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スマホと財布を持って外に出る。
付き合ってすぐにもらった合鍵を、初めて使って閉めた。少し大きいジャージがずり落ちそうになるから、ちょっと歩きにくい。そうだ、ここから近いところにコンビニがあるって言っていた。確かこの一本道を進むと着いたはずだ。のたのたと亀のようなスピードで歩いて見えた看板。そのまま入ると、眩しくて思わず目を窄めてしまった。
特に買うものもない。何か食べる気にもなれないし、ウロウロと歩き回るだけ。自然と目に入る、生活用品コーナー。当然、俺の探しているものはない。
(大人が失敗するなんて、おかしいもんな)
夜中で気が滅入っているのだろうか。前の恋人に拒絶されたことを思い出す。
『寝る前にトイレ行けって』
『マジで萎えるわ』
『まじで無理だから。別れよ』
何度ストレスだと説明しても、笑われたまま、話を聞いてくれなくて、その日、俺の家にいた彼は、オムツを履いた奴とヤる気にならない、とわざわざパジャマから着替えて帰っていった。
次の日の会社は地獄だった。お互いがゲイであるということは内緒にしていたのに、俺がおねしょする体質だということだけが、オフィス中に広まっていて。後輩にも今も履いているのか、とからかうように言われて、それがトラウマで会社に行けなくなった。
だから、もう誰にもバレたくなくて、新しい職場の社員旅行にも、古い友人との泊まりもしていない。次あんな風に言われたら、もし由希さんに言われたら、もう絶対に立ち直れない。こんなに悩まなくてはならないのならもう、別れてしまった方が良いのではないか、そう思ってしまう。
「どこいってたの」
そーっとドアを開けると、明かりが漏れて、中から由希さんが出てくる。
「目覚めたら凛くん居ないし。家の中にもいないし、メールも出ないし」
慌ててスマホを見ると、心配するような文言が何件も映る。
「すみません、コンビニ行ってました」
「こんな夜遅くに出かけたら危ないでしょ?ほらもう寝るよ」
「俺、もう少し起きてるので…」
「だめ。寝なくても良いから布団には入っときなさい。疲れてるでしょ?」
「でも…」
「なに」
強い声に一瞬怯む。こんな圧力のある声、聞いたことない。
「凛くんさ、俺と寝るの嫌?」
「なんでそんなこと、」
「だってさ、今まで何回か家誘ったけど断るじゃん。今日もずっと暗いから、疲れてるのかと思ったけど、外行くし」
「ちがう、」
「何がちがうの?」
こんなに詰め寄ってくる由希さんは初めてで、ちょっと怖い。声が出なくて、口だけがパクパクと開いたり閉じたり。
「まあ今日はもう遅いから寝るよ。嫌なら俺、リビング行くから」
「ねます、イヤじゃないです、だから、」
俺が布団に入るのを確認して、電気が消える。
「俺、由希さんのこと、嫌いじゃないです」
「そう、おやすみ」
そっけなく言って、反対側を向いてしまう。これ以上何も言えなくなって、でも、今から布団から抜け出す勇気もない。時計を見ると、3時を回っている。
(…だいじょうぶ、おきてられる…)
手の甲を強く引っ張り上げると、起きていられる。
遠くで包丁の音がする。ぼんやりと目が開くけど、まだ眠い。
(おむつ、変えなきゃ…)
いつものように上体を起こすと、何かいつもと違う。
(あ、そうだ、)
ここ、由希さんの家だ。ぐじゅり、案の定、汚れた布団。
「やっちゃった…」
付き合ってすぐにもらった合鍵を、初めて使って閉めた。少し大きいジャージがずり落ちそうになるから、ちょっと歩きにくい。そうだ、ここから近いところにコンビニがあるって言っていた。確かこの一本道を進むと着いたはずだ。のたのたと亀のようなスピードで歩いて見えた看板。そのまま入ると、眩しくて思わず目を窄めてしまった。
特に買うものもない。何か食べる気にもなれないし、ウロウロと歩き回るだけ。自然と目に入る、生活用品コーナー。当然、俺の探しているものはない。
(大人が失敗するなんて、おかしいもんな)
夜中で気が滅入っているのだろうか。前の恋人に拒絶されたことを思い出す。
『寝る前にトイレ行けって』
『マジで萎えるわ』
『まじで無理だから。別れよ』
何度ストレスだと説明しても、笑われたまま、話を聞いてくれなくて、その日、俺の家にいた彼は、オムツを履いた奴とヤる気にならない、とわざわざパジャマから着替えて帰っていった。
次の日の会社は地獄だった。お互いがゲイであるということは内緒にしていたのに、俺がおねしょする体質だということだけが、オフィス中に広まっていて。後輩にも今も履いているのか、とからかうように言われて、それがトラウマで会社に行けなくなった。
だから、もう誰にもバレたくなくて、新しい職場の社員旅行にも、古い友人との泊まりもしていない。次あんな風に言われたら、もし由希さんに言われたら、もう絶対に立ち直れない。こんなに悩まなくてはならないのならもう、別れてしまった方が良いのではないか、そう思ってしまう。
「どこいってたの」
そーっとドアを開けると、明かりが漏れて、中から由希さんが出てくる。
「目覚めたら凛くん居ないし。家の中にもいないし、メールも出ないし」
慌ててスマホを見ると、心配するような文言が何件も映る。
「すみません、コンビニ行ってました」
「こんな夜遅くに出かけたら危ないでしょ?ほらもう寝るよ」
「俺、もう少し起きてるので…」
「だめ。寝なくても良いから布団には入っときなさい。疲れてるでしょ?」
「でも…」
「なに」
強い声に一瞬怯む。こんな圧力のある声、聞いたことない。
「凛くんさ、俺と寝るの嫌?」
「なんでそんなこと、」
「だってさ、今まで何回か家誘ったけど断るじゃん。今日もずっと暗いから、疲れてるのかと思ったけど、外行くし」
「ちがう、」
「何がちがうの?」
こんなに詰め寄ってくる由希さんは初めてで、ちょっと怖い。声が出なくて、口だけがパクパクと開いたり閉じたり。
「まあ今日はもう遅いから寝るよ。嫌なら俺、リビング行くから」
「ねます、イヤじゃないです、だから、」
俺が布団に入るのを確認して、電気が消える。
「俺、由希さんのこと、嫌いじゃないです」
「そう、おやすみ」
そっけなく言って、反対側を向いてしまう。これ以上何も言えなくなって、でも、今から布団から抜け出す勇気もない。時計を見ると、3時を回っている。
(…だいじょうぶ、おきてられる…)
手の甲を強く引っ張り上げると、起きていられる。
遠くで包丁の音がする。ぼんやりと目が開くけど、まだ眠い。
(おむつ、変えなきゃ…)
いつものように上体を起こすと、何かいつもと違う。
(あ、そうだ、)
ここ、由希さんの家だ。ぐじゅり、案の定、汚れた布団。
「やっちゃった…」
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