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第三章 ホオズキの街
第96話 ホオズキの街の視察①
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「えっ?」
まさかそんな簡単に信じるとは思っていなかったのか、アメリアさんが少し驚くような素振りを見せた。
アメリアさんの反応にフォーリッシュ兄様は笑みを浮かべる。
「なにを驚いているんだい? 美女の言うことに間違いがあるはずないだろう? それに私の大胸筋もデネブがなにかを隠していると言っている。美女と私の大胸筋がそう言うんだ。間違いないよ」
な、なにを言ってるんだろう。この人?
さっきまでデネブのお陰でどうたら言っていた人が、アメリアさんが美女だからという理由で簡単に考えを翻した。
しかも大胸筋が言っているという訳のわからない理由まで付けて……。
アメリアさんは頭を下げると、お礼の言葉を述べた。
「ありがとうございます」
「いやいや、これ位のことで礼は不要だよ。それにいまの私はとても気分が良い。なにか、私とこの街を救ってくれたお礼をしたいのだが……」
そう言うとフォーリッシュ兄様が悩み始める。その姿はまるで、昔、フラナガン院長が作成した銅像『ロダンの考える人』のようだった。
見ているだけで苦悩しているのが伝わってくる。
「……そうだ! それなら私と共に食事なんてどうだろう? この街を治める私との食事なんて中々、できるものではないよ?」
「そうですね。それでは、この街の視察させて頂けますか?」
食事のお誘いを華麗にスルーすると、フォーリッシュ兄様は大胸筋をピクピク動かした。
「ふふふっ、私との食事よりこの街の視察をとるか。そのつれない態度もまたいい。この街を視察する許可を与えます。それで、そこにいる貧相な筋肉の少年は誰だい?」
「ええっ……」
貧相な筋肉の少年って僕のことじゃないよね。ねえ?
<筋肉ダルマの視線を見るに間違いなくノース様のことかと……>
や、やっぱりそう思う?
<ええ、それにしても、この筋肉ダルマの知性は野生のワーウルフにも劣りますね。先程、アメリアがノース様のことを紹介したにも拘らず、そんなことを言うなんて……>
ナビさんが呆れている。
フォーリッシュ兄様、記憶力が酷いな。
頭の中でナビさんと会話していると、アメリアさんがため息を吐いた。
「このお方はオーダー辺境伯の実子にして、フォーリッシュ様の弟、ノース様です」
「ノース? 私に弟なんていたかな?」
「はい。フォーリッシュ様とは異母弟となります」
「ほう。異母弟か……それは知らなかったな。まあいい。ノース君」
「は、はい!」
緊張気味にそう返事すると、フォーリッシュ兄様がほほ笑んだ。
「君の筋肉はまだまだ未熟だ。私が治める筋肉の楽園『ホオズキの街』をよく見て、筋肉のなんたるかを知りなさい」
「……はい?」
<なにを言っているんですか。この筋肉ダルマは? 万能薬を口にするまで、不摂生が祟ってだるっだるの身体になった肥満体でしたよね。この人?>
ナビさん。気持ちはわかるけど、それ以上言ってはいけない。
<ノース様はそれでよろしいのですか?>
僕? そんなことは当然だ。
フォーリッシュ兄様とのアメリアさんの会話を聞いてもう諦めたよ。
<そ、そうですか……>
ナビさんとの脳内会話を終え、恭しくお礼の言葉を述べると立ち上がる。
「そうだな……とりあえず、君達に土地を用意しよう。暫くの間、そこに住むといい」
「えっ、土地ですか? 家ではなく??」
「ああ、その通りだ。資材は街の外に生えている木材を好きに使ってくれて構わないよ。私はね。ノース君。君のことを心配しているのだよ。君のその貧相な筋肉をね。家を建築することで多少は筋肉を鍛えることができるだろう。君には期待しているよ。よって、ノース君にはこの土地を与えよう」
フォーリッシュ兄様がそう言うと、デネブの住んでいた家を街の住民達が筋肉にものをいわせて破壊し始めた。
バキッバキッ!
ドカッ!
バキャッ!
デネブの住んでいた家を壊す破壊音が鳴り響く中、元家の持ち主であるデネブがそっと涙を流した。
ここまで徹底的に家を破壊されるとは思っても見なかったのだろう。
とはいえ、デネブは犯罪者。もうこの家に戻って来ることはない。
新しい寝床は、牢屋の中になると思われる。
街の住民達が解体作業を終えると、フォーリッシュ兄様が晴れ晴れとした表情を浮かべる。
「さて、ノース君。ここに君の家を建てたまえ、この土地は君の好きに使ってくれて構わないよ。家を建てた後、この街の視察も許可をする。それでは、頑張ってくれ」
そう言うと、フォーリッシュ兄様は街の住人達と共にデネブ達を連れて去っていった。
「……まあ、概ね予定通りですね。フォーリッシュ様より街の視察許可が下りました。それでは、さっさと家を建ててしまいましょう」
「そ、そうですね……」
なんだか釈然としないが仕方がない。
フォーリッシュ兄様との面会は済んだし、後はこの街の視察を終えるだけ。
「……そういえば、街の視察を終えた後はどうしたらいいんですか?」
よく考えて見れば、視察後のことを考えていなかった。
いや、謎の巨塔に行くことは確定事項なんだけど、考えていなかったのはそれ以降のことだ。
アメリアさんにそう質問すると、少し意外な回答が返ってくる。
まさかそんな簡単に信じるとは思っていなかったのか、アメリアさんが少し驚くような素振りを見せた。
アメリアさんの反応にフォーリッシュ兄様は笑みを浮かべる。
「なにを驚いているんだい? 美女の言うことに間違いがあるはずないだろう? それに私の大胸筋もデネブがなにかを隠していると言っている。美女と私の大胸筋がそう言うんだ。間違いないよ」
な、なにを言ってるんだろう。この人?
さっきまでデネブのお陰でどうたら言っていた人が、アメリアさんが美女だからという理由で簡単に考えを翻した。
しかも大胸筋が言っているという訳のわからない理由まで付けて……。
アメリアさんは頭を下げると、お礼の言葉を述べた。
「ありがとうございます」
「いやいや、これ位のことで礼は不要だよ。それにいまの私はとても気分が良い。なにか、私とこの街を救ってくれたお礼をしたいのだが……」
そう言うとフォーリッシュ兄様が悩み始める。その姿はまるで、昔、フラナガン院長が作成した銅像『ロダンの考える人』のようだった。
見ているだけで苦悩しているのが伝わってくる。
「……そうだ! それなら私と共に食事なんてどうだろう? この街を治める私との食事なんて中々、できるものではないよ?」
「そうですね。それでは、この街の視察させて頂けますか?」
食事のお誘いを華麗にスルーすると、フォーリッシュ兄様は大胸筋をピクピク動かした。
「ふふふっ、私との食事よりこの街の視察をとるか。そのつれない態度もまたいい。この街を視察する許可を与えます。それで、そこにいる貧相な筋肉の少年は誰だい?」
「ええっ……」
貧相な筋肉の少年って僕のことじゃないよね。ねえ?
<筋肉ダルマの視線を見るに間違いなくノース様のことかと……>
や、やっぱりそう思う?
<ええ、それにしても、この筋肉ダルマの知性は野生のワーウルフにも劣りますね。先程、アメリアがノース様のことを紹介したにも拘らず、そんなことを言うなんて……>
ナビさんが呆れている。
フォーリッシュ兄様、記憶力が酷いな。
頭の中でナビさんと会話していると、アメリアさんがため息を吐いた。
「このお方はオーダー辺境伯の実子にして、フォーリッシュ様の弟、ノース様です」
「ノース? 私に弟なんていたかな?」
「はい。フォーリッシュ様とは異母弟となります」
「ほう。異母弟か……それは知らなかったな。まあいい。ノース君」
「は、はい!」
緊張気味にそう返事すると、フォーリッシュ兄様がほほ笑んだ。
「君の筋肉はまだまだ未熟だ。私が治める筋肉の楽園『ホオズキの街』をよく見て、筋肉のなんたるかを知りなさい」
「……はい?」
<なにを言っているんですか。この筋肉ダルマは? 万能薬を口にするまで、不摂生が祟ってだるっだるの身体になった肥満体でしたよね。この人?>
ナビさん。気持ちはわかるけど、それ以上言ってはいけない。
<ノース様はそれでよろしいのですか?>
僕? そんなことは当然だ。
フォーリッシュ兄様とのアメリアさんの会話を聞いてもう諦めたよ。
<そ、そうですか……>
ナビさんとの脳内会話を終え、恭しくお礼の言葉を述べると立ち上がる。
「そうだな……とりあえず、君達に土地を用意しよう。暫くの間、そこに住むといい」
「えっ、土地ですか? 家ではなく??」
「ああ、その通りだ。資材は街の外に生えている木材を好きに使ってくれて構わないよ。私はね。ノース君。君のことを心配しているのだよ。君のその貧相な筋肉をね。家を建築することで多少は筋肉を鍛えることができるだろう。君には期待しているよ。よって、ノース君にはこの土地を与えよう」
フォーリッシュ兄様がそう言うと、デネブの住んでいた家を街の住民達が筋肉にものをいわせて破壊し始めた。
バキッバキッ!
ドカッ!
バキャッ!
デネブの住んでいた家を壊す破壊音が鳴り響く中、元家の持ち主であるデネブがそっと涙を流した。
ここまで徹底的に家を破壊されるとは思っても見なかったのだろう。
とはいえ、デネブは犯罪者。もうこの家に戻って来ることはない。
新しい寝床は、牢屋の中になると思われる。
街の住民達が解体作業を終えると、フォーリッシュ兄様が晴れ晴れとした表情を浮かべる。
「さて、ノース君。ここに君の家を建てたまえ、この土地は君の好きに使ってくれて構わないよ。家を建てた後、この街の視察も許可をする。それでは、頑張ってくれ」
そう言うと、フォーリッシュ兄様は街の住人達と共にデネブ達を連れて去っていった。
「……まあ、概ね予定通りですね。フォーリッシュ様より街の視察許可が下りました。それでは、さっさと家を建ててしまいましょう」
「そ、そうですね……」
なんだか釈然としないが仕方がない。
フォーリッシュ兄様との面会は済んだし、後はこの街の視察を終えるだけ。
「……そういえば、街の視察を終えた後はどうしたらいいんですか?」
よく考えて見れば、視察後のことを考えていなかった。
いや、謎の巨塔に行くことは確定事項なんだけど、考えていなかったのはそれ以降のことだ。
アメリアさんにそう質問すると、少し意外な回答が返ってくる。
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