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第六章

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「ならなおさら早く言わなきゃじゃねえか!何で黙ってるんだよ」
「村山に言われた。これを見せたら、そいつ、もっとトラウマが悪化するかもって。俺の行動が、あいつの人生左右するかもだって」
「そんなん、お前何も悪くねえじゃん!悪いのは村山ただ1人だ!目ぇ覚ませ!証拠、どこだ。持っていかねえなら俺が持っていく!」
「だめなんだよ!」
苦しそうに声をあげる篠田。興奮状態にあるのか、呼吸が荒い。
「だめなんだよ…だってそれって、俺にとっては三宅が犯人って言われるようなものだぜ?そんなん、耐えられねえよ…」
カタカタと篠田の体が震え出す。自分の腕を握りしめて、俯いてしまう。
「でもさ、お前のやってることも正しくないだろ?」
背中をさすってやりながら、ゆっくりと諭す。
「うん…でも、誰にもバレたくないって、そいつも思ってる…俺も親とかに、知られたくない…」
「そうだな。じゃあその証拠、被害者のやつに渡してしまったらどうだ?」
「!!でも、」
「そこから警察に行くのか、誰にも言わないのかはそいつの判断だろ?」
「そうだけど、」
「お前は悪くない。お前は関係のない荷物を持たされているだけだ。その荷物を返すだけなんだよ。な?」
「…うん…」
 篠田はきっと、その被害者のこととは少なからず仲が良いのだろう。だから、そいつのことも考えて、自分も巻き添えをくらってしまったのだ。
「お前はどうするんだよ。あんな酷いことされて。訴えるか?」
「おれは…絶対に言いたくない。親とか周りにバレたらって思うと吐きそうになるから。それに、もう大丈夫だから」
「そっか…わかった」
 誰かが何かを隠すことで、少しずつ、こじれて、ズレていく。俺も今日、そこに加わった。
 本当に篠田のことを思うなら、彼がやめてと懇願しても、親に、警察に言うべきであることは明白だ。でも俺はそれをしない。俺は正しくないからだ。
 俺は許せない。村山が、そして篠田を苦しめた被害者が。
 何も悪くない、むしろ被害を被った人間を憎むのはお門違いだ。でも俺にとってのどうでも良い存在が、俺の大切な友人を苦しめた。
 篠田だけでいい。
 篠田だけ、救えればいい。

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