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ひとつのギルドができるまで

綺麗なものと優しいものと

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 ティーラテ狂ことラテは、とても空気が読める。故に、あえて空気を読まない。
 誰かが喧嘩をしていればへらへらと笑って近付き、誰かが悲しんでいれば駆け寄ってしっぽを振る。それがラテの世渡りであった。
 故にラテは、さも何も気にしていませんよと言うふうに、目の前で三角の耳を垂れさせる少年の足元へと歩みを進めた。

「ヒューガくんヒューガくん、顔上げて! ここすっごいきれいだから!」
「……、」
「ヒューガくん、ヒューガくん!」

 元気に明るく声を掛ける。
 この穏やかな狐耳の少年が、“誰かの声を無視する”なんてことを決してできないのだと感じ取っているからこそ、ただひたすらに明るく、楽しげに。

 そうして、ややあって漸く顔を上げたヒュウガの瞳が、
確かに輝いたのを、そのコーギーは見ていた。



「……わ、……!」

 ハジマリの古都は、Monster Legendsのプレイヤーが最初に踏み入る街だ。故にその街並みは、一度このゲームを始めたプレイヤーを決して逃がしはしないとでも言うかのように、美しい。
 繊細すぎて、現実に建築しようとすれば崩れ去ってしまいそうな尖塔。硝子で同じものを作ることなど不可能であろう美麗なステンドグラス。どこまでも続くような広い空に、白く大きな雲と眩しすぎない太陽が浮かぶ。頬に感じるのは吹き抜ける風の柔らかさと、爽やかな草のような匂い。
 そして、足元に触れる暖かさは、優しい友人の体温。


(紙)

(ない)

(ちがう、メモ)


(メモ帳の機能で、絵がかける)




(描きたい)




「……ヒューガくん?」


 ヒュウガはメニューを開くとメモ帳機能を展開し、手元に現れた紙束に、猛然と何かを描き込みはじめた。生憎足元にいるラテには何が描かれているのか窺うことができないが、ヒュウガの表情が少し明るくなっていることは、すぐに気が付いた。

「……ヒューガくん、大丈夫そうだねー」


 それから数十分。他のコンテンツをしていたならば、きっと何か楽しいことができたであろう時間。
 ラテは、出会ったばかりの友人の足元で、何をするでもなく景色を眺めて過ごした。
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