上 下
35 / 50

35

しおりを挟む
ピンポーン
「えぇ!?誰?宅配便かな…?」
 メイド服に着替えようとした司はインターホンを見た。するとそこには見知った顔がある。
(栄之助!?)
「な、なんで……!?」
 司は慌てた様子で息を潜める。だが、チャイムは鳴り止まない。
ピンポーン、ピンポンピンポンピンポーン
 このままだとご近所様に迷惑になる。
「あーもう!しょうがないなあ!」
 司はため息をつくと、玄関に向かった。そしてドアを開ける。そこには仏頂面の栄之助が立っていた。
「ちょ、お前なんの用なの?近所迷惑だって…うわぁっ!」
 司は言いかけた言葉を飲み込むと、慌ててドアを閉めようとする。しかしすかさず足を差し込まれて失敗した。
「えぇ!?」
(ちょ、ちょっと待って!?)
 そのまま強引に入り込んできた栄之助に、司は焦ったように叫ぶ。
「な、何考えてんの!?ここ僕ん家だよ!?」
「ああ、そうだな」
(そうだけどそうじゃないんだって!)
「お前さ、本当なんなの?」
「な、何が……」
「この前からずっと俺のこと避けやがって」
(それは……)
 司は口ごもる。だって栄之助に会いたくなかったからなんて、本人を目の前に言える訳ない。
「別に、いいだろ?僕たち元々こんな感じだったじゃん」
「ふざけんな。勝手に避けやがって」
(そんなこと言われても困るよ……)
 司は小さくため息をつくと、渋々口を開いた。
「別に避けてたわけじゃないって」
「嘘つけ」
「本当だって」
「じゃあなんで逃げるんだよ」
 司は言葉に詰まった。逃げてる訳ではないけど、栄之助に会わないようにしていたのも事実だ。でもそれを栄之助本人に言うつもりはない。だから司は曖昧に返事をするしかなかった。
「えと……それは……その…」
 目をそらし俯く。知らぬ美女に抱いたヤキモチ、栄之助の過去の女に嫉妬する自分。
(そんなの、認めたくないもん…)
 だが、司が俯いている隙に、栄之助は立ち上がると迷いなく司の部屋へと入る。
「あっ、ちょっと!」
 司は慌てて止めるが、栄之助は勝手にベッドの上の女性モノの衣装を無言で引っ掴む。
「ちょっと、勝手に何してるの!?」
「…お前こそ勝手に何してんだよ…」
「…え?」
 きょとんとする司の前に栄之助はスマホを押し付けて来る。そして画面を見せてきた。クラスメイトのインスタストーリー。
『この配信者可愛くない?』
『あ、これ、お前の司チャン激似じゃね?』
「これって……」
 それは司の動画を見て騒いでいる教室のひとコマだった。まさかクラスメイトに見られていたとは思わず司は絶句する。
(う……嘘でしょ……)
「お前……俺が言ったからこういう格好してるの?」
「え……?えーっと、その…」
 司はしどろもどろになって、言葉を探す。
「い、いや……その、違くて……これは……」
「嘘つくんじゃねぇよ!!」
(ひぇっ!?)
 栄之助の怒鳴り声に、ビクッと肩を震わせる。司は恐怖を感じながらも必死に言い訳をした。
「ぼ、僕だって最初は着るつもりなんかなかったって!」
「はあ?じゃあなんで着たんだよ」
「……それは、その…」
 思った以上に可愛かったのもある。それに、何かに熱中すれば忘れられると、思ったから。
「なに?言ってみろよ」
(うっ……)
 司は言葉に詰まると、小さく呟いた。
「それは……ちょっと気晴らしっていうか…思ったより人気が出ちゃったから、ちょっと楽しくて……」
「は?ふざけんなよ」
「何がだよ、別にいいでしょ?僕がどんな格好で、何しようとも」
 ぷい、と顔を背けると、栄之助は苛立った様子で口を開く。
「は?何だよそれ。俺は、お前が他の奴に媚び売るのが許せねぇんだよ」
(……何それ)
 司はイラッとした。
「そんなの、栄之助には関係ないだろ!?ほっといてよ!」
 ぷい!と顔を背ける。すると栄之助は舌打ちすると、司の顎を掴んで無理やり視線を合わせた。
「関係あるんだよ」
「何でだよ!」
 司は苛立って叫ぶ。なんで自分が可愛い格好してるだけで怒られるのか。関係ないだろ?なんでお前にそんなこと言われなきゃいけないんだ。
 司は泣きそうな顔になったが、意地で我慢する。
「…お前さ、自分が誰のものか分かってんのか?」
 栄之助の低い声は怒りが籠められて少し怖い。
「別に、誰のものでもない、僕は僕のものだもの!」
 司が叫ぶと、栄之助は呆れたようにため息をついた。そして言った。
「お前さ、自分がどう思われてるか自覚あんのかよ?」
「……は?」
(何言ってんの?)
 司は訳がわからずぽかんとした。すると栄之助は再び大きくため息をつく。そして続けた。
「コメント見てねぇのかよ?」
「え?なにそれ。知らない…」
 司は戸惑った。今までコメントなんて気にしたことが無かったからだ。
(ていうか、それがどうしたんだよ……)
 司が眉を顰めると、栄之助はまたため息をついて言った。
「俺、自分のものが他の野郎どもにエロい目でジロジロ見られるのが許せねぇんだよ」
「はぁ!?そんなの僕のせいじゃないし!」
 司はムッとしたように叫ぶと、栄之助の腕から逃れようともがく。しかしすぐに押さえつけられてしまった。
「ちょ、放せってば!」
「嫌だね。つーかお前さ、自分の可愛さ自覚してんだろ?あんなエロく誘うような格好して、その自覚がねぇとか言うつもりか?」
「そんなつもりな……」
 ない、と言い切れない自分がいる。
(だって仕方ないじゃないか……)
 だってみんな可愛いものが好きで。僕は男だけど、女装すれば可愛くなれる。意地悪な幼馴染だって、優しくしてくれた。だから。
「…お前に女装なんてさせなければ良かった」
 栄之助が苦しそうに言う。司はその言葉の意味がよくわからなかった。
 どういう意味だ、と尋ねようと開いた口は、すぐに塞がれる。
(!?!?!?!?!?)
「んんっ!?」
 司の口の中は栄之助の舌に蹂躙された。唇を甘噛みされ、舌を吸われて、司の頭は真っ白になる。やがて唇が離れると、唾液が糸のように二人の間を繋いでいた。それがやけにエロいと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

熱中症

こじらせた処女
BL
会社で熱中症になってしまった木野瀬 遼(きのせ りょう)(26)は、同居人で恋人でもある八瀬希一(やせ きいち)(29)に迎えに来てもらおうと電話するが…?

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

食事届いたけど配達員のほうを食べました

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
なぜ自転車に乗る人はピチピチのエロい服を着ているのか? そう思っていたところに、食事を届けにきたデリバリー配達員の男子大学生がピチピチのサイクルウェアを着ていた。イケメンな上に筋肉質でエロかったので、追加料金を払って、メシではなく彼を食べることにした。

親友だと思ってた完璧幼馴染に執着されて監禁される平凡男子俺

toki
BL
エリート執着美形×平凡リーマン(幼馴染) ※監禁、無理矢理の要素があります。また、軽度ですが性的描写があります。 pixivでも同タイトルで投稿しています。 https://www.pixiv.net/users/3179376 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/98346398

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

少年野球で知り合ってやけに懐いてきた後輩のあえぎ声が頭から離れない

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
少年野球で知り合い、やたら懐いてきた後輩がいた。 ある日、彼にちょっとしたイタズラをした。何気なく出したちょっかいだった。 だがそのときに発せられたあえぎ声が頭から離れなくなり、俺の行為はどんどんエスカレートしていく。

おねしょ癖のせいで恋人のお泊まりを避け続けて不信感持たれて喧嘩しちゃう話

こじらせた処女
BL
 網谷凛(あみやりん)には付き合って半年の恋人がいるにもかかわらず、一度もお泊まりをしたことがない。それは彼自身の悩み、おねしょをしてしまうことだった。  ある日の会社帰り、急な大雨で網谷の乗る電車が止まり、帰れなくなってしまう。どうしようかと悩んでいたところに、彼氏である市川由希(いちかわゆき)に鉢合わせる。泊まって行くことを強く勧められてしまい…?

兄弟愛

まい
BL
4人兄弟の末っ子 冬馬が3人の兄に溺愛されています。※BL、無理矢理、監禁、近親相姦あります。 苦手な方はお気をつけください。

処理中です...