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第五章

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「え、先生が送ってくれるんすか?良かったな、安心だ」
「あ、荷物持ってきてくれたんだな?預かるよ」
「あ、お願いしまーす」
目の前でどんどん話が進んでいく。
「俺、一人で帰れますから」
犯罪者の手に渡ったバッグを奪い取ろうとする。が、躱されてしまう。
「篠田、ここは先生の好意に甘えとけって。お前今もすっげえフラフラしてるじゃん」
きっと三宅は遠慮していると勘違いしているのだろう。
「そうだぞ。電車より絶対楽だから。
 安心しろよ、何もしないからさ」
耳元に絡まりつく、奴の声。肩に回った手が生ぬるくて、とてつもなく不快。この場の中で俺だけが異端者、遠慮を履き違えた人間に見えていることだろう。三宅の顔が少しイラついているのが分かる。じっとりと、手に汗が滲む。
「じゃあ俺、そろそろ練習戻りますね」
「あ…」
行かないで、そう言いたいのに喉に何かが詰まったみたいに、何も言えない。
「じゃあ行くぞ」
肩に手を回されたまま、歩く。苦虫をかみつぶしたような気持ち悪さが胸の中に広がった。


「家着くまで寝てていいぞ」
寝られるわけがないだろ、ジッと睨みつける。奴はそんな俺に我関せずといった態度でハンドルを握っている。

「まだ俺は捕まってないみたいだが」
唐突に奴の口から溢れる。口の中に不味いものが広がる。
「あんなに威勢良く言ってたのになぁ。何だったけ、豚箱に詰め込むとか何とか」
エンジンの音が鮮明に聞こえる。
「あ、そうだ。お前が座ってるそこ、この前時田が小便漏らしたところ」
「は?」
「かわいかったなぁ…おしっこ、おしっこって何回も言ってさ。ペットボトル見せた瞬間に、じょーーって。真っ赤な顔で、ちんこぎゅうぎゅうしながらさ」
俺は一体何を聞かされているんだろうか。悶々と考えていると、不意に体がフルリと震える。
 あれ、俺、今日小便したっけ。
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