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 それから2週間後。
「うーわ、栄之助くん荒れてんねー」
 放課後の教室。栄之助がイライラしながら机を蹴っ飛ばすのを見て、クラスメイトは楽しそうに笑っていた。
「うっせぇな」
(くそ……なんで司のやつ……!)
 司は自分と距離を起きたがっている。栄之助はそう直感した。だがそれは暗に別れを示唆している気がして、内心荒れまくっていた。一度でも手に入れたと思ったものを失うことは、得ていない時よりも苦痛だ。それも、長年ずっと手にしたかったものを失うなんて想像するだけでおかしくなりそうだった。
(俺のだ……アイツは俺の……)
 日曜のデートだって途中までは順調だったのだ。まさかセフレの一人があんな風に出しゃばってくるとは思わなかった。1回抱いただけでカノジョ面するヤツばかりだから、割り切ったタイプを選んでいたはずなのに。
 確かに、嫉妬したような司が可愛くてわざと見せつけたようなところが無いわけではなかった。最後のオンナが現れるまでは。それから数日、司との距離は身体を重ねる前まで逆戻りしてしまっていた。
(マジで余計なこと言いやがって…)
 その次の週末も、司は予定があると言ってやんわりと誘いを断ってきた。いいのだ。多分事実なのだろう。だが、いつメンと過ごしながらも栄之助は司が取られないか気が気でなかった。
「まーまー栄之助、これ見て落ち着けよ」
「は?何だよ、これ」
「お前の愛しの司チャンそっくりの美少女配信者だよ」
 マジで似てねぇ?とショート動画を見せられる。それは司そっくりの美少女が、際どい衣装を着て踊っている動画だった。
「どう?かわいーだろ?」
「確かに……似てるな……」
 可愛いというよりあざとカワイイ。自分の魅せ方をよくわかっているような媚びた仕草。しかしそれが妙に似合っていた。
「だろ?この配信者、めちゃくちゃ人気なんだわ」
「へえ……」
 栄之助は興味なさげに相槌を打つ。しかし内心では嫉妬していた。似てる、似すぎてる。何より目を引いたのが、部屋でぬいぐるみを抱いてる時の動画だ。
 司と栄之助は犬猿の仲だったが、幼い頃何人かを招いた時無理を言って家に押し入ったことがある。栄之助はその時、二度と入れないかもと、司の部屋を隅々まで記憶した。子どもの頃の話だ。だが、栄之助は覚えていた。記憶の中の壁紙と同じそれを見て、密かにメラメラと嫉妬と独占欲が募る。
(何他のヤツらに媚び売ってやがるんだよ……)
「なあ、栄之助もこの子で発散しようぜ?可愛いし似てるし、な?」
 クラスメイトがスマホを差し出しながら言う。栄之助は無言で受け取ると、動画を見始めた。確かに可愛い。カワイイキス顔も、チョコを妖しく舐める姿も。でもそれを司がやるのは許せない。俺の司が俺以外の前でやるのは、許せることではない。
(くそっ……司のヤツ……!)
 栄之助は怒りに震えていたが、同時に下半身にも熱が集まるのを感じていた。自分の可愛さを理解してしまった司は、上手く自分を魅せる方法を知っている。
「な?可愛いだろ?」
「……ああ」
(……クソが)
 栄之助は舌打ちをすると動画を閉じた。そしてスマホを返す。するとクラスメイトが何か企むような表情で笑った。
「お前この手の顔本当弱いな?」
「うっせ」
「でもセフレはどっちかってとギャル多めじゃね?」
「後腐れしないほうがいーんだよ」
 どうせ司以外本命じゃないのだ。セフレなんてそんなものだ。栄之助は吐き捨てるように言った。
「栄之助はほんと、司のことしか眼中にないな」
「あー?誰があんなヤツのこと……」
(くそっ……イライラする……!)
 栄之助は机を蹴っ飛ばした。ガタリと大きな音が鳴り、クラスメイトはびくりと身体を震わせる。
「ご、ごめんて」
「チッ……」
(クソッ……腹立つ……!!)
 栄之助は舌打ちすると、立ち上がる。どいつもこいつもふざけやがって。だが何よりも許せないのは司だ。俺のものなのに、俺以外に媚びを売るなんて許せない。栄之助は不機嫌さを隠そうともせず教室を後にした。
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