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「ちょっ、何するんだよ!?」
 司が叫ぶと、栄之助は不機嫌そうに言う。
「お前が誰のものなのか、わからせてやる」
(え?なんで?どういうこと!?)
 司は混乱した。いきなりキスされた理由も、栄之助の言葉の意味もわからなかった。だって自分たちはただの幼馴染でクラスメイトで、それ以上でもそれ以下でもない。そりゃセックスの時の栄之助は優しい。意地悪なくらい焦らして司をトロトロに甘やかす。でもそれはきっと自分だけではない。男の自分の身体は受け入れるように出来てないから、時間をかけないといけないだけ。司は栄之助が自分を本当に好いているなんて思っていなかった。それは小さい頃からの、諍いの積み重ねの結果だった。
「ん…もう、やめ……」
「はぁ……お前、ほんとエロくてたまんねぇ……」
 栄之助はうっとりとした様子で司の首筋を舐める。司はゾクッとした感覚に襲われて身体を震わせた。
(なんで……こんなことするんだよ……)
 司が困惑しながら見上げると、栄之助と目が合った。彼はいつもと違って熱に浮かされたような目でこちらを見ている。まるで捕食者のような目だった。司はその視線から目を逸らすことができないまま、彼の愛撫を受け入れた。
「んぅうん…ダメだよ、栄之助……ここ、僕の家なんだから……」
「なんで?」
「だって…家族が帰ってきたら…」
「別にいいだろ、学校じゃねぇし」
 栄之助は司の服を脱がせながら言う。司は焦った。ここは栄之助の家ではなく自分の家なのだ。壁も厚く不在がちな栄之助の家と違って一般的な家だ。もし親にこんなところ見られたら大変なことになる。
「いい子だから、ね?」
 栄之助は司の顔に弱い。ならおねだりにも弱いはずだ。
「お願い、栄之助……」
(よし、効いた)
 司が心の中でガッツポーズを決めたその時、栄之助はニヤリと笑って言った。
「お前さ、これから撮影するつもりだったんだろ?つまり家の人は暫く帰ってこないってことだ」
「っ……!」
 司は自分の失言に気付いた。栄之助は察していた。この家に、今は自分しかいない。暫く親も帰ってこないことを。
「観念しろよ?」
 そう言って栄之助は司を押し倒した。そして再び口付けを落とすと、今度は優しく愛撫を始めるのだった。
(あぁもう……最悪だ……)
 司はため息をつくしかなかった。まさかこんなことになるなんて思ってなかった。
「ううん…栄之助ダメだって…」
「撮影したいとか?は、許さねぇし。あんなエロカワイイ姿他の人間に晒すとか絶対許さねぇし」
「えっ、ちょっと!?」
(まさか……)
 嫌な予感がした。司は恐る恐る尋ねる。
「もしかして……動画見た?」
「全部。知らねぇ野郎どもに媚び売る姿も、エロい声も。全部」
「う…うそ…」
(最悪だ……)
 司は頭を抱えた。まさかあの動画をこんなに早く見られるなんて思わなかった。ショックで仕方がない。司は泣きそうになった。
「なあ司、お前があんな可愛い格好してさ、男に媚び売ってるの見て、俺がどんな気持ちだったかわかる?」
「知らな……」
「わからないよな?ああ、くそ…ムカつく…俺がどんなに…」
「し、知らな……」
「黙れよ」
 栄之助は司の首筋を舐める。司はビクッと身体を震わせた。そしてそのまま強く吸い付くと、赤い痕を残す。支配欲の現れのようだった。
「痛っ!」
「ああ……これ、俺のもんだっていう証拠な?」
 栄之助は楽しげに笑うと、今度は胸元に顔を埋める。そして乳首を口に含んで転がすように舐め始めた。
 司は男なのに、男の栄之助に好き勝手にされている。それがなんだか悔しくて、そして気持ちよくて、司は戸惑った。
(なんでこんな……)
「やだぁ……やめてよぉ……」
「なんでだよ?お前ここ好きだろ?」
 そう言って栄之助は司の乳首を刺激する。コリコリと甘噛みされると、なんとも言えない快感に襲われた。
「んんぅううっ!!やだってばぁ!」
(僕が好きなんじゃないのに……)
 司が涙目で睨むと、栄之助はふっと笑った。
「お前は俺だけのものだからな?」
「違うもん……僕は僕だけのものだもん……」
 司は涙目で反論する。支配欲を募らせる栄之助の行動はエスカレートするばかりだった。
「僕は、僕のこと大事にしてくれる人が好き。僕のこと、モノみたいに扱う人は嫌い」
(負けないもん…)
「栄之助、意地悪ばっかりだもん。嫌だって言ってるのに止めないし、どうせ僕のことからかってたんでしょ?女みたいだってからかって、都合よく性欲発散出来るからって……」
「…は?」
 栄之助は不機嫌そうに呟いた。彼は司の顎を掴むと、自分の方へと向かせる。
「お前さ、俺のことそんな風に思ってたの?」
 司は睨み返す。
「そーだよ。本当はカワイイギャルが好きだもんね?知ってるもん、栄之助巨乳派だって」
 べーと舌を見せる。栄之助の苛立ちが募るようだが、司も負けてられない。
「でも栄之助、僕みたいな男みたいな身体に本当に興味ある?ないよね?僕のことからかって遊んでたんでしょ?僕だってそのくらいわかってる!」
 司は叫んだ。栄之助は呆然としている。
「確かに僕は、この格好が気に入っちゃったよ。だってカワイイもん」
「司…」
「好きな格好してみんなが褒めてくれてそれの何が悪いことなの?僕のことからかったり、僕が他の男の人に色目使うの見てイライラするのって彼氏のつもり?付き合ってもないくせに彼氏面しないでよ!僕のこと、所有物だと思ってるんでしょ!」
 司の言葉に栄之助は愕然とした。自分はそんなつもりはなかった。ただ司が自分の前でだけ可愛い姿を見せてくれるならそれで良かったのだ。しかし、司はそうではなかったらしい。栄之助は自分の行いを恥じた。そして同時に怒りが込み上げてくる。
(俺が、あんなことさせなければ…)
 可愛らしい司の姿がSNSを通じて世界中に出回ってしまった。司はその可愛さ故に人気者になってしまった。栄之助は自分の軽率な行動を後悔したが、もう遅い。
「栄之助なんて大嫌い!!もう、関わらないで……」
 司の目には涙が浮かんでいる。それを見た瞬間、栄之助の中で何かが切れた音がした。
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