女性恐怖症の高校生

こじらせた処女

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(…トイレいきたい)
 今日、何か体が変。5時間前からずっとある尿意。昼休みに駆け込んで何とか出せたっきり。それからは何度トイレに向かってもいざ前を広げると出せない。眠気を押さえるためにあんなに栄養ドリンクとかコーヒー、飲まなきゃよかった。ギリギリになって限界になって駆け込んで初めてスッキリできるこの膀胱はどうしてしまったのだろう。でも、腹を壊しているわけでもないのにトイレに籠ってたら変だし。半ばモジモジと椅子の下で擦り合わせ、仕事を進めなければならないのが地味に辛い。体が重くて、肩が凝る。歩くのも、デスクに座るのでさえ辛い。楽な場所がない。全部が不調で、息を吐くのも疲れる。
 ああ、腹、重い。
(先生に…そうだん…)
何て言うんだ。おしっこが上手く出せない、って?毎日見る嫌な夢のせいで眠れない、って?自慰行為出来ないとか、恥ずかしすぎて死にそう。口に出すことさえも憚られる。

 じっとりと汗が滲んで、足をぴっちりと閉じる。
「おいお前、大丈夫か?」
ふと叩かれる肩。後ろを振り返ると先輩が怪訝そうな顔で見ている。
「顔真っ白。昼飯ちゃんと食ったのか?」
「ぁ、いや、何か…すみません、トイレいってきます、」
パンパンに膨れた膀胱と共に、1番奥の個室に入る。本当に漏れそうで、でも、いざ前を広げると出てくれない。お腹苦しい。座って力を入れてみても、下腹が痛むだけ。出口は湿ってもくれない。

「あ、帰ってきた。大丈夫?」
時計を見ると、30分も経っていた。
「綾瀬、今日はもう帰れ。本当にお前倒れそう」
腹を下しているのか、吐き気を孕んでいるのか。きっとみんなそう思っている。誰も小便が出なくて困ってるなんて思いもしない。
「すみ、ません…お先に失礼します…」
いつもより2時間早い就業時間。重い体を引きずって外に出る。
(…といれ…)
 どうせ出ないのは分かっているけど、青いピクトグラムを見たら足を擦り合わせてしまう。本当は前を握りしめたいぐらいに切羽詰まっているのだから。
 電車、耐えられるかな。痛いくらいに張り詰めたお腹はいつはち切れるか分からない。細やかな振動が辛い。座席に座って前をカバンで隠してこっそり握る。そろそろ我慢する筋肉が疲れてきた。どうせトイレに行っても出せないんだから、いっそのこと力抜いちゃおう、そう思って少しだけ、括約筋を緩めた時だった。

じゎぁ…
「っっっっっ!!!!」
やばい、ちょっと出た。何で。トイレの中だったら出てくれなかったくせに。
慌てて前をぎゅうぎゅう握りしめて、下腹を宥める。
(次の、えきっ、)
じわじわと出続けているそれは止まってくれない。電車が止まりドアが開いた瞬間、駆け足で飛び出してトイレを探す。あまり降りない駅だから、どこにあるのかが分からなくて必死にキョロキョロして。
「あっ、あっ」
スーツの下ではもう、何筋も水が垂れている。下着はもう、ぐちゅぐちゅと音を立てるくらいに水分を含んでいる。
みっともなく前を押さえて走っているから、すれ違う人に何度もチラチラとみられて恥ずかしい。
「っ、あっ、た、」
トイレの矢印マークを見つけ、また出口が緩む。あとちょっと、あとちょっとだから。膨らんだ下腹を宥め、やっと。
 中に入ると幸い誰もいなくて、1番手前の便器の前に立つ。でも、じゅううう…と空気を読まずに出続けているソレを止めるために両手を使っているからベルトを外せない。
「っ゛~、」
このままじゃ。このままじゃ、全部ぶちまけちゃう。全部、でちゃう。
勢いよく個室のドアを閉め、腰掛ける。
じゃああああ…
パンツもスーツも突き抜けて、尻が一気に暖かい。
「ぁ゛、ぁ…」
ベルトを外そうとカチャカチャと足掻いていたが、諦めた。何度行っても出てくれなかったのに。何で今。会社で失敗しなくて良かった、謎に安心すると同時に、こんなに濡れそぼった服でどうやって帰るんだっていう喪失感。
トイレットペーパーを一巻き全部使っても濡れている。靴の中までぐっしょりと。
「っ゛、っ、」
限界だった。ボロボロと涙が溢れて、何度も何度も目元を拭うけど、止まってくれない。今日一日耐えていたものが一気に溢れた感じ。必要以上に気分が落ちてるから、どうしようもなく投げやりで、でもどうすれば良いか分からなくて。

 ひとしきり泣いたら、見たくなかった現実が顔をだす。どうやって帰れば問題である。
(だれか…)
先生は…遠すぎるし。同僚だってそこまでしてもらうほど親しくない。
紙で拭いてもベタベタのままの手で何度もチャットをスクロールする。
(大丈夫かな…濡れてるの、あんまり分かんないし…帰るだけだし…)
何度も後ろを確認してそぉっと個室を出る。すぅすぅする下半身に、すれ違う人は気づいてなさそう。どう見られるんだろう。あいつ漏らしたのかなって思われるのかな。そう考えてしまったら怖くて、個室にまた逆戻り。
心臓がうるさい。このまま帰れなかったら、もう少し人が減ってから。1人の個室ってこんなに心細かったっけ。こんなに怖かったっけ。
 ふと、スマホが震える。一件のメッセージの送り主を見て、自然と涙が溢れる。
:秋葉さん、今どこ?
たわいもない会話を切って送る。今仕事、終わったのだろうか。それとも休憩なのか。
 既読はすぐについた。

:今会社出るとこだけど…どうしたの?
:〇〇駅って遠い?
:いや、俺の会社の最寄りの二つ先だけど…
:着替え買ってきて欲しい…です…
 送った途端、かかってくる電話。
『もしもし、大丈夫?気分悪くなっちゃった?』
あ、秋葉さんの声だ。途端、自分でも分かるくらい、肩の力が抜けたのが分かった。
「…ごめんなさい」
鼻を啜ったの、バレただろうか。泣きそうなの、バレただろうか。
『もーーっ、何で謝るの!!それより寒くない?あと何か欲しいものある?』
「…ない、」
声が詰まって上手く話せない。秋葉さん、秋葉さん、秋葉さん。頭の中いっぱいに映る秋葉さんの顔。早く会いたい。早く来てほしい。声を聞くと、もっともっと心細い。




 







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