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「俺も今さ、腕やらかしてランニングと筋トレしか出来ねえの」
「怪我、ですか…」
会話が続かない。何を喋ればいいんだろう。先輩とまともに話すのが久しぶりすぎて、体が強張ってしまう。
「軽いんだけどな。監督に止められた。まあ大会までには治すよ」
なんか、デカイな。身長は俺より10cm高いぐらいで、水城とそんなに変わらないはずなのに、圧が違う。やっぱりこれが三年の重みってやつなのだろうか。
「練習キツいだろ」
「え!?まあ、そうですね」
「一年1人だけなんだろ?馴染めてるか?」
「あ、はい、まぁ…」
どくん、心臓が跳ねて声が震えてしまった。
「水城は凄いですよね。すげえ馴染んでるというか…」
「まああいつのコミュ力は異常だよな。まだまだ下手くそだけど、アイツは伸びるよ」
 いいな、あいつは。こんな風に言ってくれる先輩が居て。俺も水城みたいに上手く立ち回れたら、今頃嫌がらせもされなかったのかな。
 この人に相談したら、どうなるんだろう。
「じゃあ俺はこっちだから。ゆっくり休めよー」
「あ、あの!!」
「ん?」
「…いえ…なんでもない、です。お疲れ様でした」
馬鹿か俺は。会って5分の奴に相談されたら迷惑だろ。さっき言われたばかりじゃん。

「ありがとうございましたー」
自動ドアが閉まるとともに、店員の声が聞こえなくなる。
新しいバッシュの入った箱を持ち、帰路に着く。前使ってたものは高くて、一番安い物しか手が届かなかった。でもこれで、練習は出来る。どれだけ嫌われてても、休んでばっかりだったら周りとの差が開く一方だ。
「明日からは…ぜったい、行こう…」




「う゛…」
「どーしたん嶋。弁当まだ残ってるけど…」
「ごめん、用事思い出したから行ってくる」
「ふーん。いってらー」

「え゛っ!!」
バシャっ…
嫌な音を立ててさっき食べたおかずが便器に落ちた。胃がキュウウウ、と収縮して、ムカムカする。
「っは…っはぁ…」
出すものを出したらすっきりした。うがいを何回か繰り返しても無くならない口の中の不快感。自販機で買った水をあおりながら戻る。
「あ、やっと戻ってきたー!もー5分で昼休み終わるぞ!」
「わりい」
半分ほど残った白米と、二つの唐揚げ。とてもじゃないけど食べられそうにない。
「あれ?もう食わねえの?」
弁当を畳もうとすると、水城の怪訝そうな顔。
「んー…いいや。あんまり腹減ってない。唐揚げいる?」
「まあいらねえなら食うけど…お前本当に大丈夫かよ」
「なにが?」
「昨日も練習休んでたし。どっか悪いんじゃねーの?」
「いや、別に…」
「ほら」
「何?」
「プロテインバー。練習始まる前にでも食っとけ。バテるから。お前んとこ、今日外周だろ?」
「…ありがと」
背中から嫌な汗が流れて、口の中がカラカラしてる。緊張しているのだろうか。ペットボトルの水は、半分以上減っていた。



「おはようございます!!」
返ってこないのは分かっているけどいつものように挨拶をして部室に入った。ロッカーに昨日入れっぱなしだった使えないバッシュに心が痛むけど、何もされていないことに安心する。
久しぶりの練習だからか、心臓がずっとうるさい。でも、いい。俺は部活がしたくてこの学校に入ったんだ。この状況がずっと続くわけでもない。とにかく上を目指すことだけを考えるんだ。
ふるっ…
とは言っても体は正直。緊張からか、そのせいで水を飲みすぎたからか、トイレに行きたい。今日は外周だから早く済ませて行かないと。
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