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大槍武祭編
10話
しおりを挟むやっちまった…。
心に芽生えた罪悪感。父に怒られるかと思うと憂鬱になる。
影丸は視線をシャルロットの方へ向けた。安心したのだろう。本当に嬉しそうな顔で拍手を送る。影丸の視線に気づくと急いで目をそらす。
影丸の顔に笑みがこぼれる。
まぁ、いいか…。
影丸は勝利をアピールする様に左拳を上げ、会場を後にする。観客から今まで一番大きな拍手と歓声が上がる。
会場を出た所、色んな人が影丸に声をかける。そんな中、人混みを搔きわけるとシャルロットが立ち塞がる様に立っていた。
そういや、怒らせたままだった。
「えーっと……その…悪かったな。」
「何が?」
強い口調での返答。
「悪い。怒ってる理由も分からん。だが、多分俺が何かしたんだろう。あんなに怒ってたんだし。怒っている理由も分からず謝るだけって言うのは納得いかないかも知れんが、俺もどうしていいか分からん。だから……すまん。」
少し沈黙して、大きな溜息を吐く。
「今日、優勝したからお祝いってことで許してあげる。」
顔をそらし、照れた様子で言う。
顔に出さずホッとする。だが、一番ホッとしているのはシャルロットだ。嫌われてたらどうしよう。そんな事を考えていたシャルロットは影丸の第一声を聞くまでどんな言葉を言われるのかヒヤヒヤしていた。
「影、最初何であんなにやられてたの?」
シャルロットの疑問、恐らく観客の多くが思っている事だろう。人の少ないところへ行き、本当のことを話す事も一瞬考えたが、やはり良くないだろう。
「愛のパワーだな」
「はい?」
「あの時、シャルの声が聞こえてきて、何かしらんが力が湧いてきた。もしかしたら、これが俺のスキルなのかもしれないな」
「なっ何言ってるの?!」
平然と臭い台詞を吐く影丸に、恥ずかしそうに答える。
まぁ、もちろんスキルなどではない。だが、あながち間違っていない様な気がする。
影丸の臭い台詞のせいで話が終わる。
決勝戦から一時間後、表彰式。
ベスト4までが表彰される。
表彰式の場には冬瓜の姿もあった。決勝戦、かなりの深傷をだった筈の傷も治癒魔法により完治している様だった。
「よう!優勝おめでとう!!」
冬瓜は何事も無かったかのように景気良く話しかける。
「ありがとう、怪我はもういいのか?」
「ああ、もう完全に回復してるよ。」
「ならよかった。」
「次の大会は俺がお前の怪我をさせてやる番だからな!」
あまり負けた事は気にしていない様子で少し安心する。
今回大会の順位は
優勝 真田影丸。
準優勝 上杉冬瓜。
三位 同率 四方銀次、二式空。
名前を呼ばれ優勝旗を授与される。師範から一言「おめでとう」と言われ、「ありがとうございます」と、返す。影丸は優勝旗を掲げる。観客から拍手と大歓声が上がる。
「これを持って、第四十回、大槍武祭を終了する。」
師範の大会終了宣言で幕を閉じた。
大会終了後、祭りも最終日。
影丸は知人からそれ以外かはもお祝いの言葉をもらい、大会終了直後は全く身動きが取れないほどチヤホヤされた。
落ち着いた頃にはもう日が暮れ、パレードが始まっていた。
辺りは話し声に笑い声、夜空には花火が打ち上がる。
毎年の事だが、このパレードの中、花火を見ると、いつも切なくなる。祭りの終わりをしみじみ感じる。
そんな祭りの最後、楽しい時間。影丸はシャルロットとパレードを見ている。
この誰もが楽しんでいる時、暗い路地裏で殺気立ちながら話す者がいた。
「やってくれおったのぉ!」
「申し訳ありません」
「自分が何したか、わかっとんのか?」
「……はい」
「結果出てる事に後からどうこう言っても仕方ないけど、お前が仕出かした事は前代未聞やぞ!」
「はい。この結果は私の未熟さ故の事。如何様な罰もお受けします。」
「ふん!わかっとんのやったらええ。明日から俺がお前をしごいたる!殺す気で稽古つけたる!根あげたらホンマに殺すからな覚悟しとけ!!」
「はい!」
上杉家当主と冬瓜のやり取り。冬瓜は影丸に負けた事で上杉家、上杉流に恥をかかせた。
確実に上杉流を学ぶ殆どの武人に恨まれる事になるだろう。
だか、次戦う時、冬瓜はもっと強くなっているだろう。
パレードも終わり、今年度の大槍武祭終わりを迎えた。
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