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「…くん、フユくん、」
「…ぅ…ぇ…」
「ごめんね起こして。汗びっしょりでしょう?着替え終わったらもう一回寝てもいいからね」
体、熱い。なのに、寒い。
「あー…ボーッとしちゃってるかー…でも風邪悪化しちゃうからね、失礼するね」
いきなり布団を捲られる。蒸されて熱かった体が外気に触れて、汗がどんどん冷えていく。
「やっぱり風邪かな。後で病院行こうね」
ボタン、外されている。腕、掴まれている。振り払いたいのに、力が入らなくてできない。
濡れたぬるめの布地が脇、胸、腹を伝っていく。
怖い。死にそう。
「体起こせる?そうそう上手」
言われたまま、体を起こすとシャツもパジャマも脱がされて、新しいものを着せられる。ただ体を拭いてもらっているだけなのに、怖くて怖くて仕方なくて。そういえば、あの時も抵抗できないまま色んなところを弄られたな、とか、いやらしい手つきで何度も触られたな、とか。嫌な事しか思い出さない頭が厄介で仕方ない。
「ん?トイレ行く?」
無意識に握りしめていたズボンの紐。トイレを我慢していると思われたのだろうか。1人で動ける?という問いに頷きで返してトイレに向かった。
「っはぁーーーー…」
やばい。相当メンタルやられてる。自分の記憶で病むって何だよ。胃が気持ち悪くて、うぇ、とえずくと全部出た。吐き慣れた自分が嫌になる。何もないのに涙が出てしまう癖も、起きてるだけでしんどくなる体質も。全部全部嫌だ。
「フユくん?大丈夫?お腹痛い?」
安倍さんは何も悪くないのに。何で、怖いって思っちゃうんだろう。何で、まともに受け取れないんだろう。
「ごめ、なさい、」
昨日から謝ってばかりで、泣いてばかりで。
さっき吐いたからか、目元がぐらぐらする。
「ごめ、なさ、ごめ、なさぃ、」
食べ物無駄にしてごめんなさい、仕事休ませてごめんなさい、怖いって思ってごめんなさい。
「…何か学校で嫌な事あった?」
違う。
「まだこの家慣れない?」
それも違う。
「たまにさ、すっごくしんどそうな時あるからさ。朝苦手な訳…ではないよね」
バレていた。あの夢を見た日はどうしても体が動かない事。しんどくなって沈んでしまうこと。でも昨日みたいにご飯が食べられなくなることも、熱を出すことも無かったから。だから放置していたのに。
「…むかしのゆめ、みた…」
「…ねるの、こわかった、」
「…まえまで、わすれてたけど、ずっと見ちゃう、…から…」
何も怖い要因は無いのに。忘れていたのに。この家に来て、夜中一度も起きずに寝れるようになった。寝る前に、その日見た芸人のギャグで思い出し笑い出来るようになった。手作りのご飯も食べられるようになった。
「からだ…どんどんおかしくなる…」
普通になれたと思ったのに。やっと解放されたのに。
「不安になるよね。大丈夫、熱下がったら元気になるよ」
「ならない、むり、」
「無理じゃないよ。いーっぱい休もうね」
「ねれない、むり、」
「ずっとここ居るから」
「むり、やだぁ、怖いの、みる、」
「起こしたげる。ね?」
「っやだ、やだ、」
俺の駄々は流されて、下の服をあっという間に着せられて。多分疲れすぎて、しんどすぎて怖がる余裕も無かったのだろう。朦朧としたままサッパリして、水を飲まされて、布団に入れられて。
冷たい手で頭を撫でられているという事はぼんやりと覚えている。寝るのが嫌だ嫌だと泣き続けながら、布団に入った瞬間に瞼が落ちた。
あれだけ苦しかった体は、夕方目が覚めた頃にはすっかり治っていて。大袈裟に泣き喚いて騒ぎ立てた自分が少し恥ずかしくなった。
「ぐっすりだったね。嫌な夢、見なかった?」
「…はい、」
枕元で本を開いていた安倍さんは、ずっと居てくれたのだろうか。
「お腹空いたでしょ。ご飯食べる?」
「…たべる、」
「じゃあコンビニ行ってくるね。何がいい?」
「あべさんの、ごはんがいい…」
そう呟くと、安倍さんは少し微笑んだような気がした。
「はい、どーぞ」
人参、椎茸、鶏肉、卵。ほかほかと湯気を立てた土鍋の中には、沢山の小さな具の入ったお粥が入っている。
「食べられるだけね。無理しちゃだめだよ」
恐る恐るレンゲを持つ。少しだけ、緊張している。
一口。口に入れた。
「…おいしい…」
自然に言葉が出た。あったかくて、薄くて。でも最近はこの味に慣れて。ああ、よかった。食べられた。
俺の体、ちゃんと戻った。
「…ぅ…ぇ…」
「ごめんね起こして。汗びっしょりでしょう?着替え終わったらもう一回寝てもいいからね」
体、熱い。なのに、寒い。
「あー…ボーッとしちゃってるかー…でも風邪悪化しちゃうからね、失礼するね」
いきなり布団を捲られる。蒸されて熱かった体が外気に触れて、汗がどんどん冷えていく。
「やっぱり風邪かな。後で病院行こうね」
ボタン、外されている。腕、掴まれている。振り払いたいのに、力が入らなくてできない。
濡れたぬるめの布地が脇、胸、腹を伝っていく。
怖い。死にそう。
「体起こせる?そうそう上手」
言われたまま、体を起こすとシャツもパジャマも脱がされて、新しいものを着せられる。ただ体を拭いてもらっているだけなのに、怖くて怖くて仕方なくて。そういえば、あの時も抵抗できないまま色んなところを弄られたな、とか、いやらしい手つきで何度も触られたな、とか。嫌な事しか思い出さない頭が厄介で仕方ない。
「ん?トイレ行く?」
無意識に握りしめていたズボンの紐。トイレを我慢していると思われたのだろうか。1人で動ける?という問いに頷きで返してトイレに向かった。
「っはぁーーーー…」
やばい。相当メンタルやられてる。自分の記憶で病むって何だよ。胃が気持ち悪くて、うぇ、とえずくと全部出た。吐き慣れた自分が嫌になる。何もないのに涙が出てしまう癖も、起きてるだけでしんどくなる体質も。全部全部嫌だ。
「フユくん?大丈夫?お腹痛い?」
安倍さんは何も悪くないのに。何で、怖いって思っちゃうんだろう。何で、まともに受け取れないんだろう。
「ごめ、なさい、」
昨日から謝ってばかりで、泣いてばかりで。
さっき吐いたからか、目元がぐらぐらする。
「ごめ、なさ、ごめ、なさぃ、」
食べ物無駄にしてごめんなさい、仕事休ませてごめんなさい、怖いって思ってごめんなさい。
「…何か学校で嫌な事あった?」
違う。
「まだこの家慣れない?」
それも違う。
「たまにさ、すっごくしんどそうな時あるからさ。朝苦手な訳…ではないよね」
バレていた。あの夢を見た日はどうしても体が動かない事。しんどくなって沈んでしまうこと。でも昨日みたいにご飯が食べられなくなることも、熱を出すことも無かったから。だから放置していたのに。
「…むかしのゆめ、みた…」
「…ねるの、こわかった、」
「…まえまで、わすれてたけど、ずっと見ちゃう、…から…」
何も怖い要因は無いのに。忘れていたのに。この家に来て、夜中一度も起きずに寝れるようになった。寝る前に、その日見た芸人のギャグで思い出し笑い出来るようになった。手作りのご飯も食べられるようになった。
「からだ…どんどんおかしくなる…」
普通になれたと思ったのに。やっと解放されたのに。
「不安になるよね。大丈夫、熱下がったら元気になるよ」
「ならない、むり、」
「無理じゃないよ。いーっぱい休もうね」
「ねれない、むり、」
「ずっとここ居るから」
「むり、やだぁ、怖いの、みる、」
「起こしたげる。ね?」
「っやだ、やだ、」
俺の駄々は流されて、下の服をあっという間に着せられて。多分疲れすぎて、しんどすぎて怖がる余裕も無かったのだろう。朦朧としたままサッパリして、水を飲まされて、布団に入れられて。
冷たい手で頭を撫でられているという事はぼんやりと覚えている。寝るのが嫌だ嫌だと泣き続けながら、布団に入った瞬間に瞼が落ちた。
あれだけ苦しかった体は、夕方目が覚めた頃にはすっかり治っていて。大袈裟に泣き喚いて騒ぎ立てた自分が少し恥ずかしくなった。
「ぐっすりだったね。嫌な夢、見なかった?」
「…はい、」
枕元で本を開いていた安倍さんは、ずっと居てくれたのだろうか。
「お腹空いたでしょ。ご飯食べる?」
「…たべる、」
「じゃあコンビニ行ってくるね。何がいい?」
「あべさんの、ごはんがいい…」
そう呟くと、安倍さんは少し微笑んだような気がした。
「はい、どーぞ」
人参、椎茸、鶏肉、卵。ほかほかと湯気を立てた土鍋の中には、沢山の小さな具の入ったお粥が入っている。
「食べられるだけね。無理しちゃだめだよ」
恐る恐るレンゲを持つ。少しだけ、緊張している。
一口。口に入れた。
「…おいしい…」
自然に言葉が出た。あったかくて、薄くて。でも最近はこの味に慣れて。ああ、よかった。食べられた。
俺の体、ちゃんと戻った。
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