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寝れない夜
しおりを挟む寝てしまったみたいだ。軽くあくびをして目を開けると、目の前のテーブルで達也さんがパソコンを叩いていた。かけられたブランケットに顔を寄せる。
チラリと目に入った時計は、もう7時を回ろうとしていた。
「あ、起きた?」
「ねちゃった…」
まだシパシパする目をゆっくり開けながら、ふとベランダを見ると、制服が風に揺れている。
「洗濯…」
「干しといたよ」
「あ、あの、おれ、今日朝…しっぱいした…」
「ん、」
「…ごめん、なさい…」
「大丈夫大丈夫。でもね、時間経つとシミになっちゃうからさ、今度からは言ってくれると嬉しいな」
「…はい…」
「っもー、そんな顔しない!!よくある事だから!!ただ隠さなくても良いよってこと、そんだけ!っさ、ご飯食べて、今日は早く寝よ!!」
シーツ変えといたから、きっとふかふかだよぉ?、といたずらに笑う達也さん。久しぶりにちゃんと寝られたからなのか、本当に体が軽くて調子がいい。
って言うのは気のせいだったのかもしれない。
夜になって、満腹感と疲れに身を任せて目を閉じたところまではよかった。綺麗なシーツの上で、比較的早く入眠できたことも。
でもまた、見てしまった。逃げても逃げてもあいつが追いかけてきて、どの部屋に隠れてもあいつが入ってくる、不愉快な夢。慌てて布団を蹴っ飛ばして起き上がる。けどそこは見慣れた自室で。
(といれ…)
心臓が落ち着いた時、ずっしりとした下半身の重みを思い出して気づく。ああそうか、俺はこの欲求で目が覚めたんだ、と。そういえば今日、久しぶりにいっぱいご飯が食べれて、味噌汁もお茶もいっぱい飲んだ。寝る前にトイレに行ったけど、そんなので体内の水分が全て排泄出来るわけがない。
(こわい…)
ベッドから降りた時。薄暗い空間にいると鮮明に思い出してしまいそうで落ち着かなくて、慌てて電気をつける。
ドア、開けなきゃ。じゃないとトイレにたどり着けるはずもない、誰でもわかる事だ。
でも、開けられない。あるはずないのに、あの夢に引っ張られて体が動かない。
「っ、う~…」
ずっしりと質量のあるお腹を摩る。この欲求は多分、朝まで耐えることはできない。夜おばけが怖くてトイレに行けない子供って、こんな気持ちだったのだろうか。俺はそんな非科学的なもの信じてなかったから、ずっとわからなかったけど、今なら分かる。
ベッドに座って足を組み替えたり、立ってその辺をうろうろしたり。もちろんそんな事をしてもお腹のなかの小便が無くなるわけではない。
秒針の音がやけに耳につく。ぱんっぱんに膨れ上がった下腹は、座ることによる圧迫感も許してくれない。部屋のど真ん中でお腹を丸めながらトントンと足踏みをする自分はどれほどまでに滑稽だろうか。
トイレ、ほんとにトイレに行きたい。マジで漏れそう。限界になったら怖さなんて気にならないだろうか、そんなわけないか。
もう、布団でしてしまおうか。今日もしてしまったって言ってしまえば、この欲求からも解放されるだろう。焦燥感と疲れでそんな頭のおかしいことを考えてしまう。でももう本当に限界で。何回もドアノブを握ったけど、ダメだったから。
布団に寝転んで、力を抜く。でも、抜ききれない。こんなに漏れそうなのに、見えない壁があるみたい。
「あー…やっぱだめ、っ、」
やっぱこんなのダメ。片付け大変だし、そもそも常識的にアウトだ。
(大丈夫、ここにはあいつは居ない…大丈夫、だいじょうぶ…)
いつもみたいにドアを捻って開けるだけ。それだけなのに。ストッパーがかかったみたいで開けれない。
「っ、」
ドアの前で中腰のまんま、性器を押さえて内股でモジモジと腰を揺らす。ヒクヒクと震える出口がもう限界って喚いている。
(もぉ、無理…、)
じわ…じわ…
押さえている手が温かくなって、パンツが温かい。でも、膀胱が楽にならない。容量いっぱいの分が溢れてるって感じ。
何で、ちゃんと目が覚めて、トイレがないところじゃないのに。行かなければこうなるって分かりきっているのに。
座り込んで、ズボンの中に手を入れて、尻をモジモジと揺らすけど、もう、無理だった。
下半身が温かい。
限界だって体が悟った。
「っは、はぁっ、」
着替えなきゃ。汚したんだから。頭ではこうしなきゃって分かるのに、体がついてかなくて、座り尽くしてしまう。
かちゃり…
ドアの向こうで人の気配がする。きっとあの人だ、達也さんだって分かっているのに、動悸がおさまらない。
(大丈夫だって俺、落ち着けって…)
何でこんなに怖いんだろ。自分の心がちぐはぐで、ぐちゃぐちゃで分かんない。
「秋葉?起きてるの?」
小さなノック。ああ、達也さんだ。分かっていたのに、声を聞いた瞬間、涙がぼろぼろ溢れてくる。
「…泣いてるの?」
「っ゛……」
「開けていい?」
柔らかい、優しい声。ゆっくりと開いたドアから見える、達也さんの驚いた顔。
「たつ、やさん、たつや、さん、っ゛、」
「やな夢みちゃった?」
しゃがんで頭をふわふわと撫でられる。
「…うん…」
「お布団は?汚しちゃった?」
「だいじょうぶ…」
「そっか。シャワー浴びよっか」
「ぅん…」
「俺ここ片付けとくから行っといで」
ゆっくりと体を起こしてもらって、背中を優しく叩かれる。
「着替えは後で持ってくね」
促されるまま廊下を出ると、真っ暗。
たった数歩。昼間は平気で通っていた場所なのに、いろんな音が聞こえる気がして。このシーンとした、暗い空間が、怖い。
「たつやさん…」
「わっ、どうしたの!?」
「っ、…」
「汗すごいよ?気分悪い?」
「しゃわー、むり……」
「どっかしんどい?」
こんな夜中に起こして自分の排泄物の片付けさせて、そのうえ困らせて。ただでさえ今日、いっぱいかけてしまったのに。
体が固い。うまく動かせなくって、べしゃりと座り込んでしまう。
「ゆっくりでいいから言ってごらん?」
「、こわい…しんどくないけど…ドア、あけられなくて…」
目を瞑るだけでまた、出てきてしまうかもしれない。もしかしたら今も、背後にいるかもしれない。ありえないのにそんな事ばっかり考えてしまう。ばかみたいで、ガキよりひどい。
「一緒にいこっか。そしたら出来る?」
「ん…できる、」
「そっか。じゃあそうしよう」
「たつやさん、いるー?」
「んーいるよー」
何度もシャワーの音と共に聞こえる秋葉の声。
「ごめん、お待たせっ、」
音が止まったかと思うと勢いよく開く扉。新しい衣類を渡すと、濡れた体もそこそこに、慌てた様子でズボンを履き始める。
「慌てなくて良いのに…さっぱりした?」
「…ごめん、こんな夜中に…」
「んーん、今度からトイレとか起こして良いからな?電話でも何でも」
「…いいの?」
不安げな目をゆらゆらさせながら、そう問うてくる。こんなに不安定は秋葉は初めてだ。ここに来てからの秋葉は家事も、勉強も、出来すぎるくらいに完璧で、何か欲しいとか、不満だとかのわがままも全く言わなかったから。間違っていたのかもしれない、と思った。甘えるのが下手なだけなのではないか、と。
「よし綺麗になった。んじゃあ寝るか」
「…あの…」
「なに?」
「布団、達也さんの部屋、持っていってもいい…?」
驚いた。驚きすぎて、フリーズしてしまうくらいに。
「あ、ごめん…嫌だよね…でも俺…」
怖いから、そう力なく呟く秋葉の手は、震えている。これだけのトラウマを与えるって前の父親は一体どれほどのことをしたんだろう。つくづく気持ち悪い。
「いーよ。明日も明後日もおいで。それでも怖かったら俺の布団に潜り込んでも良いし、何回でも起こしなね」
「…いいの…?」
良いよ、という意味を込めて頷くと、ひどく安心したような表情を浮かべる。
(ああ、可愛い…)
何だろう、この感情は。この子のためだったら見返りなく何でもしてやりたくなる、この愛おしい感情は。
「さ、早く布団運んじゃおっか」
「うん、」
この感情の正体を知るのはきっと、もう少し後なのだろう。
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うわああああ!とても嬉しいです!😭
これからものんびり書いていきます☺️
今回もとても性癖ドンピシャで読んでいて心臓がギュッとなりました。
こじらせた処女さんのストーリー設定、毎回とても面白いです⋆꙳
ここ!という絶妙なタイミングで男の子を苦しめてくれるところや、男の子が泣いている描写の表現が特に好きですᐡ ̳ᴗ ̫ ᴗ ̳ᐡ♡ 毎回素敵な作品を本当にありがとうございます(泣)これからも応援しています。
いつもありがとうございます😭細かいところまで読んでいただけてとても嬉しいです…
これからものんびり書いていきたいと思います…😄
退会済ユーザのコメントです
いつもありがとうございます😊そう言っていただけるとめちゃ嬉しいです😆😆