隣の家

こじらせた処女

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 部活が終わり家に帰った途端、家を追い出された。母親の彼氏が来る時間が迫っているらしい。制服からトレーナーに着替え、スマホとモバイルバッテリー、財布を探すので精一杯だった。非常階段に座って幾分かたった頃、インターホンの音と、甘い母親の声が聞こえる。
(久しぶりだな…)
最近はめっきり減って、俺にベッタリだったのに。千紘しかいない、って言ってたくせに。
 何時間で帰るだろう。こればっかりは長年の経験からしても全く読めない。30分で帰る時もあるし、学校に行く時間になってもまだ入れない時もあるし。彼氏が家に居る時に家に入ると母さん、すっげえ怒るんだよな。
「腹減ったぁ…」
冷蔵庫にある作り置きのおかずが恋しい。
コンビニに行こうか考えたがやめた。金も無いし、もしかしたら一緒に飯、食えるかもしれないし。昨日作ってもらった肉じゃがを思い出して、ぐぅと腹が鳴る。今頃何かを食ってるんだろうか。それともベッドでイチャイチャしているんだろうか。
(俺との時間より彼氏かよ…)
だめだ、こんなことを考えちゃ。これじゃあ近所の嫌味を言ってくるババアと変わらねえじゃねえか。40手前なのにあんなに綺麗な母さんなんだから、恋に忙しいのは何らおかしくない。ただでさえ片親で仕事やら家事やら、俺の世話やらに追われてるんだから、息抜きするのは当然だろ。


「うぉっ、…びっくりしたぁ…」
「ぁ、すみません…」
たまにエレベーターではなく階段を使う人が居る。傾いたネクタイ、童顔には似合わないオールバック。キチンとした「おとな」。母さんの今回の彼氏はどうだろうか。これくらいちゃんとした奴なら良いのに。
「…あれ、君…」
チラリと腕に備え付けられた時計を見やる。あ、これは。
「…鍵わすれちゃって…」
周りの大人はすぐ怪訝そうな顔をする。そんでいつも母さんの悪口を言う。虐待でもネグレクトでもないのに。俺が未成年だからって好き勝手。いつもいつも、優しいのに。知らないくせに。
「そう…ねね、んじゃあお家の人帰って来るまで俺の部屋来る?寒いでしょそんなところじゃ」
「いや、いいです、」
他人の家なんて気まずいし、何話せば良いかわかんないし。ありがとうございますと返すとその人は、少し迷ったあと階段を上がっていった。



 どれくらい時間が経っただろう。一通りメッセージを返して、動画を何本か見て。不意にぞくりと背筋が伸びる。尻から地面の冷気が伝わったのだろう。さっきまで気づかなかった腹の下の重みはもう無視できない。
 すりすりと太ももを擦り合わせても、その場で屈伸をしても気がまぎれない。部活の練習でたらふく飲んだ、汗になりきれなかった水分たちがたっぷりと入っているのだから当然といえば当然なのだけど。いつもなら風呂に入っている時間。もちろん風呂に入る前には済ませるし、何なら飯の前だって何気なくする。
 あれ、結構ヤバくね?

 普段小便が我慢できなくなることなんてない。でもそれは我慢を強いられる前に出してるから。普段意識していない習慣である分、完全に気にしていなかった。

(とりま…こんびに…)
財布の中身は300円。ついでにパンかおにぎりでも買ってくか。軽い気持ちで外に出ると、予想はしていたが風が冷たくて寒い。昼間日が出てて暖かかったのと、動いていたから暑かったのとで完全に油断していた。そっと腹に手をやると、きゅぅ、と出口が閉まる。コンビニまでは少し遠い。30分、結構急がないと。


(っ、まじかよ、)
店に入って、適当に目に入ったおにぎり二つを手に取って会計を済ませている間にトイレの場所を探すが見当たらない。
「あの、ここってトイレって…」
お釣りを手渡される時に何気なく聞いたが、無いですと申し訳無さそうに言われてしまうとこれ以上何もいえなくて外に出る。

 歩いている間にずっとしていたシミュレーション。便器の前で、ジッパーをおろし、下着の前をめくり…
 ここで出来ると思っていた。なかった時の想像なんて一ミリもしていなかった。泣きそうな気持ちで、でも他に選択肢なんてないから自分の家まで引き返す。

 スーツの人が声をかけてきた時、トイレだけでも借りればよかった。こんな時間に空いている店なんて、こんな田舎ではコンビニくらい。駅は俺の家から逆方向だし、多分もたないし。完全に詰んでいる。
 もう、じっと出来ないくらいに切羽詰まっている。腹をさすって、内股を擦り合わせながら。
「っ、ぅ、」
急にくる波にいちいち立ち止まって、うずくまるくらいには、もう。人差し指と親指でつまんで気持ち楽になるけど、すぐに体が慣れて出したいって出口が訴えてくる。
 下腹、マジで苦しい。こんなに我慢したのが久しぶりなだけあって、余計に。同じ道を引き返しているのに、全然進まない。

(ぁっ、でる、)
ほんの少し、ほんの少し、こぼれた。多分、一滴とか二滴とか。じんわりと冷たい皮膚が熱を感知する。慌てて両手で握りしめて、しゃがみ込む。ゆさゆさと腰を揺らして踵でソコを押さえて。絶対に止めないと。中学生にもなって、こんな所で漏らしたくない。

「っふ、ぅ、ん、」
地面に足がつく度に、ジワリと滲んでいる気がする。下着についた水滴が冷えてまた、出口を冷やす。力を抜いているのか入れているのか分からない。
「っ、ん、っ、んんんっ、」
アパートの目の前の赤信号。立ち止まった瞬間、せりあがって。必死で足をクロスしても波は引かない。ガクガクと震える足は立っていられなくて咄嗟にしゃがみこむ。
「っぁ、っん、」
出そう。しっこ、漏れそう。青になった。ピコピコと呑気な音が聞こえるのに、立ち上がったら決壊しそうで一ミリも動けない。
「あの…青ですけど…大丈夫ですか?」
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