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「あれー?栄之助じゃん」
 ご機嫌取りのようにカフェで甘やかされた後のことだった。2人で歩いていると、見知らぬ女子が声をかけてきた。メイクもバッチリで、目も胸も大きい、韓国アイドルみたいだと思った。多分別の学校の生徒。
(ああ、またか)
 司は内心でため息をつく。改めて思った。栄之助はモテる。しかも、どの子も可愛い子ばかり。
(…なんか、ヤダな)
 落ち込む司とは裏腹に栄之助はと言えば、さっきの子のような対応ではない。冷たい瞳で相手を見下ろしている。
「…なに?お前」
 その様子に、逆に司の心はザワザワしていた。
(なんだろ…これって、さっきの子より…)
「えーやだー栄之助ってそんな感じなんだ?ウケるんだけど」
「ウザい。どっか行け」
(え、怖っ!?)
 司はドン引きしていた。確かに仲は悪かったけどこんな風に凍りつくような冷たい対応はされたことがない。だが、女子はそんな栄之助に怯むことなく、寧ろ面白そうに笑っている。
「こわーい♡なに?カノジョの前だからそんな態度取ってるワケ?栄之助くん、かーわいいー♡」
「ちっ……」
(舌打ち!?)
 思わずギョッとしてしまった。しかし女子は全く気にしていない。それどころか面白そうに続けた。
「ふふ…そんな態度取っていーの?」
 彼女はそこで一旦言葉を切ると、ニッコリ微笑んだ。そして司に視線を移すと、妖艶な笑みを浮かべる。まるで獲物を見つけた捕食者のように。
(うっ……嫌な予感……)
 冷や汗をかく司とは、裏腹に栄之助は庇うように前へ出て、彼女を睨みつける。
「なんだよ?」
(うわあ……めちゃくちゃ喧嘩腰じゃん……)
 司はハラハラしながら2人のやり取りを見ていた。すると彼女はクスリと笑う。そして栄之助に向かって言った。
「ねえ、アタシたちと一緒に遊ばない?」
(はい!?)
 司は内心動揺した。しかし栄之助は冷静だ。呆れた顔でため息をついた後、軽く首を振った。
「お前、バカか?なんで関係ないヤツに時間割かなきゃいけねぇんだよ。邪魔だから消えろ」
「へー?そういうこと言っちゃうんだ?いいの?カノジョさんの前なのに」
 彼女は挑発的な笑みで司を見る。司は顔から火が出そうなほど恥ずかしかった。
「…ウチらのしてたこと、言ってもいいのかな?カノジョさんに」
「…っ!」
(え……!?)
 司は目を丸くした。まさかこんな展開になるとは思ってなかったからだ。しかし栄之助は動じない。冷静に口を開いた。
「…へえ、そういうことか」
「なにがあ?」
 笑みを絶やさない彼女に対し、栄之助はニヤリと笑った。
「お前さ、俺を脅してんだ?もしかして俺に抱かれたいから遊び誘ったとか?でも残念だったな。今の俺はコイツしか興味ねぇから」
(え、えぇ!?)
 混乱する司を他所に、彼女はまだ余裕の笑みで笑っている。
「ふーん、そうなんだ?どこで見つけたの?こんなちっちゃくてカワイイ子」
 彼女はニヤニヤ笑いながら司のことを指さした。
(…確かに、僕より眼の前の女の子方が、背も高い)
「言う訳ねーだろ。もういいか?お前、ウザいから消えてくれ」
「うわ、サイテー!ひっどーい!まあいいけど。じゃあまたね!栄之助!」
(え?いいの!?)
 司は心の中でツッコミを入れた。しかし彼女は特に気にしていない様子で笑って手を振ると、そのままどこかへ行ってしまった。
(行っちゃった……)
「司」
「ひゃいっ!?」
 呆然と見送る司は、呼ばれた瞬間、反射的にビクッとしてしまった。
「なに?お前」
「い、いや……その……モテるんだな、お前って」
「は?」
 栄之助は不思議そうな表情を浮かべた。そして首を傾げる。
「どこが?」
(自覚ないのかよ!?)
 しかし栄之助は腑に落ちないといった表情だ。ため息混じりに言う。
「まあ、いいや……なんか疲れたし帰ろ……」
(もう帰りたい……)
 司はげんなりしていた。しかし栄之助は平然としている。
「何言ってるんだよ。まだデートは終わってねーだろ?」
「えぇ!?もう僕疲れたよ…」
 慣れない靴で長時間歩いたのもある。だけど、何より最後の女の子の存在が思った以上に司には重く伸し掛かっていた。
(あの子と栄之助の関係って、その…)
 スタイル抜群の美女と栄之助。それに2人の口振りだと絶対ヤッてる。セックスしてる。そういう関係。
(もしかして……)
 司はそこで考えるのをやめた。だってこれ以上考えたら、恐ろしい結末にたどり着いてしまう。
(僕、本当に栄之助のこと…)
 嫉妬、なんて考えたくない。司は顔を上げた。
「ごめん、僕本当に疲れちゃった。帰るね」
 胸がズキズキするのを誤魔化すように、にっこり微笑む。
「は?おい、司!」
(逃げないと…!ここから、帰らないと!)
 司は背を向けて走り出し、その場から離れた。
「待てって言ってんだろ!!」
「っ!?」
 背後から大きな声が聞こえるが、人並みに上手く逃げ込んだ司は、栄之助からどうにか逃げおおせることに成功した。
 お似合いだ、と思った。ちびの自分より、ずっと。
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