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第五章

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「ッヒグ、ちがう、おれ、」
「とりあえず落ち着け」
「う゛~~~…」
さっきとは全然違う、柔らかい声。吐いているときと同じように、背中を摩られる。
「ヒクッ…ヒクッ…」
「お前、酔っ払いみたいだな」
「ヒクッ、ぅ゛…フヒッ…」
「やっと笑った」
安心したような表情で、頭をわしゃわしゃと撫でられる。同い年、ましてや親交の深い人間にされて恥ずかしいはずなのに、やめてほしくない。
「キツく言いすぎたな。ただお前にはこれぐらい言わないと休んでくれないと思ったんだ」
「…ごめんなさい」
「エネルギーが入ってない状態で運動するのは危ない。分かるな?」
「うん…」
「それに、もしも俺がフラフラの状態で練習出てたらどう思う?」
「…心配する」
「そうだ」
一個一個、諭すような口調。
「俺らも同じ。そんな浮ついた気持ちで練習しても、何も身にならねえ。無理してるのに力にならないって嫌だろ?」
「いや…」
「じゃあ今することはなんだ?」
「ご飯食べて、休む…」
「だな。普段の篠田ならそうしてた。よっぽど余裕なかったってこと」
胸に頭を抱え込まれる。心臓の音、汗のにおい。凄く安心する。
「っ…う゛~…」
「また泣いてんのか?」
「ないでない゛!」
「はいはい。なあ、何に悩んでるんだ?」
「…」
「どうせ進路じゃねえんだろ?脳みそバスケ人間が寝れないほど悩むわけ、ないと思うんだわ」
「…バカにしてる?」
「ああ、ちょっと。でも、その分心配してる」
「…言えない…」
「ん、分かった。聞かない。でもいつでも相談乗るからさ、抱え込むなよ」
「…ありがと…」
「まあでも、3日は部活禁止だからな」
「え゛っ…でも、おれ、バスケバカだから…」
「関係ねえわそんなの。バスケは逃げねえ。きっちり生活整えてから来い」
「うぐっ…」
「ほら、もう寝ろ。最近寝れてないんだろ?」
「眠く、ない…」
「嘘つけ、声が寝てるぞ。寝るまでこうしててやるからさ」
我慢できないほどの眠気。久しぶりだ。
背中に感じる振動が気持ちよくて、温かい。
瞼が落ちるのに身を任せ、眠りの世界に微睡んだ。


「っっあ゛!」
目が覚めると、天井が白い。消毒液の匂いですぐに思い出す。俺は倒れて、ここで寝ていた、と。呼吸がうるさい。心臓がうるさい。さっきの夢も、全部覚えている。
「起きた?凄い声したけど」
養護教諭がカーテンを開けてこちらを心配そうに見ている。
「あ、いえ…」
ちらりと見えた時計は1時間も進んでいない。
「おうちの人に連絡してみたんだけど、誰も出なくて…あなたの担任の村山先生が送ってくださるらしいけど、どうする?」
1番聞きたくなかった人の名前。
「いえ、結構楽になったんで。帰ります」
「え、でも...」
「大丈夫ですから。じゃあ失礼します」
挨拶もそこそこに、保険室から出る。冗談じゃない。自ら体を壊すようなこと、誰がするか。
「あれ、篠田。もう起きたのか?はいこれ荷物」
部室へ行く道中、両手に荷物を抱えた三宅とかち合う。休憩中に持ってきてくれたのだろうか。
「あ、りがと…」
「もう帰るのか?」
「うん…」
「親御さんは?」
「連絡つかなかったから一人で帰る」
「え、大丈夫かよ。あと1時間待っててくれたら送っ…」
「あ、いたいた。篠田お前、送ってやるって言ってんのに。保険の先生、心配してたぞ」
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