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第三章

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 ベルトと金属が擦れる音、チャックの嚙み合いが外れる音。目をつぶっているからよく聞こえる。
「ヒッ、ィ、ッグ、」
目を瞑ると思い出してしまう、跳ねるように目を開けるけれど、所詮「聞こえる」が「見える」になっただけ。むしろ頭に入る情報が増えて、胸騒ぎがどんどん大きくなっていく。
「ヒッ、あ、あ、あ、」
じょぉっ、
便器に性器を向けたのだから当然だ。貯水率100パーセントの体が弛緩する。力の無駄に入った手では上手くちんこを持てなくて、タイルを叩く。

じょろろろろ…

 おしっこが出てるんだから、ジッとしていないといけない。分かっているんだけど、ここから逃げ出したくてたまらない。
「っあっ、せんせっ、せん、せぇっ、」
息が詰まる。溺れているみたい。涙でぼやけて本当に水の中にいる気分だ。
「時田、」
「触んなっ!!」
肌に触れるすべてのものが気持ち悪い。あの生ぬるい、皮膚の感触が纏わり付いて、全身に広がる。
「時田、俺だ、先生だから!」
「やだ、やだ、やめて、こわいからっ、ンンッ」
呼吸の中枢を防がれる。チュクチュクといやらしい水音と、俺の体内から排出される水音が混ざる。
「ンンンン~~~!」
体の力が抜ける。頭の力も抜ける。苦しいのに、気持ちいい。
「ふ、っん、フグッ」
下半身の放出している快感、止めないと、止めないと、って思うけど、ふにゃふにゃの筋肉は言うことを聞いてくれない。
「っはっ、はっ、は…ぁぁ…ぅ…」
まどろんだ視界の内側から見える、自分の性器。ちゃんと便器に落ちる音がする。あ、そうか、先生が持ってるんだ。自立出来ない足でも崩れないのは、腹に絡みつく先生の腕のおかげだろう。
チョロロロ…
「あ…」
また、やってしまった。便器の中はうっすらと黄色く色づいているが、周りに飛び散っていて悲惨な状態。先生の靴にも、ズボンの裾にもかかっている。
「おしっこ、ちゃんとできたな。よく頑張った」
 そういって先生はいつも俺の口からだらしなく溢れたよだれを優しく拭く。そして自分でも気づかない残尿感を問うて、下腹を軽く撫でる。
汚いここの掃除だって、しなくてはならない。
 
 嫌にならないのかな…

リハビリという名の介護に。

ゾクッと背中が跳ねて、スーッと口元から冷気が広がる。

「せんせい、こうふんしてる、の?」
密着した腰元に、固い感触を覚えたからだ。








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