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「っ…マジでなんなんだよ」
嘘だろ本当に。下半身にじっとりと広がる温もりは絶対、汗でも秋葉さんの体温でもない。今日は嫌な夢、見ていないのに。最近してなかったのに。何で、よりによってここで。
「あきは、さん、」
 秋葉さん、起こさなきゃ。起こして、謝らなきゃ。今日絶対に疲れてるはずなのに。気持ちよく寝息を立てているのに。
「あきはさん、」
腕を退けて上半身を起こす。グジュ…自分の履いている下着から、嫌な音。
「あきはさん、…ごめん、ふとん、よごしたから、」
「…ん゛…どぉした?」
ぽやぽやと、舌ったらずに言う秋葉さんはきっとまだ覚醒していない。
「おしっこ、…」
「いっしょに行くぅ?」
「…ふとん、にぃ…゛、」
ごめんなさい、何度言っただろうか。声がひっくり返って、どんどん冷や汗が滲んでくる。
「ごめ、なさ…さいきんしてなかった、から、…油断してた…かたづけるし、べんしょう、する、から」
「ん、お風呂一緒に入ろっか」
電気がつくと、嫌でも自分の幼い失敗が浮かび上がる。秋葉さんの太ももあたりも、ぐっしょり。
「ごめん、あきはさんは、はいってて、あらうから、」
「えー、そんなの良いから一緒に入ろ?風邪引いちゃう」
「シミ、なっちゃうから、」
不思議と涙は出ない。やばい、って。ただ、焦っている。ちゃんと片付けないと、シーツ、大丈夫かなって、頭が軽く混乱して、まとまらない感じ。
「んじゃあ洗濯機だけ回しとこっか。ほら見て、防水シーツ。下染みてないよ?ね?」
何で秋葉さんの布団に。だってこれは、小さい子がする失敗で、とんでもなく恥ずかしいやつで。
「俺もさ、たまーにやっちゃうから。お守り代わりにね」
「…あきは、さんも?」
「高校の頃結構酷くて。布団どころか、リビングでもやっちゃったからね?うたた寝してて、ソファにしーって」
「おこって、ない?」
「ないない。」
「おれ、変じゃない?」
「もー、宇津希よくそれ聞くよね。変じゃないよ。生理現象じゃん」
「っ゛、」
「ぅおーっと、今泣く?よしよし、お風呂行こ、ね?」
「…ぁっ、」
秋葉さんに手を引かれて廊下に出た時。ひんやりとした地面に足をつけた時。全身がブルリと震え、今まで何にも反応を示さなかった膀胱が急に主張を始める。
「っ、ぅ゛…」
ジワリと嫌な熱を感じた。
シーツを持ったまま慌てて前を抑える。
「ぁ、…っ、んぅ、」
目の前にトイレあるじゃん自分。何でその1秒2秒を耐えられないの?ドア、開けるだけじゃん。
「ぁ…ぅ、」
じわじわとシーツに染みていく。温い液体が、少しずつ。
「っ、ん、」
ダメ、もうちょっとだけ。察した秋葉さんが気を利かせて扉を開いて、俺の背中を押して。
「も…むり…」
じわあぁぁぁ…
口に出して仕舞えば、決壊しかけの出口はぱっくりと開く。足を伝っていく感覚が嫌で、股をシーツに押しつけたまましゃがみこんだ。
「ぅ゛、ぁ、」
流石に恥ずかしい。布団を濡らすのも相当だけど、便器の目の前で、しゃがみ込んで、前を握りしめたまま。
「ぁ、ぁぁぁっ、、」
こんなの、お漏らしじゃん。本当に俺の体、変。泣いたから?泣いて、本当に子供に戻っちゃったの?
 パンパンに張り詰めたお腹が急激に萎む。我慢、できなくなっちゃったのかな。気持ちいい。おしっこ、あったかい。恥ずかしい。恥ずかしいのに、心地いい。
 秋葉さんの手が下腹部を撫でている。涙でぐしゃぐしゃの顔を優しく拭ってくれる。
 泣いてしまえば、涙を流してしまえば考える容量が小さくなる気がする。頭がぼーっとして、ふわふわして、気持ちいい。

「もー出ない?」
「ん…」
とろとろに頭がとろけて、なんか、すごく。
もっと、もっと甘えたい。
「ズボン脱げる?」
「んー…」
全部できないって言ったらどうなるんだろう。ズボンもパンツも脱がしてくれるんだろうか。そんで…。
「ぁ、…っ、」
想像して、カァッと頬が熱くなった。
「ぃ、いい、できる、」
何考えてるんだ自分。そんなの赤ちゃんじゃん。冷静に考えろよ。18の男がそれは見苦しいだろ。

「ん、脱げたね。これとか濡れちゃったの全部入れてー」
秋葉さんがぐっしょりと濡れた防水シーツを洗濯機の中に入れる。
「全部ここ入れちゃいな」
言われた通り、ぐしょぐしょに濡れたそれらを放り込む。
「洗剤入れてー…はい、ここピッてして」
言われた通りにスタートボタンを押すと、よくできましたと褒められて、えらいえらいと頭を撫でられた。

 何だろう、この感情は。全部の行動を褒めてくれて、頭をなでなでしてもらえて。赤ちゃんに戻ったみたいで心地いい。お風呂の中で抱っこされるってこんなに気持ち良かったんだ。
「ふふっ、どうしたの今日。すっごい甘えたさん」
お腹の奥がキュンとする。耳元で秋葉さんの声が聞こえて安心するのに、何か。
「ゆーっくりあったまってこーね」
眠くないのに目を閉じたい。誰かと入るお風呂ってこんなに気持ちいいんだ。このまま、時間が止まってほしい。



「そろそろ上がろっか」
肩をトントンと叩かれて、目を開けた。本当に寝ていた気もするし、意識があった気もする。
「ん…っ、ぇ、」
湯から出て気づく、局部の違和感。ジクジクと痛むソコは、緩く勃ちあがっている。
「ぁっ、ちがっ、これは…」
内股で、腰をひいて。ぐいぐいと手で押さえるけど、おさまることを知らないソコは、ブルンと上を向いたまま。
「あー…あったかかったからね。俺先上がってるから、処理しちゃいな」
 何で、いやらしいことなんて一つも考えてない。そりゃ自慰行為なんて気持ち悪いこと、全くしてなかったけど。でも、たまに朝夢精していたし、会社でも家でも勃起しなかったのに。
 いきなり一人になった風呂場は冷たい。秋葉さんの気配はとっくにない。きっと気を利かせて戻ったのだろう。
「っは、っ、~…」
 いやだ、何で。絶対嫌だ。こんな汚いことしたくない。ただお風呂に入っただけ。なのに、こんな。
 ふと思い出す、さっきのこと。何でお腹、疼いたの?秋葉さんの声にムズムズしてたのは何で?撫でられてポカポカしたのって。
 お漏らし、ほんとは気持ち良かったんじゃないの?
 小っちゃい子供みたいにおしっこお漏らしして、お腹撫でられてる時、何て思った?

 小さい頃の出来事が頭をよぎる。執拗に性器の先端を弄られて、ボディソープでぬるぬるになったあの人の手で全身をクマなく触られて。幼いながらに嫌だったのを覚えている。多分本能で分かっていたんだろう。
 
 性的な目で見られないの、すっごく安心して。おねしょしても、お漏らししても、大丈夫って言ってくれて、頭撫でてくれて。濡れた下半身を嗅がれたり、変な声を出しちゃうと鼻息が荒くなったり、そういうの、なくて。ただ純粋に心配してくれて、励ましてくれて。

 もう一回小さい頃に戻りたかったのかな。戻って、秋葉さんとお風呂入ったり、抱っこされたかったのかな。

『えっちぃ声』
『だめよぉ?お布団でおしっこしちゃぁ。悪いおちんちんにはお仕置きが必要かなぁ?』

「っ、っ゛~、」
 最悪。自分が気持ち悪すぎる。レバーを回し、1番低い温度の水を出して頭からかぶった。
(おさまれおさまれおさまれ…)
風呂場で欲情とか、あいつと一緒じゃん。勝手に相手に興奮して、チンコ勃てて。さっきの幸せな時間、もう思い出したくない。
 醜い大人になりたくない。
 
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