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第三章 ホオズキの街
第95話 フォーリッシュ兄様との対面⑧
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「なにっ! その年でもう恋人がいるのか!?」
どうやら、フォーリッシュ兄様は錯乱しているようだ。
兄弟初めての対面だというのに、僕自身よりも色恋沙汰の方が気になるらしい。
クロユリさんに視線を向けると、顔を真っ赤にしながら満面の笑みを浮かべ、フルフルと身体を揺すっている。
いいえ。恋人ではありません。なんて、言えるような状況ではない。
どう返答しようか困惑していると、この状況を引き起こした張本人であるアメリアさんが助け舟を出してくれた。
「そんなことよりも、フォーリッシュ様。随分とお痩せになったようですが……」
「うむ。それについては私も驚いている。最近、身体の調子が思わしくなかったのだがね。デネブに言われて飲んだ薬のお陰でこの通りだよ」
「えっ? それはどういう……」
デネブに視線を向けると、デネブが我が意を得たり! といった表情を浮かべる。
「そ、その通りです。じ、実は私、フォーリッシュ様に『運動や食生活を改善することなく楽に痩せる薬はないか』と尋ねられまして……」
「そうそう、そう尋ねたらデネブがこう言ったのだよ。『副作用はありますが絶大な効果を見込める薬があります』とな、そうだろうデネブ」
「は、はい! その通りでございます。最終的には、この街を治めるフォーリッシュ様の発案で、それなら街に住む皆にもそれを配付し飲んでもらおうということになりまして……け、決して騙した訳ではありません! 街の住民が薬の効果で寝込んでいる間に支配してしまおうとも考えておりません! 本当です!!」
<胡散臭いですね。スエヒロタケ感染症は、解毒薬や万能薬なしに治すことはできません。デネブの言ったことは冒頭部分を除き、丸々嘘に決まっています>
まあ、普通に考えればそうだよね?
しかし、フォーリッシュ兄様の発言は、想像の斜め上をいく。
「そんなことはわかっているよ。デネブにそんな度胸はないだろうからね。そうかそうか、それにしても素晴らしい効果だね。薬を飲んで寝込んでいただけで、こんな筋肉質な身体になれるなんて、デネブを信じて本当によかったよ。はやり、私の人を見る目は確かだったようだ」
どうやらフォーリッシュ兄様は、楽観的且つ人を見る目のない駄目な兄様だったようだ。この人に街の運営なんて任せて大丈夫なのだろうか?
<いや、大丈夫でないことだけは確かですね。ナビ達がこの場にいなければ、街の住民はみんなスエヒロタケ感染症が進行し、死んでいました。どうやら騙されていることにすら気付くことのできない間抜けのようですね>
ナビさんの批評が辛辣だ。
まだそう対して話してないのに、もう間抜け扱いされている。
「それで、そこのキノコに捕らえられている人達はなんだい? 隣国の兵士に見えるのだが……」
筋骨隆々となったフォーリッシュ兄様が、筋肉を見せつけるようにフロントリラックスを極めると、捕えた隣国の兵士達に視線を向ける。
「あの者達は隣国のへい……」
アメリアさんが説明しようとすると、デネブがアメリアさんより大きな声を上げて遮った。
「――あの者達は隣国の兵士ではなく、この街の皆さんのために隣国から呼び寄せたインストラクターです! 私はストレリチア王国出身でしてね。ストレリチア王国はインストラクターの聖地と呼ばれているのです! 筋肉を鍛えるには、兵士と同じような訓練をするのが一番! フォーリッシュ様の素晴らしい筋肉を鍛えるため、わざわざ呼び寄せたのです!」
デネブがそう言うと、フォーリッシュ兄様は感嘆とした声を上げた。
「そうか……流石はデネブ。よくわかっているじゃないか!」
さっきからフォーリッシュ兄様が暑苦しい。
今度はサイドチェストを極めている。
あっ、アメリアさんが目に手を当てて、ため息を吐いている。
もう駄目だこりゃ……とでも、言わんばかりの表情だ。
「――駄目だこいつ。早くなんとかしないと……」
アメリアさんが小さな声で呟いた。
同意見である。
「おや、なにか言ったかい?」
「いえ、なにも言っておりません。それよりフォーリッシュ様。私の話を聞いて頂けますか?」
「話か……私は長い話を聞くのが大嫌いなんだよね。まあ、君は美人だし、話くらいは聞くとしよう。君、名前をなんというのかな?」
「……申し遅れました。私の名は、アメリアと申します」
「そうかそうか。アメリア君だね。覚えたよ。自慢じゃないが、私は一度聞いた美人の名前は忘れないんだ」
いや、秒で名前忘れていたよね?
アメリアさん、さっき自己紹介していたよね?
<こいつ、口ばかりで全然覚える気がありませんね>
ナビさんの浮かべる文字も、段々とキツイ言い回しになってきた。
「――それで? 話とは一体なんだい?」
「はい。それでは簡潔に申し上げます。そちらにいるデネブはストレリチア王国の間者。捕えられている兵士も同様です。騙されてはなりません」
アメリアさんがそう簡潔に述べると、フォーリッシュ兄様がポツリとつぶやく。
デネブが必死そうな表情を浮かべ、騙されないで下さいと連呼しているが、無視しているようだ。
「――美女の言うことに間違いはないな。そこにいるデネブと兵士を捕えなさい」
「「「はい!」」」
フォーリッシュ兄様がそう言うと、マッシュルーム兵に代わり街の住民達がデネブと兵士達を捕えていく。
------------------------------------------------------------------
告知となりますが、2021年12月中旬に『転異世界のアウトサイダー』の2巻が発売となります。
それに伴い、書籍に収録される部分(第三章辺りまで)は、規定により取り下げとなります。
今回は、ケイとフェイといった子供達や本作では出なかった『虫の知らせ』の精霊も出る予定です。
書影公開日、ネットでの発売日等、現段階では頂いてはおりませんが、ご確認頂けると幸いです。
また、2巻発売に際しまして、こんな話を書いて欲しい。といった、SSを募集します。
本編完結時に頂いた『こんな話を書いて欲しい』といったもの以外に何かあれば、ぜひ、コメント頂けると幸いです。
よろしくお願いいたします。
どうやら、フォーリッシュ兄様は錯乱しているようだ。
兄弟初めての対面だというのに、僕自身よりも色恋沙汰の方が気になるらしい。
クロユリさんに視線を向けると、顔を真っ赤にしながら満面の笑みを浮かべ、フルフルと身体を揺すっている。
いいえ。恋人ではありません。なんて、言えるような状況ではない。
どう返答しようか困惑していると、この状況を引き起こした張本人であるアメリアさんが助け舟を出してくれた。
「そんなことよりも、フォーリッシュ様。随分とお痩せになったようですが……」
「うむ。それについては私も驚いている。最近、身体の調子が思わしくなかったのだがね。デネブに言われて飲んだ薬のお陰でこの通りだよ」
「えっ? それはどういう……」
デネブに視線を向けると、デネブが我が意を得たり! といった表情を浮かべる。
「そ、その通りです。じ、実は私、フォーリッシュ様に『運動や食生活を改善することなく楽に痩せる薬はないか』と尋ねられまして……」
「そうそう、そう尋ねたらデネブがこう言ったのだよ。『副作用はありますが絶大な効果を見込める薬があります』とな、そうだろうデネブ」
「は、はい! その通りでございます。最終的には、この街を治めるフォーリッシュ様の発案で、それなら街に住む皆にもそれを配付し飲んでもらおうということになりまして……け、決して騙した訳ではありません! 街の住民が薬の効果で寝込んでいる間に支配してしまおうとも考えておりません! 本当です!!」
<胡散臭いですね。スエヒロタケ感染症は、解毒薬や万能薬なしに治すことはできません。デネブの言ったことは冒頭部分を除き、丸々嘘に決まっています>
まあ、普通に考えればそうだよね?
しかし、フォーリッシュ兄様の発言は、想像の斜め上をいく。
「そんなことはわかっているよ。デネブにそんな度胸はないだろうからね。そうかそうか、それにしても素晴らしい効果だね。薬を飲んで寝込んでいただけで、こんな筋肉質な身体になれるなんて、デネブを信じて本当によかったよ。はやり、私の人を見る目は確かだったようだ」
どうやらフォーリッシュ兄様は、楽観的且つ人を見る目のない駄目な兄様だったようだ。この人に街の運営なんて任せて大丈夫なのだろうか?
<いや、大丈夫でないことだけは確かですね。ナビ達がこの場にいなければ、街の住民はみんなスエヒロタケ感染症が進行し、死んでいました。どうやら騙されていることにすら気付くことのできない間抜けのようですね>
ナビさんの批評が辛辣だ。
まだそう対して話してないのに、もう間抜け扱いされている。
「それで、そこのキノコに捕らえられている人達はなんだい? 隣国の兵士に見えるのだが……」
筋骨隆々となったフォーリッシュ兄様が、筋肉を見せつけるようにフロントリラックスを極めると、捕えた隣国の兵士達に視線を向ける。
「あの者達は隣国のへい……」
アメリアさんが説明しようとすると、デネブがアメリアさんより大きな声を上げて遮った。
「――あの者達は隣国の兵士ではなく、この街の皆さんのために隣国から呼び寄せたインストラクターです! 私はストレリチア王国出身でしてね。ストレリチア王国はインストラクターの聖地と呼ばれているのです! 筋肉を鍛えるには、兵士と同じような訓練をするのが一番! フォーリッシュ様の素晴らしい筋肉を鍛えるため、わざわざ呼び寄せたのです!」
デネブがそう言うと、フォーリッシュ兄様は感嘆とした声を上げた。
「そうか……流石はデネブ。よくわかっているじゃないか!」
さっきからフォーリッシュ兄様が暑苦しい。
今度はサイドチェストを極めている。
あっ、アメリアさんが目に手を当てて、ため息を吐いている。
もう駄目だこりゃ……とでも、言わんばかりの表情だ。
「――駄目だこいつ。早くなんとかしないと……」
アメリアさんが小さな声で呟いた。
同意見である。
「おや、なにか言ったかい?」
「いえ、なにも言っておりません。それよりフォーリッシュ様。私の話を聞いて頂けますか?」
「話か……私は長い話を聞くのが大嫌いなんだよね。まあ、君は美人だし、話くらいは聞くとしよう。君、名前をなんというのかな?」
「……申し遅れました。私の名は、アメリアと申します」
「そうかそうか。アメリア君だね。覚えたよ。自慢じゃないが、私は一度聞いた美人の名前は忘れないんだ」
いや、秒で名前忘れていたよね?
アメリアさん、さっき自己紹介していたよね?
<こいつ、口ばかりで全然覚える気がありませんね>
ナビさんの浮かべる文字も、段々とキツイ言い回しになってきた。
「――それで? 話とは一体なんだい?」
「はい。それでは簡潔に申し上げます。そちらにいるデネブはストレリチア王国の間者。捕えられている兵士も同様です。騙されてはなりません」
アメリアさんがそう簡潔に述べると、フォーリッシュ兄様がポツリとつぶやく。
デネブが必死そうな表情を浮かべ、騙されないで下さいと連呼しているが、無視しているようだ。
「――美女の言うことに間違いはないな。そこにいるデネブと兵士を捕えなさい」
「「「はい!」」」
フォーリッシュ兄様がそう言うと、マッシュルーム兵に代わり街の住民達がデネブと兵士達を捕えていく。
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告知となりますが、2021年12月中旬に『転異世界のアウトサイダー』の2巻が発売となります。
それに伴い、書籍に収録される部分(第三章辺りまで)は、規定により取り下げとなります。
今回は、ケイとフェイといった子供達や本作では出なかった『虫の知らせ』の精霊も出る予定です。
書影公開日、ネットでの発売日等、現段階では頂いてはおりませんが、ご確認頂けると幸いです。
また、2巻発売に際しまして、こんな話を書いて欲しい。といった、SSを募集します。
本編完結時に頂いた『こんな話を書いて欲しい』といったもの以外に何かあれば、ぜひ、コメント頂けると幸いです。
よろしくお願いいたします。
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