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第三章 ホオズキの街

第91話 フォーリッシュ兄様との対面④

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 <ノース様、敵勢力の制圧が終わりました>

 えっ? もう終わったの?
 っていうか、軍隊が来るのは明日じゃなかった??

 チラリとデネブに視線を向けると、デネブは威勢の良い声で怒鳴り散らしながら言う。

「さあ、殺されたくなかったら、いますぐ私達を解放しろ! もうすぐ側まで軍隊が近付いてきているんだぞ? 軍隊を止めることができるのは私だけだ。命乞いしなくていいのかなぁ!?」
「…………」
「なんとか言ったらどうだ、クソガキ!」

 黙っていると、デネブはさらにヒートアップしていく。
 もはや相手をするのも面倒くさい。

 <おそらく、ナビ達の裏をかくため嘘の情報を伝えようとしたのでしょう。したたかな男です>

 なるほど、流石はデネブ。フォーリッシュ兄様を騙し、街に感染症を蔓延させただけのことはある。
 まあ褒められたことじゃないけどね!

「ノース様、いかが致しましょうか? この男の言うことが本当なら大変なことに……」
「いえ、その件はもう片付きました。どうやら、僕の護衛が制圧してくれたみたいです」
「なぁ、なにぃ!? う、嘘をつくんじゃない小僧! 一千人からなる軍隊だぞ!? 護衛ごときに制圧できるはずがないだろう!」

 デネブが信じられないといった表情を浮かべながら唾を飛ばし喋りかけてきた。
 汚いからやめてほしい。
 あと口臭もキツいので口を開くのもやめてほしい。

 デネブを無視していると、アメリアさんが話しかけてくる。

「ノース様の護衛が……ですか? なるほど、それなら納得です。捕えた者達はいまどこに?」

 <門の外にいますよ>

 ナビさんの浮かべる文字は僕以外に見ることができない。だから、ナビさんの代わりに答える。

「門の外にいるそうです」
「わかりました。それでは少しの間、この場所をお願いします」

 そう言うと、アメリアさんが玄関に向かって歩き出す。

「えっ? アメリアさん、どこに行くんですか?」
「捕らえた軍隊の確認に向かいます。ノース様とクロユリ様はここでデネブを見張っていて下さい」

「わかりました!」

 クロユリさんが僕が口を開くより先に返事した。
 そういえばクロユリさん、さっきからあまり喋っていなかった気がする。

 アメリアさんが玄関から出て行ったことを確認し、クロユリさんに話かけようとすると、デネブが大きな声を上げた。

「この私を無視するなぁぁぁぁ!」
「!!?」

 ビックリした。
 突然、大きな声を出さないでほしい。

「まあまあ、落ち着いて下さい」
「ふざけるなっ! こんな状況で落ち着ける訳がないだろうが! 四の五の言わず私の言う通りにしていればいいんだよ! さっさと、私達を解放しろっ!」
「いや、それは無理ですって……だって、デネブさん達がフォーリッシュ兄様にスエヒロタケを食べさせ、感染症を引き起こしたんですよね? 逃がすなんてことできる訳がないじゃないですか」

 そう言うとデネブは顔を真っ赤にして怒りだす。

「ふ、ふざけるなぁぁぁぁ! 私はこんな所で終わっていいような人間じゃないんだ! こんなガキに足元をすくわれた位で終わって堪るか! そっちがその気なら……」

 すると激昂するデネブの背後に、目からハイライトを落としたクロユリさんが忍び寄るのが目に映る。
 手には精霊石を形状変化させたであろうメイスが握られていた。

 樹の根に囚われている門番達もクロユリさんの放つ異様な空気にゴクリと生唾を飲んでいる。

「……そっちがその気なら、私にも考えが……って、ああっ?」

 異変に気付いたデネブが背後を振り向くと、そこにはメイスを両手で握り締め、黒い笑みを浮かべたクロユリさんの姿があった。

 クロユリさんがメイスを持つとなぜだろう。
 目のハイライトが消えていて異様に怖い。

「ちょっと、うるさいです。少しの間、眠っていて頂けませんか?」

 そう言うと、クロユリさんは手に持つメイスを振り上げた。
 クロユリさんがメイスを持ち上げた瞬間、デネブは狼狽する。

「ま、まてまてまてまてっ! 待ってくれぇぇぇぇ! げふっ!?」

 しかし、そんなデネブ必死の抵抗も虚しく、デネブの頭にメイスが叩き付けられた。
 メイスを叩きつけられたデネブは泡を吹いて倒れると、ピクピク身体を痙攣させた。

 デネブに対し容赦ないメイスの一撃を与えたクロユリさんは笑顔を浮かべると、メイスを放り、僕に近付いてくる。
 そんなクロユリさんに質問を投げかけた。

「え、えーっと、クロユリさん? なにやってるの??」
「はい。少々、声が耳障りでしたので、アメリア様が帰ってくるまでの間、眠って頂こうと思いまして、少々、強引な手段をとらせて頂きました♪」
「そ、そうなんだ……」

 永遠に眠らせた訳じゃないよね?
 とても心配だ。

「そ、そんなことよりもっ!」

 いまも苦しそうに呻くフォーリッシュ兄様の近くに駆け寄ると、フォーリッシュ兄様のために持ってきた万能薬を取り出した。
 そして、それをフォーリッシュ兄様の口元に寄せると、クロユリさんが待ったをかけてくる。

「ノース様、お待ち下さい。そのまま、お義兄様に万能薬を飲ませては誤嚥(万能薬が気管に入ってしまう)の危険性があります。ここは私にお任せ下さい」
「う、うん」

 そうだったのか、それは知らなかった。

 万能薬を手渡すと、クロユリさんはメイスに魔力を込め形状を注射針に変化させると、気泡を含めないよう万能薬を容器に入れていく。

「えっ? ち、ちょっと待ってクロユリさん! フォーリッシュ兄様になにをする気!?」

 僕が慌てた表情を浮かべると、クロユリさんは「大丈夫です」と呟き、針先をフォーリッシュ兄様にあてた。
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