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「うそ、なんで、」
じっとりとした感触で目が覚めた。温かいはずの布団はひんやりと冷たく、尻に着衣物が纏わり付いている。
「と、とりあえずあらって、」
シーツを剥がすとマットレスまで染みてしまっている。
 震える手でスマホを操作して、処理の方法を調べるけれど、お酢だの重曹だの、分かんなくてとりあえず放置して、掛け布団を持ってシーツだけ持って洗面台に急いだ。
「あれ健、なにしてんの?会社遅れるよ?」
何で、起きてるんだよ。今は朝の7時。平日の朝なら起きていてもおかしくない時間帯だけど、今目の前であくびをしている男はフリーランスで完全にリモート。時間に縛られない彼は早くても起きるのは朝の10時ぐらい。この時間帯には滅多に起きてこないのに、何で、今日に限って。
「あ、えっと、」
「あー、そういうことね」
色濃くなったグレーのスウェットで軽々と察される。恥ずかしくて、顔まで熱い。
「疲れてたんだよ。最近ずっと終電帰りだったじゃん。俺やっとくから会社の準備しな?」
「いや、いい、自分でやる」
「でも朝ごはん食べる時間なくなるよ?」
「いらない…」
「昨日もそうやって食べずに寝たよね?」
「ごめん、作ってくれたのに」
「そーじゃなくて…クマも酷いし、フラフラしてるし、今にも倒れそうだよ?」
「大丈夫だから…」
「でも…今日休むことって出来ないの?」
「うるっせえな!!無理に決まってんだろ!!」
心配してくれてるってわかってるのに、イライラが止まらない。
「お前はいいよな!!ずっと家で、休みたい時に休めて!!」
「何それバカにしてる?」
「あ…」
やばい、まずった。そう思った時にはもう遅い。
「もーいいよ。そんな風に言うんだったら。自分で勝手にしたら?」
完全に俺が悪い。せっかく手伝ってくれようとしたのに。家事すらまともにせず、助けてくれようとした手を振りはらって。あいつだって疲れているのに。


「っはぁー…」
朝なのに覚醒しきって疲れ切った目元を揉み込む。
 最近、体がおかしい。終電帰りでクタクタなのに眠れなかったり、ご飯を見るだけでお腹いっぱいになって食べれなかったり。ずっと重りがついたみたいに体が重くて、しんどい。そこそこいい大学を出て、将来は安泰だと思っていたのに。残業代なんてないに等しい。ブラックにも程がある。有給なんて名ばかりで休ませても貰えない。この前、熱があったにも関わらず、休ませてもらえずにオフィスで吐いた奴も居たっけ。あんな重症を患っていた奴でさえ休めなかったんだから、俺が休もうものなら次の日席がなくなるだろう。
「これどうしよう…」
水洗いまで済んだシーツ。これでちゃんと洗えているのだろうか。もんもんとしたまま時間だけが過ぎる。
「あ…ちこく…」
慌てて時計を見ると、もう家を出る10分前。どうすればいいか分かんなくて、部屋の椅子に適当に干して部屋を出た。
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