を立てて、言い争いでも起こればまだ救いはあるのだが、それすらない。
内心では、二人とも話すきっかけを探っているのだが、お互いにそれを知る由はなく、重い沈黙が続く。
それを破ったのは、六之介であった。
「こういう調査って、何を目途にするっていうか、何を探しているんだ?」
六之介にはただ当てもなく、ふらふらと山中を歩いているようにしか見えなかった。
「え、ええ、基本的には魔力ですわよ。魔力というのは、痕跡として長く残りますの」
「痕跡?」
「ええ、例えば今我々が歩いた場所にもはっきりと残っておりますわ。そうですね、色で例えると分かりやすいでしょうか……我々の魔力を赤、地面の魔力を青、その2つが混じると紫になるでしょう? その色は他と混ざらぬ限り、そこにあり続けるのです。もっとも、多少はにじむことはありますけれど」
六之介には見えない、彼女らには見える痕跡。六之介が異質な存在であるという証拠。
「ですが……これはいったいどういうことなんでしょう」
綴歌が首をかしげる。
「どうしたの?」
「魔力は万物が有するもので、それぞれ持つ量と質が異なります。指紋のようなもので、個々の魔力波長があるのです。なのですが、ここにはそれがないのですわ」
「は? どれも同じってこと?」
「ええ、量も質も全く同じ。まるで全てが同じ生物であるようで不気味ですわ」
指紋や声質はおろか、容姿までも同じ人間が並んでいる様子を想像すればいいだろう。整然と並ぶ人工物や自然の造形ではないのだ。生の存在が、本来は異なるべきものが、全て等しくある。それは、ひどく不気味な光景であろう。
「原因は?」
「分かりませんわ」
記帳する。事細かく、図も描き、まとめている。
「それは?」
「報告書を作らねばなりませんから、情報をまとめることが必要なのですわ」
「へえ」
「ああ、そういえば、報告書で華也さんや貴方のことを書かなければならないのですけれど……」
六之介を見る。
「貴方は、何者なんですの?」
「何者って?」
「貴方の出自に関しては、魔導官としての登録名簿を見れば分かりますわ。ですが、それだけではないのでしょう?」
確信を得ているような物言いであった。
「いくら『継人』であろうと、あれほど……」
「『つぎと』?」
「魔導官でもないのに異能を持っている人物のことですわ。極僅かですが、貴方のようにいるのですよ」
魔導官としての登録する際、自分が異世界から来た超能力者であるということは秘匿にされたようだ。その代り、『継人』であるとされたわけだ。
「へえ、知らなかった」
「それですわ」
「は?」
「『継人』は魔導官学校で習うこと。貴方はそれを知らないことからも魔導官学校に通っていないと分かりますわ。だというのに」
ずいと顔を近づける。額同士がくっついてしまいそうな距離である。
「貴方は、戦い慣れている。それも、異能を有する人たちと。それは何故ですの?」
藍色の瞳が真っ直ぐに向けられる。曇り一つない、夜明け前の空のような濃い青色。
どんな嘘でも見抜いてしまいそうな眼力だった。
「それは……」
口を開いた、その時であった。
ぐらりと足元が揺れ、視界が反転する。一瞬の浮遊感に、全身が強張る。行動を判断がするよりも早く、視界が狭まり、闇にのまれていく。
落下している、そう感じると同時に、世界は反転していた。
六之介は木々の様相を観察していた。西山は林冠部の高い木々が多かったが、多々羅山は亜高木、低木が多いようだ。日当たりが悪いわけでもないのに、偏りの大きい奇妙な植生をしている。だが、それ以上に気になることがあった。
ここは、多々羅山は静かなのだ。静かすぎると言ってもいい。鳥たちがさえずることもなければ、野犬や狸、鹿の痕跡があるわけでもない。いくら隧道工事が始まっていたとはいえ、ここまで静まり返っているのは奇妙を通り越し、無気味でもあった。
「このあたりが、隧道の果てですわね」
土砂崩れを大きく迂回し、たどり着く。この辺はほぼ手つかずに近い様だ。
「地盤が不安定でしょうから、お気をつけてくださいね」
地面には無数の亀裂が走っている。確かにかなり不安定であるようだ。
二手に分かれて調査することになったのだが、六之介にとっては初の任務であるということで、華也か綴歌が付きそうこととなった。
六之介としては、気心の知れた華也とが望ましかったのだが、当人は綴歌と六之介が組むことを勧めた。断るべきかとも考えたが、華也の強い意志を曲げることが出来るとは思えず、頷くことしかできなかった。
「……」
「……」
綴歌が先導し、そのあとを六之介が追う。二人の間に会話はない。ここで喧騒を立てて、言い争いでも起こればまだ救いはあるのだが、それすらない。
内心では、二人とも話すきっかけを探っているのだが、お互いにそれを知る由はなく、重い沈黙が続く。
それを破ったのは、六之介であった。
「こういう調査って、何を目途にするっていうか、何を探しているんだ?」
六之介にはただ当てもなく、ふらふらと山中を歩いているようにしか見えなかった。
「え、ええ、基本的には魔力ですわよ。魔力というのは、痕跡として長く残りますの」
「痕跡?」
「ええ、例えば今我々が歩いた場所にもはっきりと残っておりますわ。そうですね、色で例えると分かりやすいでしょうか……我々の魔力を赤、地面の魔力を青、その2つが混じると紫になるでしょう? その色は他と混ざらぬ限り、そこにあり続けるのです。もっとも、多少はにじむことはありますけれど」
六之介には見えない、彼女らには見える痕跡。六之介が異質な存在であるという証拠。
「ですが……これはいったいどういうことなんでしょう」
綴歌が首をかしげる。
「どうしたの?」
「魔力は万物が有するもので、それぞれ持つ量と質が異なります。指紋のようなもので、個々の魔力波長があるのです。なのですが、ここにはそれがないのですわ」
「は? どれも同じってこと?」
「ええ、量も質も全く同じ。まるで全てが同じ生物であるようで不気味ですわ」
指紋や声質はおろか、容姿までも同じ人間が並んでいる様子を想像すればいいだろう。整然と並ぶ人工物や自然の造形ではないのだ。生の存在が、本来は異なるべきものが、全て等しくある。それは、ひどく不気味な光景であろう。
「原因は?」
「分かりませんわ」
記帳する。事細かく、図も描き、まとめている。
「それは?」
「報告書を作らねばなりませんから、情報をまとめることが必要なのですわ」
「へえ」
「ああ、そういえば、報告書で華也さんや貴方のことを書かなければならないのですけれど……」
六之介を見る。
「貴方は、何者なんですの?」
「何者って?」
「貴方の出自に関しては、魔導官としての登録名簿を見れば分かりますわ。ですが、それだけではないのでしょう?」
確信を得ているような物言いであった。
「いくら『継人』であろうと、あれほど……」
「『つぎと』?」
「魔導官でもないのに異能を持っている人物のことですわ。極僅かですが、貴方のようにいるのですよ」
魔導官としての登録する際、自分が異世界から来た超能力者であるということは秘匿にされたようだ。その代り、『継人』であるとされたわけだ。
「へえ、知らなかった」
「それですわ」
「は?」
「『継人』は魔導官学校で習うこと。貴方はそれを知らないことからも魔導官学校に通っていないと分かりますわ。だというのに」
ずいと顔を近づける。額同士がくっついてしまいそうな距離である。
「貴方は、戦い慣れている。それも、異能を有する人たちと。それは何故ですの?」
藍色の瞳が真っ直ぐに向けられる。曇り一つない、夜明け前の空のような濃い青色。
どんな嘘でも見抜いてしまいそうな眼力だった。
「それは……」
口を開いた、その時であった。
ぐらりと足元が揺れ、視界が反転する。一瞬の浮遊感に、全身が強張る。行動を判断がするよりも早く、視界が狭まり、闇にのまれていく。
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