痴漢される高校生

こじらせた処女

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 午前7:30、吊り革を持つのも一苦労の満員電車の中で、ある違和感を感じる。
尻の辺りがぞわぞわと気持ち悪い。鞄が当たっているのか、そう思ったけれど、しつこく揉まれる感触。あ、触られているんだ、そうはっきりと分かった。柔い手つきで握るそれは、あまり気分のいいものではない。それに、怖い。でも、こんなにも人が多い場所では誰なのかも振り返ることも出来ないし、声を上げるのも恥ずかしい。
(どうせ今日だけだろ…)
別に、毎日されるわけじゃないんだし、せいぜい15分。必要以上に騒ぎ立ててはいけない。

(そういえば、ガキん時もこんなふうに…)
考えてやめた。俺を捨てた母親にも今育ててくれている達也さんにも言っていない、思い出しただけでも虫唾が走るような出来事。
(あー…っさいあく)
朝から嫌なこと、思い出した。胸の奥のざわざわには気づかないふりをした。




 俺の母親はとにかく男癖が悪かった。一年、ひどい時には半年に一回ペースで変わっていたこともある。俺が中学の頃には家を何週間も開けるってこともあった。まあ、それがきっかけで母の弟の達也さんに拾ってもらえるきっかけになったのだけど。
 話を戻そう。その母親の彼氏にまともな人は居なかった。暴力は当たり前に振るうし、酒やタバコを買いに行かされることも日常茶飯事。でも最近のコンビニは年齢確認をされることが多かったから、なかなかハードルが高い。でも殴られるのが嫌で、歩いて1時間くらいかかる古い自販機まで走ったり、ある時には盗みを働いたこともある。アル中とパチンカスの神経を逆撫でしないように、とにかく気を張っていた記憶ばかりだ。
 でもそんな中で、1人だけ毛色の違う人が居た。キッチリとしたスーツ姿で、頭も薄くて、参観日に来てそうなありふれた父親。有名企業のサラリーマンで、家も広かったし、金も持っていた。それに、歴代のクソ男特有のDVの気もなく、気も弱い。
 でも、気持ち悪かった。
母親が夜、どこかへ出かけると、俺の布団にそいつが入ってくる。服の上からねちっこく体をなぞられて、パンツの中を弄ってくるのである。小6だった俺はそれが何なのか、よく分からなかったけど、気持ち悪くてしょうがなかったことは覚えている。抵抗しようとしても無駄で、そんで。
『ココ、もっとほぐそうねぇ、』
ねちゃりとした声で、耳元に囁いてきて、声が出せなくて。


「っ゛、!!!!」
跳ねたように体を起こすと、いつもの寝室。部屋は冷えてるはずなのに、汗が気持ち悪い。それに、心臓がずっとドクドクいってる。時計を見るとまだ5時で、起きなければいけない時間まで、後1時間もある。
 ゆっくりと布団に潜る。体はだるいはずなのに、寝れない。目を閉じたくない。
 嫌な夢だった。昨日の朝、たった15分の間触られただけなのに。この夢、しばらく見ていなかったのに。
 アラームが鳴る時間になって、ケータイの何か今日は体が重くて、起き上がっただけでもうだるい。熱でもあるのかと測るけれど、いつも通りの平熱で。腹が痛いだとか、頭が痛いだとかそういった症状が有ればよかったけど、それもない。


「んじゃあそろそろ出るか。…秋葉?」
「ぁ、うん、」
電車、乗らなきゃダメなのか。そんな鬱鬱とした気分のまま、いつも通りスーツを着た達也さんと駅に向かう。でも、その場所が近づくたびに体は動きづらくなるし、息も苦しい。
(なんだ、これ…)
「秋葉…?」
「ぁ…」
いつの間にか歩幅が合わなくなっていた。達也さんが怪訝な目で駆け寄ってくる。
「ぁ、いやっ、忘れ物しちゃって!!体操着!!取りに帰るので先行ってて、下さい」
「そう?んじゃあ行くね」
早口で、慌てたような演技をして、走って角を曲がる。曲がって達也さんの視界から外れた瞬間、立って居られなくてしゃがみ込む。
「っはぁっ、ぁ、っっ、」
息、苦しい。てか、体、動かない。耳鳴りみたいにキンって音がして、やけにザワザワして。
(休もう、きょうは、無理、)
そう唱えながら足を引き摺るようにして家に向かう。走った後の息切れみたいになって、口の中に血の味がほんのりついて、ずっと溺れているみたいに苦しい。やっと家に着いて中に入った瞬間、体の力がドッと抜けて玄関でしゃがみ込んだ。そしたら何故か、さっきの息苦しさが無かったみたいに体は軽くなっている。
 ケータイの時間を見て焦る。8:40。ホームルームが始まる頃だろう。普通に歩いて取りに帰っても、まあ遅刻はするだろうけど電車に乗ってもうすぐ着くって時間。俺はたかだか15分の道のりに何分かけたんだって話だ。
震える手で達也さんに電話をかける。
「もしもしー?あ、秋葉?間に合いそう?」
「すみません、やっぱ今日しんどくて…学校に休みの連絡入れてもらって、いいですか?」
「え、大丈夫なの!?熱は?ある?」
「ぁ、えっと、…7度前半で、微熱なんですけど…」
ないけどでも、さっきまで息苦しかった。そんなの誰が信じるんだよ。ただの仮病、そう思われたくなかった。
「そっかそっか。疲れてたんだよ。1人で大丈夫?」
「はい、ちょっと怠いってだけなんで」
「ちゃんと寝ときなよ?んじゃあ今日はちょっと早く帰ってくるわ。お大事にね」
通話を切って、罪悪感が溢れる。怠いどころか、いつも通りの体調。普通に元気なのだから。

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