わかんない

こじらせた処女

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「どうしたの~…悲しくなっちゃった?」
腕を何度もさすられている。目を擦って一瞬クリアになった視界に、下から覗き込んだ先生の顔が映った。
「もっと早くお話するべきだったね。いっぱい怒っちゃったね」
違う。先生は何も悪くない。俺が全部全部全部全部悪いのに。
「分かんなくて悔しくなっちゃった?」
ちがう。
「授業つまんない?」
それもちがう。
「頑張るの、疲れちゃった?」
ちがう。ぜんぶちがう。
「保田の言葉で聞きたいな。ゆっくりで良いから話せるかな?」
 ずっと先生は背を叩いてくれていて、俺が喋らなくてもそこに居る。沈黙。久しぶりの感覚だ。ちゃんと、俺が話すのを待っている。俺の言葉を聞こうとしてくれている。
「わざと、だから、」
「何が?」
「0てん、とか、わかんない、とか、」
怒られるかな、そう身構えていたが、先生は穏やかなまま。それで?と柔らかい声で聞いてくる。
「ぜんぶ、わざと、」
「どうしてそんなことしちゃったの?」
何で。俺にも分かんなくて、分かってるかもだけど言葉に出来なくて。
「焦らなくていいよ。ゆーっくり考えてごらん?」
言葉に出来ないものがモヤのように纏わりついている。何で。最初のきっかけは…
「…ずるいっておもった、」
「ん、何が?」
何が。早く、早く次の言葉言わないと。
「あ、え、と…その、っ、」
「焦らない焦らない。ちゃんと待ってるから」
「………ほうかご、先生と勉強してるの、」
「与田のこと?」
「っ、ずるい、他のやつも、べんきょーとか、運動とか、」
「おれだって、…っ、バカなやつのほーが、っ、かわいい、って、おもったのに、」
これじゃまるで、嫉妬してるみたいじゃん。自分の感情が恥ずかしくなってきた。これじゃまるで。
「寂しい思いさせちゃったね」
子供は皆可愛いなんて嘘。同級生を見下して、羨ましがって、なんて浅ましいんだろう。
「保田はやっぱり賢いね。ちゃんと自分の言葉で言えた」
「かしこく、ないっ、ずるい、やつ、」
「わかんないフリしてみてどうだった?嬉しい気持ちになった?」
「ならな、かっ、た、」
「嫌な気持ちになった?」
「ん゛、やらなきゃ、よかった、って、」
「ほら自分で反省できてる。ずるくないし、とってもいい子」
涙を丁寧に拭き取られて、頬を何度も撫でられて。
「ごめ、なさい、」
自分がひどく嫌になって、また拭いてもらった頬が濡れた。
「自分から謝れたね。えらい」
「じゅぎょう、じゃましてっ、ちこく、ごめ、なさい、」
「ん、先生保田が反省してるってよく分かったよ」
「らくがきも、しゅくだいもっ、てすともっ、」
「ん、分かった、分かったよ。先生じゅーーーぶんに分かった。分かったから、涙止めよ?先生まで悲しくなっちゃう」
あまりにも俺が泣き止まなかったものだから先生は少し笑っていた。
「止まんなくなっちゃったかー…いいよ、思いっきり泣いちゃえ」
涙を拭うのを諦めた先生は、頭を勢いよく撫でて俺を抱きしめる。小学一年生のような扱いに恥ずかしくなった。でもそれが少し心地よかった。

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