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しおりを挟む「おーい…」
耳元に息がかかる。心臓はバクバクで、泣きそう。バレる、絶対バレるのは分かっているけど。
「ごめ…なさ…」
肩を叩かれて、体が跳ねる。思わず出した声はカサカサ。自分でも聞こえないくらいに。
「どう?戻れそう?」
「む…り…」
「ん、そっかそっか。こっちから言っとくね。あとさ、顔ちょっと赤いからもう一回熱測れる?」
手渡された体温計と水のペットボトル。体温計だけ手に取って、寝たまま脇に挟む。
無機質な音が鳴って表示を見ると、36.8度と平熱。
「風邪ひく前なのかもね。熱い?とりあえずお水飲みな。喉乾いてるでしょ」
「…いらない、」
「一口だけで良いから。起き上がれそう?」
正直喉は乾いている。コップにトクトクとうつされる音だけでゴクリと喉が鳴るほどには。でも、体、起こしたら。そうは思うけれど、これ以上モダモダしていたらもっと怪しまれてしまう。なるべく布団を体に沿わせて、臭いが漏れないように。
「はいどうぞ」
手渡されたコップを何口か飲むけれど、バレていないか気が気ではない。
「もう一杯飲む?スポドリもあるよ」
「っ、いい、」
言わなきゃ。早く。どうせ早かれ遅かれ言わなきゃ駄目なことなんだ。一生この布団の中に居るわけじゃないだろ?
「そっか。どうしよっか…まだ動けるうちに帰っちゃおうか…」
「え、…うん…」
「んじゃあ荷物取ってくるね」
先生が出て行った。とりあえず確認するのは、布団の中。ズボンは意外と分からない。でも、敷布団は見事に濡れている。汗っていうのは無理がありすぎるくらいには。
水、溢しちゃったことにしようかな。
ベッドサイドに丁寧に並べられたペットボトル達。そこには未開封のものもある。手に持って、キャップを外して。でも、こんなのもしバレたら。普通に謝るよりもずっと姑息で、卑怯。人として終わってしまう。
「ただいまー、持ってきたよー」
「ぁっ、」
本当に、違う。わざとするつもりじゃなかった。テンパった体はいとも簡単にペットボトルを傾け、濡れた場所をさらに濡らす。ほぼ反射的にそこを布団で覆った。
「せんせー、ありがと、…じゃ、おれ…かえ゛る、」
ちゃんと言おうと思った。でも、やっぱり口に出そうとするとどうしても言えない。ズボンの色が濃くてあまり分からないためか、先生は気づいていない。でもこのまま帰ったら。もし俺の後にベッドを使いにくる生徒が居たら?後片付けするのは先生。先生が、迷惑を被る。嫌われる。
「どうしたの?悲しくなっちゃった?」
髪の毛をわしゃわしゃと撫でられる。その優しさが辛くてまた、涙が溢れた。
「っ゛…ぅ、」
「も~どーしたのぉ。どっかしんどい?」
「…ちが、ぅ…」
「ゆっくりで良いから言ってみ?」
「ふとん…」
「布団?」
「ふとん、を゛、…っひ、おみず、こぼして、」
「もーそんなの良いのに。どうせ交換するんだから。分かった分かった。服は?濡れてない?」
「…ごめ、なさい、」
「良いって良いって」
「ちがう、さっきの、うそ、ぜんぶ、っ゛、」
俺本当に何言ってるんだろ。最初っから謝っとけば良かった。顔が熱い。そのくせ涙は止まんなくて、思わずしゃがみ込む。
「おねしょしちゃった?」
スン、と先生の鼻がなった。お尻の辺りをするりと撫でられてそう問われる。
「ごめ、なさ、っっ゛、」
「ん、服気持ち悪いでしょ?着替えよっか」
「ごめ、っ゛、ふだん、こんなの、しなくって、だから、」
「びっくりしたね。大丈夫だよ?綺麗にすれば良いんだから」
「こーこーせーなのに、からだ、おかしい、っ゛、」
「大丈夫大丈夫、大人でもよくあるよ。体拭こうか。あったかいタオルつくったげる。ね?」
「う゛ん、」
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