無口な彼が獣になったら、溺愛モードで困ってます

ずー子

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第1章

8、男二人で入るには、シャワーブースは狭すぎる

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「ねえ、ジェラルド」
 宿に着いてからもずっと上の空でいるジェラルドにリアムが声をかけた。だが返事はない。それでもめげずにもう一度呼びかけるとようやく彼はこちらを向いた。その瞳は相変わらずどこか虚ろで焦点が定まっていないように見える。やはり『月狂い』の発作を起こした時の症状が残っているようだ。
(発症直後は月の周期に左右されて意識が混濁したり、理性がきかなくなったりするって書いてあったけど…)
 学生時代図書館で拾った知識を思い返す。魔法で空中に表示ディスプレイを出してもいいが、本人が発症していることを理解しているならまだしも、どうもそうではないのであれば、下手に刺激するのは危険かもしれない。
(そもそも、闇属性の魔法や呪いに起因する症状のはず…僕の知る限りそうした兆候は見られなかった…)
 まあ自分の方がより重篤な呪いをかけられていたのだが。解毒の儀式と言う名で抱いてもらえたお陰でリアム自身はすこぶる元気だが、もしかしてその影響を多少なりとも受けたのだろうか。
(僕が『番』と言われたことで身体に起きた変化みたいに…)
 きゅっと拳を握る。当人以外にも影響を与えれる可能性はないとは言い切れない。もし自分のせいでおかしくなってしまったら、どうしたらいいんだろう。
 不安に駆られるリアムだったがそんな心配を余所に、ジェラルドは突然リアムの腕を掴んだ。
「え?な、何?」
 驚いて声を上げるが彼は無言のままだ。そのまま強く引き寄せられて抱きしめられる形になってしまった。
「……っ!?」
 突然のことに頭が真っ白になる。だがすぐに我に返り慌てて離れようとした。だがジェラルドの腕の力が強く逃れることができない。
「リアム…」
(ちょ、ちょっと待って!)
 心臓が激しく鼓動しているのが分かるほど緊張していた。顔が熱い。きっと真っ赤になっているだろう。
「…やっと、二人きりになれた」
「!!」
(ひゃーーーーー!!!待って待って待って!!心の準備が…!!!)
 不意に耳元で囁かれて全身が硬直する。吐息混じりの声が妙に艶っぽく聞こえた気がした。心臓がバクバクと音を立てているのが分かるほどだ。だがそれでも何とか平静を装って答えた。
「そ、そうだね……二人きりだね……」
 そう答えるのが精一杯だった。だがジェラルドはリアムの言葉など耳に入っていないかのように続ける。
「……ずっとこうしていたかった。こうしてお前に触れていたい……」
(やばいやばいやばい…!!こ、こんなのずるい…!!どうしよう…!!)
 さらに強く抱きしめられ、リアムはもう何も言えずにただされるがままになっていた。心臓の音がうるさいくらいに鳴っているのが分かるほどだった。このままだと死んでしまうんじゃないかと思うくらい胸が苦しい。
(でも……それでもいいかも、なんてね…)
 叶わぬ恋に身を焦がしているリアムにとって、このまま死んでしまったとしても本望だと思えるほどに幸せな気分だった。だがそんな思いとは裏腹にジェラルドの腕の力が弱まっていくのを感じた。名残惜しさを感じながらも大人しく解放されると彼の顔を見る。
「あ……」
 思わず声が出てしまった。何故ならジェラルドの表情は今まで見たことがないくらいに穏やかだったからだ。まるで別人のように穏やかな表情を浮かべている彼を見てリアムは戸惑った。
(こんな表情もするんだね……)
 そう思った矢先だった。優しく首筋にちゅ♡と音を立ててキスをされる。呆然としたまま目の前の人物を見つめていると彼は微笑みながら言った。
「愛している」
(ひゃーーーーー!!!ち、直球!!!!)
 その一言を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなるのを感じた。
(こ、こんなのずるい…!ドキドキしすぎて死んでしまう…!ジェラルドのデレ成分の破壊力強すぎ……!)
 心の中で叫ぶが声に出すことはできない。悶え苦しむ心を殺し、ただ黙って俯くことしかできなかった。
「どうした?具合が悪いのか?」
 心配そうに聞いてくる彼に慌てて首を振ると笑顔を作って見せた。だが上手く笑えた自信はない。それでも精一杯の笑顔を浮かべて言った。
「ううん、大丈夫だよ!それよりお腹空かない?ご飯食べに行こうよ」
 そう言って誤魔化すことにしたのだが、それが逆効果だったらしいことにすぐに気付いた。ジェラルドの目がすわる。
(あれ……?なんか怒ってる?)
 不思議に思っているうちに腕を掴まれてベッドに押し倒される。
「えっ?ちょっ……?ジェラルド!?」
 慌てて声を上げると彼は真剣な表情でリアムを見つめていた。
「飯よりお前がいい」
 そう言うなり唇を重ねられる。先程の穏やかさとは比べ物にならないくらい激しい口付けに頭がクラクラしてきた。歯列をなぞられ舌を絡め取られる感覚に背筋がゾクゾクする。リアムの意識が蕩けてきたところでようやく解放された。
「はぁ…はぁ…」
 呼吸を整えつつ見上げると彼は相変わらず真剣な表情のままリアムを見つめていた。だが、金色になった瞳には情欲の色が宿っていて瞳孔は朝のように細く、正気とは思えない状態だった。
(…やっぱりまだ発作の影響が…!)
 肩口に顔を埋めて匂いを嗅ぐ。愛情深いがその分嫉妬深いという、狼のような特徴が色濃く出ているように思う。
「ね…せめてシャワー浴びたい……良いでしょ?」
 甘え声で訴えてみが「駄目だ」と即答されてしまった。
「なんで?」
 不満げに尋ねると彼は意地悪そうな笑みを浮かべて言った。
「お前の汗の匂いも味わわせてくれ」
 その瞬間、リアムの顔は真っ赤になった。恥ずかしさのあまり涙目になりながら叫ぶように言った。
「ばかっ!!」
 だがジェラルドは意に介していないようで再び首筋に顔を埋めてきたかと思うと舌を這わせ始めた。その感触に身震いしてしまう。
「やだ…恥ずかしいから…ね…?お願い…」
 涙目になりながら訴えるとジェラルドは固まったように動きを止めてリアムを見つめた。
「…可愛いな」
 ぽつりと呟かれた言葉に耳を疑う。
(ひゃー…絶対言われない!正気なら絶対言われないよ…!)
 一生噛み締める勢いでリアムは感動していた。だがそれも束の間のことだった。
(うぅ…ジェラルドの彼女さんごめんなさい…本当にごめんなさい…でも治るまでの間だけ、この人の『番』でいさせてください……!)
 心の中で謝罪しながらリアムはジェラルドの背中に腕を回した。そして自分からもキスをするとそのまま身を委ねることにしたのだった。
***
 ジェラルドは高揚感に満ち溢れていた。愛する番の温もりを感じながら何度も唇を重ねる。
「ジェラルド、好き……大好き……」
 舌足らずな口調で訴えてくるリアムが愛おしくて仕方がなかった。そのまま押し倒してしまいたい衝動に駆られるも理性を総動員させて抑え込む。今はただ彼に溺れたい気分だったからだ。
(…本当に、可愛い)
 リアムが自分を求めてくれているという事実だけで心が満たされていくのを感じた。この時間が永遠に続けばいいとすら思うほどだ。だがそれと同時に得体の知れない焦燥感に苛まれているのも事実だった。早く自分のものにしたい。急がなければならない。胸が苦しくてどうにかなってしまいそうだ。食べ尽くしてしまいたい。じりじりと理性が焼かれていくような感覚に目眩すら覚える。
「リアム……っ」
 思わず名前を呼んで強く抱きしめると彼は小さく喘いだ。それがまた可愛らしくて仕方がない。もっと声が聞きたかった。もっと自分を求めて欲しいと思った。だから何度も繰り返しキスをした。そしてその度に思うのだ、この時間が永遠に続けばいいのに、と。
 故郷に恋人のことも、美しい令嬢との婚約もどうでもいい。本能のまま欲しいものを求めることの喜びを感じながら、リアムの首筋に顔を埋めると大きく息を吸い込んだ。鼻腔に広がる甘美な香りに酔い痴れそうになると同時に頭がクラクラとしてきた。だがそれでも構わず舌を這わせていくうちに下半身に熱が集中していくのを感じた。ズボンを押し上げる己の欲望の大きさを自覚しながらジェラルドは自嘲した笑みを浮かべた。
(浅ましいな…)
 理性では抑えきれない衝動に駆られている自分が滑稽で仕方がなかった。だが、だからと言ってやめる気もなかった。なぜならこれは自分のモノだ。大事で仕方がない番だ。誰にも渡したくない。自分だけのものにしたい。そんな独占欲に似た感情が湧き上がってきて止まらないのだ。
 リアムの首筋に顔を埋めて匂いを嗅ぐとそれだけで頭がクラクラするような感覚を覚えた。汗の匂いの中に混じるフェロモンが鼻腔を刺激し脳髄まで痺れるような甘い感覚をもたらしてくる。まるで媚薬のようだと思うほど甘美なものに感じられた。
「ごめんなさい…ジェラルド…僕君のことが好きなんだ…君は正気じゃないのは分かってる…でも、でも…!」
 リアムが何かを呟いているが、そんなことはどうだって良かった。ただ今はこの甘美な匂いに包まれていたい。ただそれだけだった。
「愛している」
 耳元で囁くとそのまま耳朶を食んだ。そして舌先でなぞるようにして舐め上げる。すると彼はびくりと身体を震わせた後に甘い吐息を漏らし始めた。それがまた愛おしくて仕方がなかったのだ。もっと感じて欲しくて、何度も繰り返した。
「愛してる……愛してる……」
 その度にリアムは身体を震わせていた。リアムが小さな声で何かを言ったような気がしたが、それはあまりにも小さな声だったため聞き取れなかった。
(俺のモノだ…俺だけの…)
 煌々とした月夜の光に包まれるように、ジェラルドは瞼を閉じた。
***
「…というわけで、大きな犬みたいな感じだったよ」
 ジェラルドの様子を聞かれたので、エマにそう伝えるが、エマの表情頑なだ。
「リアム、貴方…」
「うっ…」
 ぽろりと涙がこぼれる。
「僕、実はジェラルドのことが好きで…」
「えぇ、えぇ」
「でも、言えるワケもなくて…」
「そうね…」
「こんなこと間違ってるのに、ジェラルドに甘えられるの、嬉しいって思っちゃって…本気じゃないのに…ジェラルドを騙してるみたいで……」
「リアム……なんて健気なの!」
 リアムの懺悔のような告白にエマは声を上げた。
「ありがとう、エマ…でも僕はそんなにいいやつでもなんでもないんだ……」
 くすん、と鼻をすすりながら、リアムは呟く。
「彼の異変を見抜けなかったのは、恥ずかしいことだと思う。何か兆候があったかもしれないのに、自分のことで精一杯で、気づけなかった…」
 『月狂い』は、感染説もあるが、強いストレスから発症するとも言われている。あんなに側に居たのに、気づけなかったのは悔しい。
「…リアム」
「それにジェラルドがどこまで自分の状況をわかっいるのかも不明だ。発症の経緯は色々あるけれど、悪化すれば完全に理性を失って、最悪の場合魔物になる可能性もある。そんなことになったら、僕が僕を許せない」
 真顔で頑なな表情を浮かべるリアムにエマはただ「そうね…」としか言えないでいた。
「それで、一旦王都ではない村に迂回するわけね」
 過去にお世話になった薬屋さんに会いに行くのだと、リアムはエマにだけ目的地を伝えていた。既に先方に行く旨は伝えている。
「エマと琥珀はここで別行動でも構わないよ。報酬はもう貰えるだろうし」
「安心して、私も琥珀も、次の目的地までは同行するわ。それに、ジェラルド抜きで報酬を貰う訳には行かないもの」
「…そっか、ありがとうエマ」
 リアムは思わずほろりとしてしまいそうだった。優しい旅の仲間達のためにも、自分が解決の糸口を探さないとと、改めて心に誓うのだった。
***
「あ、起きた?おはよ」
「…寝てたのか」
 寝起きで隙だらけな姿に思わずリアムは微笑む。エマと別れて戻ってきた部屋はもうすっかり夜へと変わっていた。
「そうそう。夕飯も食べないでね」
「ん……」
 ジェラルドは眠気眼をこすりつつ身体を起こすと、そのままリアムを抱きしめた。そして頬や首筋などに軽い口付けをする。
「くすぐったいよ」
 クスクス笑いながらリアムは身を捩った。
「シャワー浴びるから、離して?」
 やんわりそう言われて、ジェラルドはそっと腕を解く。
(素直に従ってくれてる…!)
 内心ホッとしたリアムだったが、すぐにその考えを改めることになる。
「…なら俺も一緒に入る」
「え!?」
 予想外の答えにリアムが驚いているうちに、ジェラルドは服を脱ぎ始めてしまう。慌てて止めようとしたが間に合わず、あっという間に裸になってしまった。
「あ……」
 思わず見惚れてしまったリアムはハッと我に帰ると慌てて視線を逸らす。だがそれも束の間、腕を引かれて抱き寄せられてしまった。
「ひゃっ!」
 バランスを崩したリアムはジェラルドの腕の中に収まってしまう。そして耳元で囁かれる。寝起きのかすれ声が色っぽい。
「……どうした?」
「い、いきなりだから、その…びっくりして……」
 リアムは顔を真っ赤にしながら答えた。するとジェラルドはニヤリと笑う。
「なんだ?自分の貧相な身体と比べて自信を無くしたのか?」
「っ!ち、違うし!」
(あー嫌味!これでこそジェラルド!)
 リアムは内心悪態をついた。だが、同時に安堵もしていた。
「じゃあ先に入っていいよ、僕は後で……」
「一緒に入るぞ」
 リアムの言葉を遮るようにしてジェラルドは言った。その言葉にリアムは目を丸くする。
「……え?今なんて?」
 聞き間違いだろうかと思い聞き返すと、ジェラルドはもう一度同じ言葉を繰り返した。
「一緒に入ればいいだろう?」
「え……いや、それはちょっと……」
(そ、それはちょっと心の準備が…!!!)
 実際初めてセックスした時にお風呂に運んでもらったし、もう隠すものなんてないくらい全部見られたけれど、それでもリアムは恥ずかしかった。あの時は情後の高揚感で恥ずかしさも麻痺していただけだ。だが今は冷静そのもので、そんな中で一緒に入るというのはハードルが高い。
 だがジェラルドは不満そうに眉を寄せた。そしてそのままリアムを抱き上げると浴室へと向かう。
「ちょ、ちょっと!降ろしてよ!」
「断る」
「なんで!?」
「シャワーを浴びると先に言ったのはお前だろう。なぜ嫌がる」
(恥ずかしいからに決まってるだろ!!)
 心の中で叫ぶがジェラルドには届かない。結局抵抗虚しく服を脱がされてしまい裸になってしまった。そしてそのまま浴室へと連れていかれるが、あまりの狭さにドギマギしてしまう。
「せ、狭いね……」
「そうだな」
(なんで冷静なの!?)
 リアムが内心ツッコミを入れているとジェラルドは蛇口を捻った。温かいお湯が出てきて2人の身体を濡らす。
「あ…っ」
 思わず声が出てしまいリアムは顔を赤くした。するとジェラルドはリアムを後ろから抱き寄せるように、そのまま身体に触れ始める。
「んっ……ちょっと……!」
「……どうした?」
「ど、どうしたのって……」
(え!?どういうこと!?)
 てっきりこのまま襲われると思っていたリアムは混乱していた。まさか本当に一緒にシャワー浴びるだけ?いやいやそんなはずない!でもそれなら何故こんなことを……? そんなことを考えている間にもボディソープをつけたジェラルドの手がリアムの身体を這い回る。
「ゃっ……♡」
 脇腹を撫でられて思わず声が出てしまう。そのまま胸を優しく揉まれると先端がツンと主張し始めた。それを見逃さなかったジェラルドは指で摘んで刺激を与えてくる。
「ひゃっ♡あ、やぁ……!♡♡」
(なにこれ……気持ちいい……!)
 自分でするよりも断然気持ち良くて腰が勝手に揺れてしまう。もう片方の手は腰に回され、ぐっと身体を寄せてきた。そのせいでお互いの胸と胸が密着してしまう。
「はぁ……っ♡」
(肌、熱い……♡)
 触れ合っている部分が全部熱くて溶けてしまいそうだった。
「どうした?身体を洗っているだけだろう?」
 ジェラルドはそう言って笑う。確かにその通りだけれど、これは愛撫だ。しかも裸で密着しているためダイレクトに体温を感じてしまい意識せざる得なかった。
(い、意地悪……!)
 リアムは心の中で悪態をつき、睨みつける。黒髪が水に濡れていつもよりセクシーに見えるのも腹が立つ。何より、リアム自身だってそれなりに鍛えているのに、同じ男としてジェラルドの方が余程逞しい身体つきをしていることが悔しかった。
「き、君が変な触り方するからだろ!?」
「変?ああ、お前が敏感すぎるだけだろう」
 ジェラルドはそう言ってニヤリと笑う。その笑顔を見た瞬間、かあぁと頬が熱くなる。
(も、もういい。早く身体洗わないと……)
 リアムは身体を離そうとするがジェラルドに腰を引き寄せられてしまう。
「どうした?そんなに動くとぶつかるだろう?」
 狭いのだからと引き寄せられ、より密着してしまう。ジェラルドの硬くなったモノがリアム自身に触れた。
「っ……!!」
 その瞬間、電流が走ったような感覚に襲われリアムは身体を震わせる。
「どうした?」
「こ、これ……!」
 リアムは顔を赤くした。ジェラルドのペニスが勃起し、それが自分のものに触れてしまっているのだ。平常心でいられるわけがなかった。
「ああ、すまないな」
 ジェラルドは口ではそう謝るが距離を取るつもりも沈めるつもりもないらしい。緩く立ち上がったそれをリアムのモノに押しつけてくる。
「あ…♡」
 裏筋同士をぴったりとくっつけて擦られると、ぞくりとした快感が背筋を走る。ジェラルドは腰を動かす速度を上げた。
「ゃっ♡あぁっ♡んん……♡」
 リアムのモノにジェラルドの硬くなったモノが当たるたび強い刺激に襲われる。思わず腰が引けてしまうと余計に感じてしまう。
「逃げるな」
 ジェラルドはそう言うと腰を掴んで引き寄せる。
「や…♡だめ…身体洗うから……っ!」
「そうだな…?ちゃんと洗わないといけないな」
 ジェラルドはそう言って微笑むとボディソープを手に取ると泡立て始める。
(な、なにするつもりだろう……?)
 嫌な予感しかしないが、逃げることも出来ないため黙って見ているしかない。やがてジェラルドは泡立てたそれをリアムに塗りつけ始めた。
「ひゃっ!?な、何するんだよ!?」
 思わず声を上げるとジェラルドは楽しそうに笑う。そしてそのまま身体を撫で回してきた。
「……っ!」
(くすぐったい……!)
 全身を優しく洗われ、リアムは身悶えた。特に胸や脇の下などは念入りに触られてしまい変な声が出そうになる。
「んっ……ふぅ……♡」
 必死に声を我慢しているとジェラルドが耳元に唇を寄せてきた。そして低く囁かれる。
「お前ばかりずるいな…俺も洗ってくれないか?」
「え!?あ…でも…」
(スポンジもないのにどうすれば……?)
 困惑しているとジェラルドはリアムの手を掴み自分の背中に回させる。
「手で洗えないなら身体で洗えばいいだろう?」
 ジェラルドはそう言ってリアムの身体にボディソープを塗りつけてきた。泡立った手で胸を優しく撫でられる。
「あっ、あ……♡やぁ♡」
 ぬるぬるとした感触に思わず声が出てしまう。
「感じてないで、ちゃんと出来ないか?」
「っ!!わ、わかっ、てるよ……!」
 ジェラルドの余裕そうな言葉にリアムはムッとする。泡立てられた身体をぴったりくっつけて上下に動く。するとお互いのモノが擦れて更なる快感を生み出した。
「あっ…♡」
「身体を洗うんだろ?」
「うるさいっ!!」
 リアムは顔を真っ赤にして怒鳴ると、ジェラルドに抱きついた。そしてそのまま上下に動く。だがそれは快楽を高めるだけの行為でしかなかった。
「はっ……はぁ……♡」
リアムの吐息がジェラルドの首筋に当たるたびにゾクゾクとしたものが背筋を走る。
「いい顔をしているな……」
 リアムの表情は蕩けきっており、理性を失った瞳が潤んでいた。その様子を見てジェラルドはゴクリと喉を鳴らす。
「んっ♡んんっ♡うるさっ♡」
 必死に身体を動かすものの、上手くいかないのか、背に回した腕に力を入れて胸や腹、性器をこすりつけてくる。その度にリアムの口から甘い声が上がった。
「ぁ♡んぅ……♡」
「…悪くない」
 ジェラルドはリアムの腰を掴むとそのまま引き寄せた。すると必然的に互いのモノ同士がよりぴったりと触れ合う形になる。
「ああぁっ♡」 
 突然のことに驚いたのかリアムは一際大きな声を上げた後、ビクッと身体を跳ねさせた。ジェラルドはその反応を見て笑みを浮かべると今度は両手で尻を掴む。
「や、やめ…♡僕、洗ってるだけなのにっ……♡♡」
 リアムは目に涙を浮かべながら訴えるが、ジェラルドは気にせず揉み続けた。そしてそのまま割れ目に指を滑らせる。
「ひっ!?な、何して……!」
「洗っているだけだ」
 そう言ってジェラルドは指を動かし始めた。最初は一本だけ入れるとゆっくりと抜き差しを繰り返す。
「あっ♡やぁっ♡」
(だ、だめ……!)
 リアムは必死に抵抗するものの力が入らないのかされるがままになっている。
「腰が引けてるぞ?」
 ジェラルドは笑いながら言うと、リアムを引き寄せた。そしてそのまま抱きしめながら指の動きを早める。
「だ、だめだってばぁ……♡」
 快楽から逃れようと身を捩ろうとするが上手くいかない。むしろ動いたせいで敏感な部分に擦れてしまい余計に感じてしまっただけだった。
「はぁ……っ♡あっ♡んん……♡もう!ばかっ!」
 リアムの腕がシャワーのボタンに触れた。温かいお湯が降り注ぎ泡を流す。
「もう……変な悪戯して……」
 リアムは頬を膨らませながら起き上がると、ジェラルドの腕を掴んだ。そしてそのまま自分の方へと引き寄せる。
「僕だけやられっぱなしなんて嫌だからね……!」
 そう言ってリアムはデコピンをした。
「痛っ!!」
 ジェラルドは思わず声を上げると額を押さえる。
「ふん!僕を辱めた罰だ!」
 リアムはそう言ってそっぽを向いて部屋に戻る。だが内心バクバクしていた。
(あああ危なかった~~~絶対さっきの流れセックスしちゃうところだった…あんなえっちなことされるなんて……)
 リアムは妄想して赤くなっているのを隠すようにベッドに潜り込む。
(…実はむっつりだったりするのかな?ああ言うこと好きなのかな?わ、割とその…性欲強いのかな…)
 リアム自身はそんなに性欲が強い方でない、と思っている。どちらかと言うと睡眠欲の方が強い。ジェラルドも食欲盛んだが誰彼構わず女性に甘い声をかけたところは見たことがなかったので、人並かなと思っている。
もっとも、リアムは性欲に関しては淡白な方だと自分らでは思っているが、実際はジェラルドにべた惚れしているので毎晩抱かれる妄想をしては自慰をしている始末だが。
(まさかあんなことになるなんて……)
 思い出してボッと顔が赤くなる。だがそこでふと気になったことがあった。
(そう言えばさっき凄く気持ちよかったけど、そんなに感じるものなの…?なんかおかしいような……?)
「…おい」
(!?!?!?) 
 突然背後から声をかけられ、リアムは声にならない悲鳴を上げる。だが起きてしまうとさっきの続きになりかねないので、必死に寝た振りをした。
「起きているんだろう?」
 ジェラルドはそう言うとリアムの首筋に手を伸ばした。そして首筋を優しく撫でる。それだけでゾクゾクとしたものが背筋を走る。
「……っ♡」
(ダメだってば……!!)
 理性とは裏腹に身体は反応してしまう。鼓動が激しくなり、体温が上がるのを感じた。
「リアム」
 ジェラルドは耳元で囁くと優しく耳たぶに触れた。それだけでも感じてしまうというのに、そのまま耳朶を口に含まれ舌先で転がされるともう我慢できなかった。
「んぅう…」
(やだ…寝るんだから…!)
 リアムは必死に抵抗する。普段「狭いから向こうへ行け」と冷たく言うくせに、こんなことされたらドキドキして仕方ない。それに。さっき浴室で触れた熱を思い出してしまって身体が熱くなってしまう。
(ダメ…ダメなのに……)
 心とは裏腹に身体はジェラルドを求めている。
(うう、もうやだよぉ……身体が勝手に反応しちゃう……!)
「リアム」
 再び声をかけられるがリアムは寝た振りを続ける。だがジェラルドは構わず続けた。
「……起きているんだろう?」
 ジェラルドはそう言ってリアムの首筋を優しく撫でた。そしてそのまま鎖骨まで滑らせると胸へと移動させる。服越しでも分かるくらい乳首が勃っていることに気付き、指先で軽く弾いた。
「あ…♡」
 リアムの口から甘い吐息が漏れる。ジェラルドはそれに気を良くしたのか、何度も繰り返し刺激を与えた。
「んっ♡んん……♡」
(だめ……感じちゃう……!)
 リアムは必死で声を抑えようとするが漏れてしまうものは仕方がない。それにジェラルドも気付いているのか、執拗にそこばかり攻めてくるのだ。
「も…やめ…♡僕寝るのぉ……っ♡」
「はっ、やはり寝たフリか」
 ジェラルドは意地悪そうに言うと腰を引き寄せる。
「本当に寝てるときは、声は我慢しないからな…」
(え…?今、なんて…)
「ちょ、ちょっと待っ……あ♡んぅ♡」
 直接的に与えられた刺激に身体が震える。柔らかい尻の後ろに当たる熱と硬さにリアムの後孔はヒクついていた。
「あっ、あ……♡」
(や、やだぁ…♡なんでこんな…♡)
「抵抗されるのも新鮮でいいが、そろそろ眠りたいだろう、リアム」
(何、言って…)
 振り返ったリアムは、黄金色に光るジェラルドの瞳に射抜かれ、動けなくなる。ジェラルドはリアムの顎を掴むとそのまま顔を近づけてフッと笑う。
「おやすみ、いい夢を」
 そう言って唇を重ねられる。執拗なほどのいたずらから考えられないくらいあっさりと解放され、リアムは遠ざかる意識の中でジェラルドの笑みを浮かべた唇だけが、やけに印象的に残った。
***
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