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第三章 ホオズキの街

第86話 パナシーアタケをもって街に帰ってきました④

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「ま、まずいぞっ! これはまずい!!」

 ま、まさかこんな事になるとは……。

 パナシーアタケという架空の万能薬の原料を探しに行かせた所、まさか本物の万能薬の原料を見つけてくるなんて……!?

 パナシーアタケなんて、てっきり、お伽噺で登場する架空のものと思っていた。
 まさかそんなものが、この地に生えているとはっ!?

 それにしてもクソッ!

 この街の付近に協力者がいるんじゃなかったのかっ!?

 ええい! 役に立たない協力者めっ!
 このまま、ホオズキの街の住民が万能薬の効能で元の体調を戻したらどうなると思っているんだっ!

 この私が一ヶ月間もかけて振り撒いた感染症がすべて無意味になるんだぞっ!

「ど、どうすればいいんだっ! こ、このままでは、あのガキに……。一ヶ月かけて準備してきた、この私の作戦が無意味になってしまう」

 本国から既に兵士達を呼んでいる。
 明日、いや今日にでも兵士達が来てしまうかも知れない!

「い、一体、どうすれば……ああ、どうすればよろしいのでしょうかっ!?」

 しかし、考えは浮かばない。

 その場にうな垂れると、私は考え込む。

「……とりあえず、この場は乗り切ろう」

 そう呟くと、私は人知れず準備を始めることにした。

 ◇◆◇

「これは酷いですね……」
「ええ、この街を護る門番としてあり得ません」

 街の外に向かうと、門の前に酒瓶を残し、門番の人達が出払っていた。
 ナビさんの言う通り、マッシュルーム・アサシンに街の警護を任せて本当によかった。

「まあ、街の警護にはマッシュルーム・アサシンを就けているので問題ありません。それよりも、まずは街の周囲を囲う防壁をなんとかする方が先です」

 クロユリさんに視線を向けると、クロユリさんは笑顔を浮かべながら精霊石を取り出した。

「それでは、街を囲う防壁を『精霊壁』に変えちゃいますね」
「えっ?」

『精霊壁』ってなんだ?
 そう疑問に思っていると、クロユリさんが防壁に精霊石を置き、森の精霊ドライアドにお願いをする。

「それじゃあ、ドラちゃん。この街を囲う壁すべてを精霊壁に変えちゃって下さい」

 クロユリさんがそうお願いをすると、ドライアドは『キュイ!』と鳴き声を上げる。
 すると、突如として地面が揺れ出し、防壁が翠色の光を帯びると、継ぎ目のない樹でできた防壁が築かれていく。

 突然、築かれた防壁に茫然とした表情を浮かべていると、クロユリさんが近くに寄ってきた。

「ノース様、これでいかがですか!?」

 クロユリさんの浮かべる表情は、まるでご主人様に褒めて貰いたくて仕方がないフォレストウルフのようだ。
 森の精霊ドライアドも尻尾を振っている。

「う、うん。ありがとう。それにしてもクロユリさんは凄いね。まさか、こんなことまでできるなんて知らなかったよ。ドライアド様もありがとうございます」
「はい。ノース様のためなら怠惰ではいられません」
「そ、そう? それで精霊壁について聞いてもいいかな?」

 精霊壁という名の響きから、普通の壁ではないことは間違いない。
 クロユリさんのやることだ。きっと、とんでもない効果を持った壁なのだろう。

「はい。精霊壁とは、簡単に言えば森の精霊ドラちゃんの分体が宿る壁です。この精霊壁が囲う範囲内にいる人間の魔力を少しだけ分けて貰い、ドラちゃんの分体が敵を撃退してくれます」
「そ、そうなんだ」

 中々、凄い効果を持った壁だった。

「もちろん、精霊壁で囲った範囲内の諜報や、内部で暗躍する悪人(ノース様の敵)の察知、攻撃もお手の物です。あら……いま、ドラちゃんが魔法を使ったような気が……」
「ええっ? それはどういう……」

 すると、街の中から「ぎゃああああ!」という悲鳴が聞こえてきた。
 なんだか聞いたことのある悲鳴だ。

 突然聞こえてきた悲鳴にアメリアさん、クロユリさんと顔を合わせる。

「えっと、いまの声、とても聞いたことのある声だったんだけど……」
「奇遇ですね。私もいまそんなことを思っていたところです」
「そうですか? 私はこんな野太い声聞いたことがありませんけど……」

 クロユリさんはこう言っているが、まず間違いなく。いまの声は門番達の声だった。
 もしかして、森の精霊ドライアドの誤射なんていうことはないよね?

 でも、あの門番達、素行不良だったし……。

 チラリとドライアドに視線を向けると、『キュイ!』と鳴き声を上げた。
 その声は『やってやったぜ!』と言わんばかりの鳴き声だった。

「と、とりあえず、街の中に向かおうか……」
「そ、そうですね。いまの悲鳴、気になりますし、もしかしたら門番さん達じゃないかもしれません。いずれにしても、なにがあったのか確認するべきです」
「そ、そうですよね? それじゃあ、門番さん達の下に向かいましょう」

 そう言うと、僕達は急ぎ、悲鳴の聞こえてきた建物の方角へと向かった。

「う、うわぁ……」
「これは、凄いですね……」
「でも、この家、デネブさんの家じゃ……」

 そこには樹の根に絡めとられ、家の中でワーキャー騒ぐ門番達の姿があった。

「だ、誰かっ! 誰かいないのかっ!」
「た、助けてくれっ! 急に地面から根がっ! 根が身体に絡まって!」
「くそっ! 一体なんなんだっ!」
「そ、そんなことより、こいつを隠さなきゃ……」

 どうやら門番達はデネブの家で、人には言えないような悪さをしていたらしい。
 門番達の内、一人が言った『そんなことより、こいつを隠さなきゃ……』という言葉がそれを物語っている。

「デネブさんには悪いですが非常時です。オーダー様の使者権限で中に入りましょう」
「は、はい」

 アメリアさんの言葉に頷き、デネブの家に入ろうとすると、背後からドサリとなにかを落としたかのような音が聞こえてきた。
 後ろを振り向くと、そこには沢山の荷物を抱えたデネブが茫然とした表情を浮かべながら立ち尽くしている。

「デ、デネブさん、大変です! デネブさんの家の中で門番達が!」

 そう言うと、デネブは荷物を地面に置き、目元に手を持ってくると宙を仰いだ。

「デ、デネブさん?」

 そう声をかけるも、デネブは宙を仰ぐだけで動こうとしない。

 <デネブさんは混乱しているようですね。無理もありません。戻ってきたら家が樹の根に覆われ、中には強盗が押し入っていたのですから……>

 確かに、その通りかもしれない。
 おそらく、僕達以上にデネブは混乱しているはずだ。
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