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番外編2
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久しぶりにやらかした。布団がやけに気持ち悪くて目が覚めた。最近は全くしていなかったのに。鬱々とした気分で敷き布団を引っぺがし、せっけん水で濯ぐ。乾いたタオルで水分を出来る限り取っておけば部屋の中で干しても乾く、師匠はそう言っていた。だからあの時みたいな焦りはない。ただ、苦虫を噛み潰したような気持ちの悪さが蝕んでいく。足が痛い。多分、気のせいなんだろうけれど。
『あの人の優しさに漬け込みすぎない方が良いんじゃないの?』
思い出しては気分が落ちて、そんな事ないと言い訳をして。でもマイナスな考えの方がずっと早くに広がっていく。
(明日…行きたくない…)
予備の布団を敷き、潜る。朝日が出かかっている事に、次目を覚めた時には師匠の店に行かなきゃいけない事に絶望した。
「今日もうまかったよ。ご馳走様」
いつものお客さんの声。ありがとうございますと返すけれど、素直に喜べない。どうせ馬鹿にしてるんだろって嫌な考えばかりがよぎってしまう。
あれから3日も連続して失敗して、布団を汚して。その上雨続きで余計に足が痛むからだろうか。頭がぼーっとして、余計に馬鹿になってしまう。
「あれ、あと銅貨10足りなくない?」
「ぁ、…ごめ、申し訳ありません、」
「顔疲れてんねぇ~、ちゃんと寝てる?」
丸いお腹の優しい優しいお客さん。いつもなら素直な気持ちで聞けるのに、本音はどう思っているんだろうって怖くなる。
1番端のカウンターで、あの人が座っている。チラリとこちらを睨むようにして、そしてすぐに師匠との話を再開した。
怖い。人と喋るの、怖い。皆本当は俺のことどう思っているんだろう。そう考えると笑顔の作り方も分からなくなって、歩き方も、酒の注ぎ方もどうやってたっけってなって。
「ししょう、頭いたい、帰っていい?」
少し驚いたような表情を見せた師匠は大丈夫?と俺の頬を触る。
「雨続いているもんね。いいよ。ゆっくり休みなね」
「…ごめん、」
師匠の顔を見るのも怖くて下を向いたまま裏に回る。一刻も早くここから逃げ出したくて、家まで全力で走った。
部屋に戻った途端、急に息がしやすくなって、それと同時に罪悪感に苛まれた。頭痛いって顔出来てたかな。仮病ってバレていないかな。今からごめんなさいして店に戻った方が良いかな。布団に寝っ転がるも、全然眠くならない。嫌な気持ちが広がるだけ。
吐く息が熱い。本当に体調が悪くなれば良いのに。そしたらミスも、失敗も全部許されるのに。
「アルス?具合はどう?」
控えめなノックでふっと意識が浮上した。眠くないと思っていたのにいつの間にか眠っていたらしい。2時間も経っていない睡眠でもしっかり濡れた下半身に嫌気がさす。
鍵が開く音がした。
「…寝てるかな…」
寝たふりを決め込もう、そう思っていたけれど、これ以上嘘を重ねるのは罪悪感で緩く体を起こした。
「…ししょー?」
寝ぼけたフリ。頭が痛いフリ。しんどいフリ。
「具合はどう?スープ持ってきたんだけど食べられそう?」
「…たべれる、あ、のね、おれね、」
おねしょした。言って後悔した。恥ずかしかったからではない。体調不良の意味付けに利用しようとしたからだ。
「着替えよっか。自分でできそう?」
「…できる、」
ただの失敗なのに。気遣うように、励ますように背中を撫でる師匠の手が辛い。
「足は痛くない?天気が悪いから」
「…いたい、」
「温かいお茶も淹れようね」
自分でできるのに布団を洗わせた。足の痛みなんてほとんど無いのに痛いと言った。
しんどくないのにまだ頭が痛いと言った。
「…ごめんなさい、」
「…何で謝るの。アルスはなにも悪くないでしょ?」
頭を撫でられてホッとした。優しくされている、世話を焼いてくれている。師匠は俺を見捨てない。見捨てられていない。
よかった。
『あの人の優しさに漬け込みすぎない方が良いんじゃないの?』
思い出しては気分が落ちて、そんな事ないと言い訳をして。でもマイナスな考えの方がずっと早くに広がっていく。
(明日…行きたくない…)
予備の布団を敷き、潜る。朝日が出かかっている事に、次目を覚めた時には師匠の店に行かなきゃいけない事に絶望した。
「今日もうまかったよ。ご馳走様」
いつものお客さんの声。ありがとうございますと返すけれど、素直に喜べない。どうせ馬鹿にしてるんだろって嫌な考えばかりがよぎってしまう。
あれから3日も連続して失敗して、布団を汚して。その上雨続きで余計に足が痛むからだろうか。頭がぼーっとして、余計に馬鹿になってしまう。
「あれ、あと銅貨10足りなくない?」
「ぁ、…ごめ、申し訳ありません、」
「顔疲れてんねぇ~、ちゃんと寝てる?」
丸いお腹の優しい優しいお客さん。いつもなら素直な気持ちで聞けるのに、本音はどう思っているんだろうって怖くなる。
1番端のカウンターで、あの人が座っている。チラリとこちらを睨むようにして、そしてすぐに師匠との話を再開した。
怖い。人と喋るの、怖い。皆本当は俺のことどう思っているんだろう。そう考えると笑顔の作り方も分からなくなって、歩き方も、酒の注ぎ方もどうやってたっけってなって。
「ししょう、頭いたい、帰っていい?」
少し驚いたような表情を見せた師匠は大丈夫?と俺の頬を触る。
「雨続いているもんね。いいよ。ゆっくり休みなね」
「…ごめん、」
師匠の顔を見るのも怖くて下を向いたまま裏に回る。一刻も早くここから逃げ出したくて、家まで全力で走った。
部屋に戻った途端、急に息がしやすくなって、それと同時に罪悪感に苛まれた。頭痛いって顔出来てたかな。仮病ってバレていないかな。今からごめんなさいして店に戻った方が良いかな。布団に寝っ転がるも、全然眠くならない。嫌な気持ちが広がるだけ。
吐く息が熱い。本当に体調が悪くなれば良いのに。そしたらミスも、失敗も全部許されるのに。
「アルス?具合はどう?」
控えめなノックでふっと意識が浮上した。眠くないと思っていたのにいつの間にか眠っていたらしい。2時間も経っていない睡眠でもしっかり濡れた下半身に嫌気がさす。
鍵が開く音がした。
「…寝てるかな…」
寝たふりを決め込もう、そう思っていたけれど、これ以上嘘を重ねるのは罪悪感で緩く体を起こした。
「…ししょー?」
寝ぼけたフリ。頭が痛いフリ。しんどいフリ。
「具合はどう?スープ持ってきたんだけど食べられそう?」
「…たべれる、あ、のね、おれね、」
おねしょした。言って後悔した。恥ずかしかったからではない。体調不良の意味付けに利用しようとしたからだ。
「着替えよっか。自分でできそう?」
「…できる、」
ただの失敗なのに。気遣うように、励ますように背中を撫でる師匠の手が辛い。
「足は痛くない?天気が悪いから」
「…いたい、」
「温かいお茶も淹れようね」
自分でできるのに布団を洗わせた。足の痛みなんてほとんど無いのに痛いと言った。
しんどくないのにまだ頭が痛いと言った。
「…ごめんなさい、」
「…何で謝るの。アルスはなにも悪くないでしょ?」
頭を撫でられてホッとした。優しくされている、世話を焼いてくれている。師匠は俺を見捨てない。見捨てられていない。
よかった。
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アルス君…( ; ; )
いつも呼んでくださりありがとうございます😭
このお話大好きで定期的に読みに来ている者です。更新嬉しい&番外編ありがとうございます!
(以下ネタバレ含んでいます)
師匠から捨てないよと言われていても本当に?と不安になって確認するような行動を取っちゃうアルス君愛らしいですね。良い意味で子供になってきてる気がします。アルス君に幸あれ…!
返信遅くなってごめんなさい💦
たくさん読んでくださってありがとうございます!すごく嬉しい…😭
幸あれ…!!
嬉しい…沢山褒めていただいてニコニコしてしまいました…ありがとうございます😭
アルスくんには幸せでいて欲しいものです…