上 下
103 / 121
第四章 ノースの街作り

第103話 世界樹の街⑤

しおりを挟む
「こ、これが世界樹……」
「神々しいですね……」
「ノース様の作り上げる街にピッタリですね!」

 なにがピッタリなのかはわからないけど、とりあえず、言えるのは圧巻の一言だけだ。
 世界を支える大樹の名に恥じない大きさ。
 世界樹の葉からは神々しいまでの光が零れ、その光が辺り一帯をやさしく包み込んでいく。

「ありがとう。クロユリさん」
「いえ、私はなにもしていません。お礼はこのドラちゃんに言って下さい」

 ドライアドに視線を向けると、ドライアドは胸を張り、『キュイ!』と鳴いた。
 相変わらずの可愛さだ。
 クロユリさんのようにずっと肩に乗せていたい。

「ありがとうございます。ドライアド様」

 そう言って、頭を下げると、ドライアドが僕の方に飛び乗ってくる。
 そして『キュイ!』と鳴くと、クロユリさんの下に戻っていった。

 いまのはなんだったんだろうか?
 ずっと僕の肩に乗っていてもいいのに……。

 ドライアドがクロユリさんの肩に戻っていったことを少しだけ残念に思っていると、ナビさんが視界に文字を浮かべてくる。

 <さて、世界樹を囲うように街を作るには時間がありません。一時間以内に作業を終えますよ! それ以上、時間をかけると邪魔が入りそうですからね>

 ナビさんがそう文字を浮かべると、クロユリさんの背後にマッシュルーム・アサシンが現れる。そして、木の板のような物をクロユリさんに渡すと、そのまま、森の開拓作業に戻っていった。

「クロユリさん。マッシュルーム・アサシンからなにを受け取ったの?」
「はい。どうやら、これはこの辺り一帯の地図のようですね。世界樹を中心として半径十キロ以内のモンスターは排除したから、この地図に沿って『精霊壁』を築いてほしいと書いてあります」

 どうやら、ナビさんはマッシュルーム・アサシンを通してクロユリさんに『精霊壁』で街を囲うようお願いしたみたいだ。

「そっか、世界樹を生やしたばかりで大変かもしれないけど、お願いできないかな?」

 一応、俺からもお願いしておく。
 すると、クロユリさんは満面の笑みを浮かべた頷いた。

「はい! はい、はい、はい! 私、ノース様のお願いならなんでも聞いちゃいます! 私にできることがあれば、なんでも言って下さい!」
「う、うん。なにかあったらお願いすることにするよ……」
「それじゃあ、早速、精霊壁を築いちゃいますね!」

 そう言うと、クロユリさんはドライアドと共に、地図を片手に走っていってしまう。

 だ、大丈夫だろうか……。
 なんだか、クロユリさんの好意に付け込んでいるみたいで心が痛い。

 <大丈夫です。これもすべて、あのハーフエルフが望んだことです。ノース様が心を痛める必要はありません>

(いや、そうもいかないでしょ)

 最近、トイレに行っても、風呂に入っていても、夢の中でさえも時頼、クロユリさんの視線を感じることがある。
 まあ、そんなことを考えること自体、自意識過剰だし、多分、気のせいだとは思うけど……。

 <いえ、それ、気のせいじゃないですよ?>

(えっ?)

 なんだかいま、ナビさんに怖いことを言われたような気がする。
 視界の隅を確認するが、ナビさんの浮かべた文字は既に消えていた。
 まあいいか……。

 しばらくすると、世界樹を起点に精霊壁がせり上がってくる。

「おお、壮観だね」

 やっぱりクロユリさんは凄い。
 あんな広範囲に『精霊壁』を築くことができるなんて……。

「でも、なんだか精霊壁の大きさが、ホオズキの街より大きいような……」

 気のせいかな?
 なんだか、精霊壁の高さが十メートルを超えているような気が……。
 まあ、低すぎるよりはいいか。

 そんなことを考えていると、クロユリさんが駆けてくる。

「ノース様~! 見ていて下さいましたか?」
「うん。クロユリさん、ありがとう。あれだけ大きな防壁があれば安全に過ごすことができそうだよ!」
「そうですか! 私、ノース様のお役に立てて嬉しいです!」
「そ、そう? クロユリさんもなにか困ったことがあれば、遠慮なく言ってね?  僕にできることならなんでもするからさ」

 そう言うと、クロユリさんの表情が一瞬固まり、真剣な表情を浮かべる。

「……ノース様? 『なんでも』というのはどの辺りのことまで許容されるのでしょうか?」
「えっ? う~んと、そうだね。僕にできる範囲のことならなんでもいいよ?」

 クロユリさんとドライアドには、なにかとお世話になってるし、自分にできる範囲のことであれば聞いてあげるつもりだ。
 まあ、全財産を頂戴! とか、私と一緒に死んで! とか、言われたら話は別だけど……。

 そう言った直後、クロユリさんが考え込み始めてしまった。

『ノース様の私物を……いえ、やはりここは一緒の寝室で……でも、それだと……』

 声が小さくてよく聞こえないけど、クロユリさんがなんか、怖いことを呟いている。
 だ、大丈夫だろうか?
 今更ながら、とんでもない発言をしてしまった気がする。

 ま、まあ、常識の範囲内でね? 常識の範囲内のお願いであれば聞くけど、それ以外は難しいからね?
 わかっているよね??
しおりを挟む
感想 371

あなたにおすすめの小説

もう、終わった話ですし

志位斗 茂家波
ファンタジー
一国が滅びた。 その知らせを聞いても、私には関係の無い事。 だってね、もう分っていたことなのよね‥‥‥ ‥‥‥たまにやりたくなる、ありきたりな婚約破棄ざまぁ(?)もの 少々物足りないような気がするので、気が向いたらオマケ書こうかな?

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

転生貴族の移動領地~家族から見捨てられた三子の俺、万能な【スライド】スキルで最強領地とともに旅をする~

名無し
ファンタジー
とある男爵の三子として転生した主人公スラン。美しい海辺の辺境で暮らしていたが、海賊やモンスターを寄せ付けなかった頼りの父が倒れ、意識不明に陥ってしまう。兄姉もまた、スランの得たスキル【スライド】が外れと見るや、彼を見捨ててライバル貴族に寝返る。だが、そこから【スライド】スキルの真価を知ったスランの逆襲が始まるのであった。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

【完結】義妹とやらが現れましたが認めません。〜断罪劇の次世代たち〜

福田 杜季
ファンタジー
侯爵令嬢のセシリアのもとに、ある日突然、義妹だという少女が現れた。 彼女はメリル。父親の友人であった彼女の父が不幸に見舞われ、親族に虐げられていたところを父が引き取ったらしい。 だがこの女、セシリアの父に欲しいものを買わせまくったり、人の婚約者に媚を打ったり、夜会で非常識な言動をくり返して顰蹙を買ったりと、どうしようもない。 「お義姉さま!」           . . 「姉などと呼ばないでください、メリルさん」 しかし、今はまだ辛抱のとき。 セシリアは来たるべき時へ向け、画策する。 ──これは、20年前の断罪劇の続き。 喜劇がくり返されたとき、いま一度鉄槌は振り下ろされるのだ。 ※ご指摘を受けて題名を変更しました。作者の見通しが甘くてご迷惑をおかけいたします。 旧題『義妹ができましたが大嫌いです。〜断罪劇の次世代たち〜』 ※初投稿です。話に粗やご都合主義的な部分があるかもしれません。生あたたかい目で見守ってください。 ※本編完結済みで、毎日1話ずつ投稿していきます。

どうでもいいですけどね

志位斗 茂家波
恋愛
「ミラージュ令嬢!!貴女との婚約を破棄する!!」 ‥‥と、かつての婚約者に婚約破棄されてから数年が経ちました。 まぁ、あの方がどうなったのかは別にどうでもいいですけれどね。過去は過去ですから、変えようがないです。 思いついたよくある婚約破棄テンプレ(?)もの。気になる方は是非どうぞ。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

聖剣を錬成した宮廷錬金術師。国王にコストカットで追放されてしまう~お前の作ったアイテムが必要だから戻ってこいと言われても、もう遅い!

つくも
ファンタジー
錬金術士学院を首席で卒業し、念願であった宮廷錬金術師になったエルクはコストカットで王国を追放されてしまう。 しかし国王は知らなかった。王国に代々伝わる聖剣が偽物で、エルクがこっそりと本物の聖剣を錬成してすり替えていたという事に。 宮廷から追放され、途方に暮れていたエルクに声を掛けてきたのは、冒険者学校で講師をしていた時のかつての教え子達であった。 「————先生。私達と一緒に冒険者になりませんか?」  悩んでいたエルクは教え子である彼女等の手を取り、冒険者になった。 ————これは、不当な評価を受けていた世界最強錬金術師の冒険譚。錬金術師として規格外の力を持つ彼の実力は次第に世界中に轟く事になる————。

処理中です...