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 結局そのまま近くのカラオケボックスまで連れていかれてしまった。部屋に入ってからしばらく経つと、ようやく栄之助の手から逃れることが出来た。
「もう!強引なんだから!」
 司は呆れたように言うと、栄之助は余裕たっぷりに微笑んだ。
「強引な方が好きだろ?」
「はぁ!?そんなことないし!」
「オイオイ2人共、そんなイチャついてないでカラオケしよーぜ?」
「そうそう。せっかく来たんだから歌おうよ」
 取り巻き達が言うと、栄之助は舌打ちした。
「チッ……お前ら少し黙ってろ」
 栄之助が苛立ったような声を上げると、取り巻き達は渋々口を閉ざした。その様子を横目で見ながら、司は栄之助に問いかける。
「で?僕をここに連れてきた理由は何?」
「決まってんだろ?他に何があんだよ?」
 栄之助は不敵な笑みを浮かべながら答える。その目はまるで獲物を狙う肉食動物のようだ。司は思わず身構えた。
「ふーん……」
「なんだよ、その態度。もしかして怖いのか?」
「そんな訳ないでしょ!」
 司はムキになって答えると、そのままマイクを手に取った。
「じゃ、遠慮なく歌うから!」
(もう、知らない!)
 司は意を決したようにマイクを持つと、歌い始めた。しかし栄之助はその様子を楽しそうに眺めているだけで、何もしてこない。他の取り巻きと話をしたりスマホを弄ったりしているので、司は拍子抜けしてしまった。
(なんだ……何もしないんだ……)
 しばらくすると栄之助がマイクを取る。歌も上手いし顔もイケメンだからモテまくっているのだろう。そんな彼がどうして自分なんかに興味を持っているのか、司は不思議でならなかった。
「栄之助カッコいいよなー?司チャン惚れ直した?」
 司の隣りにいた栄之助の取り巻きにそう言われチラと目を向ける。
「べっつにー?てか僕にチャン付けするのやめてくんない?」
「えーいいじゃん!司チャン可愛いし」
「僕は男なんだけど!」
「はいはい、わかってるって」
 司がムッとすると栄之助が歌い終わり、こちらに近づいてきた。
「おい、次お前だぞ」
「わかってるよ!」
 司はマイクを手に取ると、適当に曲を選んで歌う。しかし彼がこちらをずっと見ているのに気付くと少し緊張した。
(うう……視線が気になる……)
 家に押しかけてきた日から、栄之助の様子がなんとなくおかしい。意地悪だし強引だし、それは昔から変わらない。だけど、セックスした後で司の気持ちが変わってしまったように、栄之助も変わったように思っていた。やたら優しかったり、やたら甘い言葉を言ったり。
(まあ、エッチの前や、女の子の格好してる時だけだけど…)
 それでも、意地悪ばかりされているときよりは全然良かった。でも、家に来たあとから、なんだかちょっと様子がおかしい。
(…気にしちゃダメ。アイツは、僕がうろたえたりするのを見たいだけなんだから)
 司は頭を振ってマイクを握る。向かいからじっと見つめる視線は、考えないことにした。
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