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 さて、不倶戴天の敵同士とも言えるほど、栄之助と司の戦いは小学校入学前まで遡る。由緒正しい家の跡取りである栄之助は、誰からも可愛がられ、当たり前のように皆が言う事を聞く、王様のような少年だった。一人っ子である栄之助は、それはそれは甘やかされて育ってきた。そんな栄之助だったが、唯一言うことを聞かなかったのが司だった。
 司は金持ちでこそなかったが、家族に愛され甘やかされてきたせいか、人懐っこく誰からも愛される子供であった。そして何より、可愛かった。どの大人も司を可愛い可愛いと褒め称えた。栄之助はそれが気に食わなかった。司は栄之助よりも何もかも劣っているのに。背も小さいし、細いし、確かに可愛いけれど。クラスの誰よりも可愛くて、だから誰からも愛されて。そんな司が大嫌いだった。何より一番腹が立ったのは、せっかく自分が友達になってやろうと思ったのに、司はそれを断ったのだ。一番可愛い司は、自分の横にいるのにふさわしいと栄之助は思っていた。司は自分が王様で、周りのみんなが自分に従うべきだと信じて疑わなかった。
 栄之助は司が嫌いで嫌いで仕方がなかった。言うことを聞かない司が憎たらしくて仕方なかった。そしてそれは今でも変わらないはずだった。
「おら、ちゃんと洗えよ」
「うん……」
 狭いバスタブの中で司を後ろから抱きかかえるようにして支えながら、栄之助はシャワーで身体を流してやる。司は恥ずかしそうにしながらも大人しくしていた。
『ふふ、栄之助くんは司くんのことが大好きなのねぇ』
 子どもの頃から二人のいざこざを見ていた先生の言葉をふと思い出す。
(…好きとかじゃねえし)
心の中で呟きながらも栄之助の手は優しく司の肌に触れていた。そんな簡単なものじゃないのだ。
「んぅう…なんかそれ…や…」
「やじゃねぇだろ?エロい声出してるくせに」
「ちがっ……んぁあっ♡♡♡」
 乳首を抓られて、司はビクッと身体を跳ねさせた。しかしすぐに力が抜けてしまい、栄之助にもたれかかるように倒れ込んでしまう。
「なんだ、もうダメなのか?」
 栄之助は面白そうに笑うと、今度は両手で両方の乳首を弄り始めた。
「や、やめてって…やん♡か、身体洗うだけでしょぉ……」
「何言ってんだよ。洗ってやってんだから感謝しろよ」
「んんっ♡そんなぁ……はぁんっ♡♡♡」
 栄之助は執拗にそこを攻め立てる。その度に司は甘い声を漏らしながら身体を震わせた。
(…つかこいつ乳首弱すぎだろ)
 そう思いながらも栄之助は手を止めずに、指先でカリッと引っ掻いたり、摘んで引っ張ったりする。そのたびに司はビクビクと反応し、甘い声を上げた。
「んひぅ♡バカぁ♡またイッちゃうからぁ…♡」
「へぇ?ソーローじゃねぇの?司ちゃん」
「そ、その言い方やめてよぉ…バカぁ……」
 肩越しに涙目で睨みつけられても全く怖くない。それどころか逆に加虐心を煽られるだけだった。
「そろそろ良いか」
 栄之助はそう呟くと、司のアナルに手を伸ばした。そしてそのまま指を挿入する。
「ふぁあっ!?な、なにすんのぉっ!?」
 突然襲ってきた異物感に司は悲鳴を上げたが、栄之助は構わず中を探るように動かし始めた。前立腺を探して腸壁を刺激する度に、司は身体を仰け反らせて悶えた。
「や、やめ…ああぁっ♡♡んひぃいいっ♡♡♡」
「はっ、すっげー声。風呂場だから余計に響くな」
「さ、最悪…君の家のお風呂が広すぎるからっ…!」
「そーだなー?誰かしらに聞こえちまってるかもな?お前のエロい声が」
「やぁっ♡やだぁっ♡♡♡」
 わざとらしく大声で言ってやると、司は泣きそうな顔になって首を振った。それが可愛くて栄之助はさらに虐めたくなる。
「どうする?誰かに聞かれるかもしんねーぞ?」
「そ、それはだめ…お願いだからもうやめて…」
 司が懇願してくる。目には涙が浮かんでおり、頬は赤く染まっていた。その表情を見た瞬間、栄之助の中で何かが弾けた気がした。
(あー…もう無理…)
 栄之助は指を引き抜くと、司の身体を反転させて向かい合わせにさせた。そしてそのまま唇を奪う。
「んぅうっ!?」
 突然のことに驚いた様子の司だったが、すぐに受け入れてくれたようで、自分からも舌を差し出してきた。お互いの唾液を交換し合うような激しい口づけを交わす。その間も手は休めず、乳首を摘んで捏ねくり回したり引っ張ったりする度に司は可愛らしい声で鳴いた。
「ふぁっ♡あぅううっ♡♡♡」
(こいつキスも下手で無様可愛いとこあんじゃん)
 真っ向から対立してばかりいた司の新たな一面を知って、栄之助は妙に気分が良かった。キスを止めるとぼうっとした表情で見つめてくる司に、栄之助は意地悪く笑う。
「なんだよ?もっとして欲しいのか?」
「なっ……!そ、そんなわけないだろ!」
 我に返った司は顔を真っ赤にして叫んだ。そんな様子も可愛いと思ってしまうのだから重症だ。
「つかお前キス下手すぎだろ」
「う、うるさいなぁ!僕はそんな、キスなんてしたことないし!」
 そう言い切った司に、今度は栄之助が動揺する番だった。
(え、こいつファーストキスとか言わないよな…?)
 そう考えた瞬間、栄之助の中で何かが切れた気がした。そして次の瞬間には司を再び後ろから抱きしめていた。
「は!?ちょっと何してんの!?」
 驚いた司が振り返ろうとするが、それを阻止するように強く抱きしめると、栄之助は耳元で囁いた。
「じゃあ俺が初めてなのかよ」
 その言葉に司はピクリと反応して固まる。その沈黙を肯定と受け取った栄之助はむずむずする感情のまま耳たぶを優しく喰む。
「けーけん豊富そうに見えんのにな?ま、女みてーだし、興味ないとか?」
「ばっ!馬鹿にすんなよ!」
 司は振り向いて栄之助を睨み付けるが、その顔は真っ赤で瞳は潤んでいた。まるで情事の最中のような表情にドキッとする。
「ふ、ふんっ!僕だってキスくらい…!」
 そう言うと、司は栄之助の頰に手を添えて顔を近づけてきた。そしてそのまま唇を重ねる。
(こいつ……!)
 突然のことに驚いて反応できなかった栄之助をよそに、司は一生懸命舌を差し出してきた。拙い動きで栄之助の口内を舐め回し、ちゅうっと吸い付いてくる。
「んぅ……♡んむっ……はぅ……♡♡♡」
(なんだよこれ……!)
 栄之助は混乱していた。今まで経験したことのないような快感が身体中を駆け巡っている。あのプライドの高い司が自分の唇を貪り、必死にキスをしているのだ。その事実だけで頭がおかしくなりそうだった。
 栄之助も負けじと舌を絡ませてやる。すると司は嬉しそうな声を上げてさらに強く吸い付いてきた。しばらくお互いの唾液を交換し合うように濃厚なキスを続けていると、司が息苦しくなったのか背中を叩いてきたため、仕方なく口を離すことにした。二人の間に銀色の糸が引いていたが、すぐにぷつりと切れる。
「はーっ♡はーっ♡」
 司は肩で息をしていて苦しそうだ。ただでさえ浴槽であれだけ身体を弄ったのに、さらに長時間キスしていたせいですっかり逆上せてしまっていた。
「はー…はー…ど、どう?僕だってキスくらいできるし……栄之助より全然経験あるし……」
「…うぜぇ」
「ひっ!」
 低い声で唸ると司はびくっと身体を強張らせた。怯えているようにすら見える。それが面白くなくて、またイライラしてきた。
「つかなんでお前そんな偉そうなの?経験豊富とか言ってるけど、どうせ雑魚なんだろ」
「なっ……!」
 挑発するように言うと、司は悔しそうに顔を歪めた。どうやら図星らしい。栄之助はニヤニヤ笑う。
「いーんだぜ?素直に『負けました』って言っても?別に言いふらしたりしねーし。つか、雑魚に負けるわけねぇしな」
「ま、まだまだこれからだもん……」
 そう言う司は立ち上がった瞬間くらくらしたのかよろけた。どうやら本当に限界らしい。
「大丈夫か?」
 栄之助が心配そうに声をかけると、司はキッと睨んできた。その目にはまだ闘志が残っているように見える。
「ま、まだまだ!これからだから!」
 それだけ言い残すと司は覚束ない足取りで脱衣場へと消えていった。栄之助はため息をつきながらその後を追いかける。すると案の定、司は脱衣場で蹲っていた。
「おい、お前マジで大丈夫かよ」
「うー……」
 唸るばかりで動かない司をバスタオルで包んでやる。
(どうせ使用人しかいねぇし…)
 栄之助はそう思って司を抱き上げた。俗に言うお姫様抱っこである。司は驚いたのか暴れようとしたが、力が入らないようでされるがままになっていた。
「つかお前軽いな」
「うるさい……女の子扱いすんなし……」
「はいはいそーですか」
 そんな軽口をたたきながら栄之助は司を連れ出す。使用人に見つからずに寝室まで来れたところで司を下ろした。司は恥ずかしそうにしながらも大人しくベッドに横になる。
(俺、こいつ抱きたい)
 不意に込み上げてくる衝動をなんとか抑え込み、水を渡して部屋を出る。欲望がむくむくと頭をもたげてきた。
(なんであんなやつに…)
 司のことは大嫌いなはずだ。折角この俺が友達になってやるといったのに、首を縦に振らなかった時から、司は栄之助にとって憎たらしくてならない存在だった。
 だが、今はそんなことを忘れてしまうくらい司に欲情している自分がいる。あの愛らしい顔をぐちゃぐちゃにしてやりたい。自分のモノにしたい。
「くそっ……」
 栄之助は舌打ちすると自分の部屋へと向かった。
(アイツが女の服なんて着るから悪いんだ…スカートなんて穿くから……!)
…とは言え、着せたのは他ならぬ栄之助だが。
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