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ひとつのギルドができるまで
あにいもうと
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14歳の妹と、18歳の兄。
仲のいい二人は、今日も兄の私室の中で楽しく会話をしていた。
「ねーお兄ちゃん、今日も何か描いた?」
「うん、今日はね、カーテンを描いたよ」
「カーテン!? もっと面白いのなかったの!? ミーコとか描いてよかわいいんだからー」
ソファに腰掛けた快活な妹──ゆきみが言葉を放つと、まるで意味を理解しているかのように足元の飼い猫がひと鳴きした。
「カーテンは奥が深いんだよ。ごらんよ、この曲線と直線。風が吹くと形が変わるし、こうして巻き留めると、随分印象が変わるでしょう」
「だからってノート丸々一冊カーテンのスケッチで埋める? うわ……写実的で怖い……妄執を感じる……」
ぼんやりとした印象の兄──ひなたは、これまたぼんやりとした瞳で妹を見詰める。己が丸一日ひたすらに描きこんでいたノートをぱらぱらと捲っていくゆきみの表情は、言葉とは裏腹に楽しげだ。
「それに、ミーコはもう沢山、沢山描いただろう? ゆきみのスケッチも、数え切れないくらいあるしね」
「うーん……お兄ちゃん、絵描き以外の趣味作らないの? “あんなこと”もあったし……」
「……やっぱり、僕は、絵が好きだから」
とてもとても、仲のいい兄妹。しかし、二人は家の中でしか会話を交わすことがない。
それは、兄であるひなたが家から1歩も外に出ない故だ。
「ね、せめて近所をお散歩しようよ。スケッチの題材とか見つかるかもよ?」
「いいよ。今はインターネットで、外の写真や動画なんて、いくらでも見られるんだからね」
「じゃあじゃあ、お買い物くらい行かない? たまには通販じゃなくて画材屋さんで鉛筆とか買おうよ!」
「いらないかな。今は鉛筆スケッチ以外は、デジタルで描いているから。無料で、高機能なペイントアプリが使えるなんて、いい時代だよね」
「うううー……! な、ならお庭でしゃぼん玉とかしようよ──」
「ゆきみ」
どうにかしてひなたを外へ連れ出したいゆきみは、必死に言い募る。最早名案など浮かばず、幼子のような提案すら挙げてみせた。
それを遮るようにひなたは口を開く。
「僕は、いい」
「ゆきみ、ごめんね」
穏やかで優しげながら、反論を許さない声。
ゆきみにはもう、何も言うことができなかった。
「……ううん、私の方こそごめんなさい」
「ゆきみが謝ることなんて、一つもないでしょう」
「……ごめんなさい、お兄ちゃん」
肩を落としたゆきみは、静かにひなたの部屋を後にした。
「……お兄ちゃんと、また一緒に……お散歩……とか、したいなぁ……」
今にも泣き出してしまいそうなその声を、ひなたは壁越しに聞いていた。
「……もしもし、お母さん」
「──ひなた!? ひなたなの!? あなたから連絡をくれるなんて……一体何年ぶり? どうしたの、何かあったの?」
「お母さんの会社で、作ったっていうVRゲームって、……どんなの、ですか」
「え?」
「14歳の女の子が、遊んでも……楽しい、もの、ですか」
仲のいい二人は、今日も兄の私室の中で楽しく会話をしていた。
「ねーお兄ちゃん、今日も何か描いた?」
「うん、今日はね、カーテンを描いたよ」
「カーテン!? もっと面白いのなかったの!? ミーコとか描いてよかわいいんだからー」
ソファに腰掛けた快活な妹──ゆきみが言葉を放つと、まるで意味を理解しているかのように足元の飼い猫がひと鳴きした。
「カーテンは奥が深いんだよ。ごらんよ、この曲線と直線。風が吹くと形が変わるし、こうして巻き留めると、随分印象が変わるでしょう」
「だからってノート丸々一冊カーテンのスケッチで埋める? うわ……写実的で怖い……妄執を感じる……」
ぼんやりとした印象の兄──ひなたは、これまたぼんやりとした瞳で妹を見詰める。己が丸一日ひたすらに描きこんでいたノートをぱらぱらと捲っていくゆきみの表情は、言葉とは裏腹に楽しげだ。
「それに、ミーコはもう沢山、沢山描いただろう? ゆきみのスケッチも、数え切れないくらいあるしね」
「うーん……お兄ちゃん、絵描き以外の趣味作らないの? “あんなこと”もあったし……」
「……やっぱり、僕は、絵が好きだから」
とてもとても、仲のいい兄妹。しかし、二人は家の中でしか会話を交わすことがない。
それは、兄であるひなたが家から1歩も外に出ない故だ。
「ね、せめて近所をお散歩しようよ。スケッチの題材とか見つかるかもよ?」
「いいよ。今はインターネットで、外の写真や動画なんて、いくらでも見られるんだからね」
「じゃあじゃあ、お買い物くらい行かない? たまには通販じゃなくて画材屋さんで鉛筆とか買おうよ!」
「いらないかな。今は鉛筆スケッチ以外は、デジタルで描いているから。無料で、高機能なペイントアプリが使えるなんて、いい時代だよね」
「うううー……! な、ならお庭でしゃぼん玉とかしようよ──」
「ゆきみ」
どうにかしてひなたを外へ連れ出したいゆきみは、必死に言い募る。最早名案など浮かばず、幼子のような提案すら挙げてみせた。
それを遮るようにひなたは口を開く。
「僕は、いい」
「ゆきみ、ごめんね」
穏やかで優しげながら、反論を許さない声。
ゆきみにはもう、何も言うことができなかった。
「……ううん、私の方こそごめんなさい」
「ゆきみが謝ることなんて、一つもないでしょう」
「……ごめんなさい、お兄ちゃん」
肩を落としたゆきみは、静かにひなたの部屋を後にした。
「……お兄ちゃんと、また一緒に……お散歩……とか、したいなぁ……」
今にも泣き出してしまいそうなその声を、ひなたは壁越しに聞いていた。
「……もしもし、お母さん」
「──ひなた!? ひなたなの!? あなたから連絡をくれるなんて……一体何年ぶり? どうしたの、何かあったの?」
「お母さんの会社で、作ったっていうVRゲームって、……どんなの、ですか」
「え?」
「14歳の女の子が、遊んでも……楽しい、もの、ですか」
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