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第三章 ホオズキの街
第85話 パナシーアタケをもって街に帰ってきました③
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「これを飲めばすぐに病状が良くなりますよ」
「ゴホッ、ゴホッ! あ、ああ、ありがとう」
僕達は手分けをして患者一人一人に万能薬の瓶を渡しにいく。
患者の中には万能薬を投げ捨てようとする者もいたが、そういった方々はデネブが丁寧に説得し、最終的には万能薬を口にして貰うことができた。
「この万能薬はオーダー辺境伯の使者様が用意して下さったものです。安心してお飲み下さい」
途中、万能薬を渡していく際に執拗な位、そう口にするデネブのことが気になったが、よくよく考えて見たらこの街の人はお父さんに対して良い印象を抱いていないことを思い出した。
おそらくデネブは、お父さんの評価を上げるため、あえてそう喧伝しているのだろう。
建物内にいるすべての患者に万能薬を配り終えた僕達が一息入れていると、デネブがひたすらに『おかしい。どうなっている?』という言葉を呟いているのが聞こえてきた。
「デネブさん。どうかしたんですか?」
そう尋ねると、デネブは顔を強張らせる。
「い、いえ、なんでもありません。いや、それにしても万能薬の効果は凄いですね」
デネブはベッドに横たわる患者に視線を向ける。
ベッドに横たわる患者の表情を見ると、とても安らかな表情を浮かべていた。
「そうですね。これもすべてデネブさんが万能薬の原材料であるパナシーアタケの存在を教えてくれたお蔭です」
「そんなことはありませんよ。皆様のお蔭です。そう。皆様のお蔭でこの街の人々は救われました」
もの凄く良いことを言っているのに、デネブは心なしか苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
一体どうしたのだろうか?
「デネブさん。表情がその……苦虫を噛み潰したような表情になっていますが、どうしたのですか?」
そう問いかけると、デネブは自分の顔に手を当て、取り繕った笑顔を浮かべる。
「い、いえ、失礼致しました。最近、街から病を根絶することばかり考えておりましたからね。もしかしたら、病に対する憎しみのようなものが表情に現れていたのかもしれません」
「そうですか? それならいいんですが……」
これまで、デネブは街の人々を病から守るため、必死に治療に努めていてくれていた。デネブがそう言うなら、きっとそうなのだろう。
「ええ、街の人々はもう大丈夫そうですね。それでは、私はこれで……私にはまだまだ成さねばならぬことがありますので……」
そう言い残すと、デネブは部屋から出て行った。
おそらく、住んでいる家に戻ったのだろう。
「さて、ノース様。万能薬は配り終えました。これからどういたしましょうか?」
「そうですね。個人的には、この街を囲う防壁をなんとかしたいですけど、アメリアさんはどう思いますか?」
「防壁ですか……確かに、あり得ない位、ボロボロでしたからね。しかし、防壁をなんとかすると言ってもどうすれば……」
すると、僕とアメリアさんの会話を聞いていたクロユリさんが手を挙げた。
「はい! ノース様、防壁のことなら私にお任せ下さい!」
「えっ? クロユリさんに?」
そう呟くと、クロユリさんが満面の笑顔を浮かべながら、肩に乗っている森の精霊ドライアドの下顎を軽く撫でる。
「はい! 私とドラちゃんの力があれば、防壁位簡単に築くことができます! ノース様のお力になればと思ったのですが……ダメでしょうか?」
「そ、そんなことないよ! それじゃあ、クロユリさんにお願いしようかな? いいですよね。アメリアさん?」
「ええ、まあ、そうですね。若干、心配もありますが……まあいいでしょう」
お父さんの側近であるアメリアさんの許可も得た。
クロユリさんがなにをするのかはわからないが、街を囲う防壁は既にボロボロとなっており、防壁としての意味合いはほぼ無いといっても過言ではない状態だ。
これ以上、悪くなることはないだろう。
「それじゃあ、一度、街の外に出ようか」
「はい!」
そう言うと、僕達はこの場所を離れ、街の外へと向かおうとする。
すると、ナビさんが視界に文字を浮かべてきた。
<ノース様。なにか嫌な予感がします。念のため、この場にマッシュルーム・アサシンを数体配置してもよろしいでしょうか?>
えっ、マッシュルーム・アサシンを?
別に構わないけど……。嫌な予感ってなに?
<それはわかりません。しかし、ナビの予感はよく当たるのです。それでは、マッシュルーム・アサシンを数体、この場に配置させて頂きます。ノース様さえ良ければ、この街全体に配置することもできますが、いかが致しますか?>
う~ん。どうしようかな……。
現状、街の防壁は役に立たない状態にある。
門番の人達も柄が悪いし、街の中を見回る兵士も床に伏せっている。
それじゃあ、お願いできるかな?
もしマッシュルーム・アサシンが足りないようなら、ギフトポイントを使ってくれても構わないからさ。
<はい。承知致しました>
そう文字を浮かべると、ナビさんはギフトポイントを使い、マッシュルーム・アサシンを召喚していく。
召還していくといっても、マッシュルーム・アサシンが目の前に現れる訳ではない。
視界にそう表示されているから、そのことがわかるだけだ。
マッシュルーム・アサシンに患者と街の警護を任せると、僕達は街の外へと向かうことにした。
「ゴホッ、ゴホッ! あ、ああ、ありがとう」
僕達は手分けをして患者一人一人に万能薬の瓶を渡しにいく。
患者の中には万能薬を投げ捨てようとする者もいたが、そういった方々はデネブが丁寧に説得し、最終的には万能薬を口にして貰うことができた。
「この万能薬はオーダー辺境伯の使者様が用意して下さったものです。安心してお飲み下さい」
途中、万能薬を渡していく際に執拗な位、そう口にするデネブのことが気になったが、よくよく考えて見たらこの街の人はお父さんに対して良い印象を抱いていないことを思い出した。
おそらくデネブは、お父さんの評価を上げるため、あえてそう喧伝しているのだろう。
建物内にいるすべての患者に万能薬を配り終えた僕達が一息入れていると、デネブがひたすらに『おかしい。どうなっている?』という言葉を呟いているのが聞こえてきた。
「デネブさん。どうかしたんですか?」
そう尋ねると、デネブは顔を強張らせる。
「い、いえ、なんでもありません。いや、それにしても万能薬の効果は凄いですね」
デネブはベッドに横たわる患者に視線を向ける。
ベッドに横たわる患者の表情を見ると、とても安らかな表情を浮かべていた。
「そうですね。これもすべてデネブさんが万能薬の原材料であるパナシーアタケの存在を教えてくれたお蔭です」
「そんなことはありませんよ。皆様のお蔭です。そう。皆様のお蔭でこの街の人々は救われました」
もの凄く良いことを言っているのに、デネブは心なしか苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。
一体どうしたのだろうか?
「デネブさん。表情がその……苦虫を噛み潰したような表情になっていますが、どうしたのですか?」
そう問いかけると、デネブは自分の顔に手を当て、取り繕った笑顔を浮かべる。
「い、いえ、失礼致しました。最近、街から病を根絶することばかり考えておりましたからね。もしかしたら、病に対する憎しみのようなものが表情に現れていたのかもしれません」
「そうですか? それならいいんですが……」
これまで、デネブは街の人々を病から守るため、必死に治療に努めていてくれていた。デネブがそう言うなら、きっとそうなのだろう。
「ええ、街の人々はもう大丈夫そうですね。それでは、私はこれで……私にはまだまだ成さねばならぬことがありますので……」
そう言い残すと、デネブは部屋から出て行った。
おそらく、住んでいる家に戻ったのだろう。
「さて、ノース様。万能薬は配り終えました。これからどういたしましょうか?」
「そうですね。個人的には、この街を囲う防壁をなんとかしたいですけど、アメリアさんはどう思いますか?」
「防壁ですか……確かに、あり得ない位、ボロボロでしたからね。しかし、防壁をなんとかすると言ってもどうすれば……」
すると、僕とアメリアさんの会話を聞いていたクロユリさんが手を挙げた。
「はい! ノース様、防壁のことなら私にお任せ下さい!」
「えっ? クロユリさんに?」
そう呟くと、クロユリさんが満面の笑顔を浮かべながら、肩に乗っている森の精霊ドライアドの下顎を軽く撫でる。
「はい! 私とドラちゃんの力があれば、防壁位簡単に築くことができます! ノース様のお力になればと思ったのですが……ダメでしょうか?」
「そ、そんなことないよ! それじゃあ、クロユリさんにお願いしようかな? いいですよね。アメリアさん?」
「ええ、まあ、そうですね。若干、心配もありますが……まあいいでしょう」
お父さんの側近であるアメリアさんの許可も得た。
クロユリさんがなにをするのかはわからないが、街を囲う防壁は既にボロボロとなっており、防壁としての意味合いはほぼ無いといっても過言ではない状態だ。
これ以上、悪くなることはないだろう。
「それじゃあ、一度、街の外に出ようか」
「はい!」
そう言うと、僕達はこの場所を離れ、街の外へと向かおうとする。
すると、ナビさんが視界に文字を浮かべてきた。
<ノース様。なにか嫌な予感がします。念のため、この場にマッシュルーム・アサシンを数体配置してもよろしいでしょうか?>
えっ、マッシュルーム・アサシンを?
別に構わないけど……。嫌な予感ってなに?
<それはわかりません。しかし、ナビの予感はよく当たるのです。それでは、マッシュルーム・アサシンを数体、この場に配置させて頂きます。ノース様さえ良ければ、この街全体に配置することもできますが、いかが致しますか?>
う~ん。どうしようかな……。
現状、街の防壁は役に立たない状態にある。
門番の人達も柄が悪いし、街の中を見回る兵士も床に伏せっている。
それじゃあ、お願いできるかな?
もしマッシュルーム・アサシンが足りないようなら、ギフトポイントを使ってくれても構わないからさ。
<はい。承知致しました>
そう文字を浮かべると、ナビさんはギフトポイントを使い、マッシュルーム・アサシンを召喚していく。
召還していくといっても、マッシュルーム・アサシンが目の前に現れる訳ではない。
視界にそう表示されているから、そのことがわかるだけだ。
マッシュルーム・アサシンに患者と街の警護を任せると、僕達は街の外へと向かうことにした。
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