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第三章 ホオズキの街
第84話 パナシーアタケをもって街に帰ってきました②
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「さて皆様。こちらがパナシーアタケを煮詰め成分を抽出した万能薬です。どうぞ、ご賞味下さい」
「はい。それでは、遠慮なく……」
コップに入った万能薬の匂いを嗅ぐと、まるで上質なスープのような芳醇とした香りが鼻孔をくすぐった。
色も琥珀色に澄んでおりとても美味しそうだ。
とても万能薬であるようには見えない。
まだ温かい万能薬入りのコップに口を付けると、芳醇な香りと出汁の効いた深みのある味わいが口の中一杯に広がっていく。
「……美味しい。万能薬ってとても美味しいんですね!」
「えっ? ああ……え、ええ、そうなんですよ! あれ、おかしいな? この万能薬、そんなに美味しかったですか?」
「はい。まるで上質なスープを飲んでいるような味わいでした! デネブさんも飲んでみてはいかがですか?」
僕が万能薬を飲むよう進めると、デネブは苦笑いを浮かべる。
「い、いえ、私は既に万能薬を飲んでおります。これ以上飲んでは、病に苦しむ街の方々に申し訳が立ちません。それに皆様はまだ万能薬を飲まれていなかったでしょう? この街で病が流行っている以上、万能薬を事前に飲み予防に努めることは非常に大切なことです。そのために、私は皆様に万能薬を飲んで頂いたのですから……」
「そうですか……そうですよね! デネブさんの言う通りです!」
言われてみればその通りかもしれない。
いくら万能薬が美味しく芳醇な味わいだとしても、街の人達に配る万能薬の量を味見なんかで減らすことはできない。
万が一、味見をしたばかりに万能薬を飲むことができず、それが原因で助かるはずだった命を取りこぼしては目も当てられない。
「それにしても、この万能薬。本当に美味しいですね。なにか味付け等されたんですか?」
アメリアさんも万能薬の味の秘密が気になるらしい。
「い、いえ、特になにもしておりません。私はパナシーアタケを煮詰めただけですので、素材本来の味かと思われます」
「そうですか……オーダー様にいいお土産話ができました」
「はい。オーダー様にもよろしくお伝え下さい。それで、皆様。体調に問題はありませんか? 例えば、喉がイガイガするだとか、身体が怠く風邪の症状が出始めたとか……」
「いえ、特にありませんが……」
アメリアさんとクロユリさんに視線を向けるも、二人ともそんな症状が出ている素振りは見られない。
「そ、そうですか……万能薬を飲んだ方の中にはごく稀にそのような症状を訴える方もいらっしゃいますので気になりまして……症状が出ていないのであれば問題ないのです。症状が出ないのであれば……」
デネブはそう言うと、ポケットからハンカチを取り出し、額に浮かべた汗を拭いた。
「へえ、そうなんですか……」
「は、はい。そうなんですよ。それじゃあ、街の人達に万能薬を配付すると致しましょう!」
そう言うと、デネブは万能薬を小さな瓶に入れていく。
「デネブさん、僕達も手伝いますよ」
「ああ、ありがとうございます。それでは、お願いしてもよろしいですか?」
「はい。もちろんです!」
デネブからお玉を受け取った僕は、テーブルに用意されている瓶に万能薬を注いでいく。
「ノース様。私も手伝います」
「うん。ありがとう。クロユリさん。それじゃあ、万能薬を注いだ瓶に蓋をしてくれないかな?」
「はい! 私に任せて下さい!」
クロユリさんは僕から万能薬を受け取ると、嬉しそうな表情を浮かべながら瓶の蓋を閉めていく。
途中、クロユリさんが愛の共同作業とかよくわからない言葉を口にしていたような気がしたけど、とりあえず、聞かなかったことにしておいた。
もしそれを指摘して、万が一、そんなこと私は言っていませんと否定された場合、恥ずかしいからだ。
「さて、これで全部ですね。それでは、早速、街の皆さんに万能薬を配ると致しましょう」
蓋を閉めた万能薬を丁寧にバックに詰めると、アメリアさんはデネブに視線を向ける。
「はい。皆様の下にご案内致します。この万能薬を飲めば、一日と係らず病状は回復に向かうはずです。それでは皆さん、私に着いてきて下さい」
「わかりました」
万能薬の入ったバッグを肩にかけ、デネブに着いて行く。
白い建物の中に入ると、そこには多くの人がベッドに横たわり苦しみ喘いでいた。
「……酷い状況ですね」
「ええ、しかし、皆様のお蔭で万能薬を用意することができました。本当にありがとうございます。流石は、オーダー辺境伯の使い。やはり、オーダー様は私達を見捨ててなど、いなかったということですね!」
デネブが不思議な位、大きな声でそう言うと、病に侵された人々が僕達のことを睨みつけてきた。しかし、体調が優れないようですぐに視線を逸らし、ぐったりとした表情を浮かべる。
「……皆様、オーダー辺境伯に見捨てられたと思いこんでおりますからね。仕方のないことです。しかし、私達にはこの万能薬があります! この万能薬があれば、病などいちころです! 皆様。オーダー辺境伯の使者様が万能薬を持ってきて下さいました! ありがたく頂戴致しましょう!」
デネブがそう大きな声を上げると、僕達は一人一人の患者に万能薬の瓶を渡していった。
「はい。それでは、遠慮なく……」
コップに入った万能薬の匂いを嗅ぐと、まるで上質なスープのような芳醇とした香りが鼻孔をくすぐった。
色も琥珀色に澄んでおりとても美味しそうだ。
とても万能薬であるようには見えない。
まだ温かい万能薬入りのコップに口を付けると、芳醇な香りと出汁の効いた深みのある味わいが口の中一杯に広がっていく。
「……美味しい。万能薬ってとても美味しいんですね!」
「えっ? ああ……え、ええ、そうなんですよ! あれ、おかしいな? この万能薬、そんなに美味しかったですか?」
「はい。まるで上質なスープを飲んでいるような味わいでした! デネブさんも飲んでみてはいかがですか?」
僕が万能薬を飲むよう進めると、デネブは苦笑いを浮かべる。
「い、いえ、私は既に万能薬を飲んでおります。これ以上飲んでは、病に苦しむ街の方々に申し訳が立ちません。それに皆様はまだ万能薬を飲まれていなかったでしょう? この街で病が流行っている以上、万能薬を事前に飲み予防に努めることは非常に大切なことです。そのために、私は皆様に万能薬を飲んで頂いたのですから……」
「そうですか……そうですよね! デネブさんの言う通りです!」
言われてみればその通りかもしれない。
いくら万能薬が美味しく芳醇な味わいだとしても、街の人達に配る万能薬の量を味見なんかで減らすことはできない。
万が一、味見をしたばかりに万能薬を飲むことができず、それが原因で助かるはずだった命を取りこぼしては目も当てられない。
「それにしても、この万能薬。本当に美味しいですね。なにか味付け等されたんですか?」
アメリアさんも万能薬の味の秘密が気になるらしい。
「い、いえ、特になにもしておりません。私はパナシーアタケを煮詰めただけですので、素材本来の味かと思われます」
「そうですか……オーダー様にいいお土産話ができました」
「はい。オーダー様にもよろしくお伝え下さい。それで、皆様。体調に問題はありませんか? 例えば、喉がイガイガするだとか、身体が怠く風邪の症状が出始めたとか……」
「いえ、特にありませんが……」
アメリアさんとクロユリさんに視線を向けるも、二人ともそんな症状が出ている素振りは見られない。
「そ、そうですか……万能薬を飲んだ方の中にはごく稀にそのような症状を訴える方もいらっしゃいますので気になりまして……症状が出ていないのであれば問題ないのです。症状が出ないのであれば……」
デネブはそう言うと、ポケットからハンカチを取り出し、額に浮かべた汗を拭いた。
「へえ、そうなんですか……」
「は、はい。そうなんですよ。それじゃあ、街の人達に万能薬を配付すると致しましょう!」
そう言うと、デネブは万能薬を小さな瓶に入れていく。
「デネブさん、僕達も手伝いますよ」
「ああ、ありがとうございます。それでは、お願いしてもよろしいですか?」
「はい。もちろんです!」
デネブからお玉を受け取った僕は、テーブルに用意されている瓶に万能薬を注いでいく。
「ノース様。私も手伝います」
「うん。ありがとう。クロユリさん。それじゃあ、万能薬を注いだ瓶に蓋をしてくれないかな?」
「はい! 私に任せて下さい!」
クロユリさんは僕から万能薬を受け取ると、嬉しそうな表情を浮かべながら瓶の蓋を閉めていく。
途中、クロユリさんが愛の共同作業とかよくわからない言葉を口にしていたような気がしたけど、とりあえず、聞かなかったことにしておいた。
もしそれを指摘して、万が一、そんなこと私は言っていませんと否定された場合、恥ずかしいからだ。
「さて、これで全部ですね。それでは、早速、街の皆さんに万能薬を配ると致しましょう」
蓋を閉めた万能薬を丁寧にバックに詰めると、アメリアさんはデネブに視線を向ける。
「はい。皆様の下にご案内致します。この万能薬を飲めば、一日と係らず病状は回復に向かうはずです。それでは皆さん、私に着いてきて下さい」
「わかりました」
万能薬の入ったバッグを肩にかけ、デネブに着いて行く。
白い建物の中に入ると、そこには多くの人がベッドに横たわり苦しみ喘いでいた。
「……酷い状況ですね」
「ええ、しかし、皆様のお蔭で万能薬を用意することができました。本当にありがとうございます。流石は、オーダー辺境伯の使い。やはり、オーダー様は私達を見捨ててなど、いなかったということですね!」
デネブが不思議な位、大きな声でそう言うと、病に侵された人々が僕達のことを睨みつけてきた。しかし、体調が優れないようですぐに視線を逸らし、ぐったりとした表情を浮かべる。
「……皆様、オーダー辺境伯に見捨てられたと思いこんでおりますからね。仕方のないことです。しかし、私達にはこの万能薬があります! この万能薬があれば、病などいちころです! 皆様。オーダー辺境伯の使者様が万能薬を持ってきて下さいました! ありがたく頂戴致しましょう!」
デネブがそう大きな声を上げると、僕達は一人一人の患者に万能薬の瓶を渡していった。
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