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頭からお湯をぶっかけ続けてしばらく経って、頭がやっと冷静になる。洗濯機がガコガコと回っている音。俺の汚した場所はどうなったんだろう、布団は?まるで他人事みたいにぼんやりと考える。
泣きじゃくって会話にならない俺を半ば引きずるように風呂場に連れていってくれた由希さんはどんな顔をしていたのだろう。
大丈夫って言って背中をさすってくれたのに、引いていたらどうしよう、って思ったら怖くて一回も目を合わせられなかった。
「なっさけねー…」
風呂場から出ると、タオルと由希さんの服一式が揃えられている。なるべく時間をかけて、一枚一枚を身につけていく。
あー…由希さんに会いたくない。多分あの人は優しいから直接は言わない。だから、怖い。呆れてるかもしれない。怒ってるかもしれない。嫌われてるかもしれない。
こんな幼稚な失敗する奴と付き合いたくない、そう思われていたら。
ぐるぐるぐるぐる。時間だけが過ぎていく。
外に出ると、俺の水溜りはすっかり消えていた。
もう、疲れた。好きな人をつくるの。そもそもこの体で恋人を作ること自体がおこがましいことだったんだ。
別れてしまおう。
「あの…あがりました…」
「おかえりー…って髪濡れてるよ?ちゃんと乾かしな?」
タオルで髪を拭いてくれる由希さん。あんなに迷惑をかけたのに、なんで優しくしてくれるんだろう。
「これ…」
「ん?」
だめだ、喋ったらまた、泣きそう。
「布団のと、汚した服のお金…一万しか
ないので、足りなかったら振込先教えてください。」
「え、ちょっと…」
「この服は後日洗濯して郵送します。迷惑かけてすみません。今までありがとうご…」
「ちょっと!!まって!!」
いきなりの大声にびっくりして、思わず黙ってしまう。
「俺たち別れるの…?」
「だって…」
「だって?」
しゃがんだ由希さんを見ると、途端に視界がぼやけてきて。
「やっと目があった」
頬を挟む白い手に、涙がいっぱい伝う。
「おれ、まいにちおねしょするから、」
「うん、で?」
「オムツはいてる、し…」
「そっか。それで?」
「それで、それで…ッヒグ、う゛あ゛ぁ゛ぁ゛…」
「どしたのどしたの」
背中をさすられて、感情が抑えられない。
「ッヒグ、オムツはいてるやつはっ、なえるってっ、いわれだもんっ、ほんとになやんでたのにっ、びょういんいったりしたのにっ、おちゃも、といれも、いったのに、」
もういやだ。何でこの歳にもなって、こんなことで悩まないといけないのだろう。
「も゛、だれともつきあ゛わない゛ぃ…」
「とりあえずお茶飲もっか。喉しんどいでしょ?」
ぐしゃぐしゃの顔を軽く拭われ、ソファに座らせられる。冷たいグラスが手に触れる。透明な液体に喉が鳴って、一気に飲んでしまった。
「おかわりは?」
「…いる…グスッ、」
結局、三杯も飲んでしまった。冷静になると、さっきの行動が恥ずかしくて、違う意味で顔を合わせられない。
「ご飯食べる?」
「ぅ゛ん…」
卵焼きと、みそ汁と、ご飯。
(おいしい…)
昨日あまり食べられなかったからか、あっという間になくなってしまう。
「みそ汁とご飯はまだあるよ。いる?」
「ほしい、です…」
「これも食べな」
由希さんのお皿から、卵焼きが一切れ移る。
食い意地張ってるみたいで恥ずかしい。由希さんは何故かニコニコしてるし。
「ごちそうさま…でした…」
「おそまつさま。こっちおいで」
「あ…はい…って、え、あの、」
ソファに誘導されたと思ったら、いきなり膝に乗せられて抱っこされる形になる。
「昨日の分のぎゅー」
「そ、ですか…」
「ご飯味どうだった?」
「おいしかった…です…」
「よかった。昨日あんまり食べなかったから、心配してた」
「ごめんなさい…」
「ううん。いつぐらいからなの?症状が出たの」
「つきあう、まえ…前の彼氏にも、それで別れよって、」
「それは辛いね」
「由希さんは、嫌じゃないの…?」
「凛くんは好きでおねしょしてるわけじゃないんでしょ?」
「はい…」
「なら仕方ないじゃん?生理現象なんだから。歯軋りする人とか、寝言言う人も、止められないでしょ?」
「そうだけど…」
「凛くんは俺がおねしょするって言って嫌いになる?」
「…ならない…」
「でしょ?俺も同じ。しちゃっても洗えばいいし、オムツ履いて安心するなら履けばいいと思う。それよりも勝手にコンビニ行ったり、よそよそしくなる方が嫌かなぁ」
「…ごめんなさい」
「凛くんは俺のこと、好き?」
「好き…」
「俺も好き。だからもっと泊まりにおいでよ。一緒に見たいDVDもあるし、ご飯も作りたいし…エッチもしたいじゃない…?」
「っ~~、そ、ですね…」
「耳真っ赤。可愛い」
するりとなぞられる耳が、くすぐったい。
「やっぱきらい…」
「うそうそ。ごめんごめん」
戻った腕は、今度はお腹を叩き始める。そのリズムがとても、安心して、眠くなってきてしまう。
「眠いでしょ。ちょっとゴロンする?」
「でも…お茶いっぱいのんだ…から…」
「そっか。そういえば凛くんって、ハンバーグ好きって言ってたよね」
「はい…」
「今日のお昼ご飯に作ろっか」
「え…と…でも…映画は…」
「また今度行こう?材料は買いにいかないといけないから、オムツも買っちゃおう。そしたらお昼寝もできるでしょ?」
「うん…」
「今日も泊まってく?」
「…いいんですか?」
「もちろん。一緒の布団で寝よーね」
泣きじゃくって会話にならない俺を半ば引きずるように風呂場に連れていってくれた由希さんはどんな顔をしていたのだろう。
大丈夫って言って背中をさすってくれたのに、引いていたらどうしよう、って思ったら怖くて一回も目を合わせられなかった。
「なっさけねー…」
風呂場から出ると、タオルと由希さんの服一式が揃えられている。なるべく時間をかけて、一枚一枚を身につけていく。
あー…由希さんに会いたくない。多分あの人は優しいから直接は言わない。だから、怖い。呆れてるかもしれない。怒ってるかもしれない。嫌われてるかもしれない。
こんな幼稚な失敗する奴と付き合いたくない、そう思われていたら。
ぐるぐるぐるぐる。時間だけが過ぎていく。
外に出ると、俺の水溜りはすっかり消えていた。
もう、疲れた。好きな人をつくるの。そもそもこの体で恋人を作ること自体がおこがましいことだったんだ。
別れてしまおう。
「あの…あがりました…」
「おかえりー…って髪濡れてるよ?ちゃんと乾かしな?」
タオルで髪を拭いてくれる由希さん。あんなに迷惑をかけたのに、なんで優しくしてくれるんだろう。
「これ…」
「ん?」
だめだ、喋ったらまた、泣きそう。
「布団のと、汚した服のお金…一万しか
ないので、足りなかったら振込先教えてください。」
「え、ちょっと…」
「この服は後日洗濯して郵送します。迷惑かけてすみません。今までありがとうご…」
「ちょっと!!まって!!」
いきなりの大声にびっくりして、思わず黙ってしまう。
「俺たち別れるの…?」
「だって…」
「だって?」
しゃがんだ由希さんを見ると、途端に視界がぼやけてきて。
「やっと目があった」
頬を挟む白い手に、涙がいっぱい伝う。
「おれ、まいにちおねしょするから、」
「うん、で?」
「オムツはいてる、し…」
「そっか。それで?」
「それで、それで…ッヒグ、う゛あ゛ぁ゛ぁ゛…」
「どしたのどしたの」
背中をさすられて、感情が抑えられない。
「ッヒグ、オムツはいてるやつはっ、なえるってっ、いわれだもんっ、ほんとになやんでたのにっ、びょういんいったりしたのにっ、おちゃも、といれも、いったのに、」
もういやだ。何でこの歳にもなって、こんなことで悩まないといけないのだろう。
「も゛、だれともつきあ゛わない゛ぃ…」
「とりあえずお茶飲もっか。喉しんどいでしょ?」
ぐしゃぐしゃの顔を軽く拭われ、ソファに座らせられる。冷たいグラスが手に触れる。透明な液体に喉が鳴って、一気に飲んでしまった。
「おかわりは?」
「…いる…グスッ、」
結局、三杯も飲んでしまった。冷静になると、さっきの行動が恥ずかしくて、違う意味で顔を合わせられない。
「ご飯食べる?」
「ぅ゛ん…」
卵焼きと、みそ汁と、ご飯。
(おいしい…)
昨日あまり食べられなかったからか、あっという間になくなってしまう。
「みそ汁とご飯はまだあるよ。いる?」
「ほしい、です…」
「これも食べな」
由希さんのお皿から、卵焼きが一切れ移る。
食い意地張ってるみたいで恥ずかしい。由希さんは何故かニコニコしてるし。
「ごちそうさま…でした…」
「おそまつさま。こっちおいで」
「あ…はい…って、え、あの、」
ソファに誘導されたと思ったら、いきなり膝に乗せられて抱っこされる形になる。
「昨日の分のぎゅー」
「そ、ですか…」
「ご飯味どうだった?」
「おいしかった…です…」
「よかった。昨日あんまり食べなかったから、心配してた」
「ごめんなさい…」
「ううん。いつぐらいからなの?症状が出たの」
「つきあう、まえ…前の彼氏にも、それで別れよって、」
「それは辛いね」
「由希さんは、嫌じゃないの…?」
「凛くんは好きでおねしょしてるわけじゃないんでしょ?」
「はい…」
「なら仕方ないじゃん?生理現象なんだから。歯軋りする人とか、寝言言う人も、止められないでしょ?」
「そうだけど…」
「凛くんは俺がおねしょするって言って嫌いになる?」
「…ならない…」
「でしょ?俺も同じ。しちゃっても洗えばいいし、オムツ履いて安心するなら履けばいいと思う。それよりも勝手にコンビニ行ったり、よそよそしくなる方が嫌かなぁ」
「…ごめんなさい」
「凛くんは俺のこと、好き?」
「好き…」
「俺も好き。だからもっと泊まりにおいでよ。一緒に見たいDVDもあるし、ご飯も作りたいし…エッチもしたいじゃない…?」
「っ~~、そ、ですね…」
「耳真っ赤。可愛い」
するりとなぞられる耳が、くすぐったい。
「やっぱきらい…」
「うそうそ。ごめんごめん」
戻った腕は、今度はお腹を叩き始める。そのリズムがとても、安心して、眠くなってきてしまう。
「眠いでしょ。ちょっとゴロンする?」
「でも…お茶いっぱいのんだ…から…」
「そっか。そういえば凛くんって、ハンバーグ好きって言ってたよね」
「はい…」
「今日のお昼ご飯に作ろっか」
「え…と…でも…映画は…」
「また今度行こう?材料は買いにいかないといけないから、オムツも買っちゃおう。そしたらお昼寝もできるでしょ?」
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「もちろん。一緒の布団で寝よーね」
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