女性恐怖症の高校生

こじらせた処女

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 始発の電車が待ちきれなくて、薄暗い中をひたすら歩く。でも人の足の歩みは結局遅いから、到着はせいぜいいつもの1時間前。バスケットボールの跳ねる音が体育館で聞こえた。


「あ、綾瀬。どうしたのこんな早くに」
恐る恐る扉を開けると、奥から白衣を羽織ろうとしている先生が出てくる。あ、やばい。喋ったらまた泣きそう。
「…、」
「珍しいね。朝練の子がさっき門通ってったぐらいだよ?」
「…ん、」
「最近あんまり来てくれないから先生寂しかったのよ?あれからクラスの子と何にもない?」
「ん、ゆるしてくれた、」
「そっかぁ…それで、何で下向いてるのかな?先生顔見たいなぁ」
「っ、゛、」
だって、一晩中泣いて見せられないぐらいにひどい顔だし。風呂にも入ってないから汚いし。
「綾瀬?どっかしんどい?言ってごらん?」
昨日からピンと張っていたものが、切れた。先生の手が頬に触れた瞬間、喉がグッと詰まる。
「せんせ、…ぇ…」
何を言えばいいか分かんない。頭の中のモヤモヤを言語化できない。
「どしたの…かなしーことあった?」
あ、俺子供みたいだ。屈んだ先生はこちらを覗き込んで、腕を優しく撫で始める。
「ぁ゛、のね、…」
「うん、聞いてるよ」
「…おなか、すいた…ぁ、」
「うん…ってえぇ!?お腹?痛いんじゃなくて?」
先生が驚きながら笑っている。
俺だって聞きたい。何でこんな事を言ったのか。
「どーしよっか…空腹で泣く子は初めてだからなー」
「な゛んで、わらうの、?」
そりゃあこんな意味の分からない理由で泣いてたら笑うだろう。俺だって友人がそう言って泣き始めたらドン引きするし。
「ごめんって。朝ごはん食べた?」
「たべて、ない、ちょこたべたい…ちょーだい、」
「そんなんじゃお腹溜まんないでしょ?うーん、どうしよっか…先生のお弁当食べる?」
机の上に置いてあったお菓子を取ろうとすると腕を掴まれた。それでまた、泣きたくて仕方がない。
「…ん、っ゛ぅ゛~…」
「唇噛み切らないの。本当どうしちゃったの今日…そんなにチョコ食べたい?」
違う、多分理由はなんでも良かった。どうしようもなく泣きたくて、誰かに見て欲しかったのだ。でもそんなこと言えるわけもなくて、ただただ涙を溢してしまう。
「もぉ…そんな泣いてると先生まで悲しくなっちゃう…おいで、ね?お茶入れよっか」
唐揚げ好き?と背中を何度も摩りながら聞いてくる先生。ああ、絶対困っている。早く泣き止まないと、そう思うのにできない。先生も一言迷惑って言ってくれたら。ワガママ言うな、自業自得だと言ってくれれば。
甘すぎる先生の暖かい手に触れてしまったらもう何でも許してくれるって思ってしまう。今の俺はドロドロに理性が溶けた、赤ん坊同然だ。



「無理して食べなくて良いのよ?ご馳走様する?」
「…おなか、すいてたはず…なんだけど…」
唐揚げを一つ、卵焼き。ご飯を半分くらい食べた時点で進まなくなる箸。ずっと胃がチクチク痛くて横に体を倒したい。
「目の下クマ出来てんね…昨日ちゃんと寝た?」
「んーん…」
「授業始まる前まで寝ておいで。起こしたげるから」
「…いい…」
「何なら1時間目休んじゃう?そんな体じゃ持たないよ」
「…いい、」
「なら家帰りな。絶対倒れるから」
家、それだけは嫌だ。でも、あの日から治ってないし。絶対に布団、汚すし。
「…いいって…大丈夫だから…」
「ダメです。今日の綾瀬の選択肢は2つ。ここで休むか、帰るか。どっち?」
いつもは甘すぎるくらいに優しいくせに、こういう時はどうごねても意見を曲げてくれない。
「…ねます」
先生はずるい。


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