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 だるい。体重い。絶対悪化してる。喉が詰まった感じで、息が熱い。スマホで時間を見ると、起きる時間の30分前。一応体温を測りに行こう、そう思って体を起こした時だった。
「………は?」
濡れている、服が。それも、尻の部分だけが。
「っ、え?、まじで、」
 理解が追いつかない。頭の中がぐちゃぐちゃしてて、でもとてつもなく恥ずかしいってことと、片付けないといけないってのは分かって。
 掛け布団も枕元全部地面に落としてシーツを急いで剥がす。でも、下まで染みてしまっているから、これも洗わないといけない。でも、こんなに分厚いものの洗濯なんて、どうすれば良いか分かんない。
「水分、ふきとる、シャワーでながす、」
スマホで調べると、何件も処理の方法がヒットする。『子ども』『犬』『赤ちゃん』。当然であるが、どこのサイトにも俺みたいな高校生の失敗を前提にしていない。その事実にまた、泣きそうになった。
とりあえず布団を持って、風呂場に向かう。しんどい。息苦しい。横になりたい。ぐしょぐしょの冷えたパジャマで必死に布団を洗ってるって、どれほどに惨めなのだろう。
「っぁっ、」
体勢を変えようと腰を上げた時。地面が滑ってこけて全身までもがびちゃびちゃ。その上棚のボディソープやらシャンプーやらが落ちてくる始末。あーあってなって、どうしようもなく投げやりな気持ちになって。滑稽な自分に苦しくて、思わず笑ってしまう。
「大丈夫?すごい音したけど…」
気づけば和樹さんも起きてきたらしい。洗面所の扉が開く音がする。
「おーい、大丈夫そ?」
風呂場の扉も呆気なく開かれて、露わになる自分の失敗。
「あー…布団よごしちゃって、」
「ごめ、なさい、…」
気まずい。恥ずかしすぎる。死にそう。
「体調悪い?昨日ご飯残してたし、お風呂も入ってなかったでしょ」
「ぁ、え、と…」
「疲れ溜まってるんじゃない?」
「ぁ、あ…」
言われたかった言葉。昨日求めていた言葉。こうやって心配して欲しかった。グッて息が詰まって、喋ったら泣いてしまいそうだったからこくりと頷いた。
「おいで。寒いでしょ」
 床暖房で足の裏がじんわりと温かい。冷たい体がほぐれてその場にへたり込んでしまう。
 温かいタオルに清潔な着替え。温かいお茶に分厚い毛布。冷たかった体がじんわりしていってまた、眠くなりそう。
「とりあえず熱測ってみよっか」
自分の中では火照っていて、寒くて。明らかに不調なのに、おねしょまでしてしまうほどなのに。
「36.8℃かー…どうする?今日は一応休んどこっか」
ああやっぱり。普通の人にとっては大したことなくて。しんどいフリすんなよって思われて。どれだけ言っても信じてもらえない。そんな事は経験済み。でも。
「…おれ、うそついてない、」
「んぇ?何が?」
「うそついてないぃ、」
しゃくりあげてしまった。引き攣った息は戻らなくて、涙がボロボロ出て苦しくて。
「おーー…っと、どうした?何何?嘘って?」
「おれ、しんどい、きのーも、保健室、いった、」
背中、さすられている。明らかに向こうも困惑している。ガキみたいで恥ずかしい。だけど、今の俺にはそれが心地よくて。
「体温ひくい、から、熱、ないけど、」
親にはよく、サボらずに行けと怒られた。友達にも大袈裟だと呆れられて、それからは言いづらくなって、隠すことが増えた。
「みんな、熱でてずるい、おれだって、やすみたい、」
「がっこー、やだぁ…」
和樹さんの肩に顔を擦り付けて、ぐずぐずと鼻を鳴らす。高校生がこんなことをしても全く可愛くない。むしろ見苦しいだけ。だけど、優しい優しい和樹さんは、頭を撫でてくれた。
「ん、しんどいもんね。今日はお休みしようね」
「サボって、ない、ごはん、ほんとにたべれない、」
「分かってる。そんな事する子じゃないもんね」
「っ゛、ほんと、だから、」
「疑ってないない。ほら、早くお布団行こ」

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